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4−29 ジェシカとニーナからの提案(1)

 王城での先の詮議から十日後、ジェシカ王女とニーナ・バンドロンから飛行船建造に関する事前調査及び王国でのその実現の可能性についての報告会開催の準備が完了したため、関係者を集めて欲しいとの依頼がフラウ王女にもたらされた。

 予定より少し早い報告書のまとまり具合に、フラウは破顔しながらも、

 ” 不可能という答えじゃないよな ”

とおそるおそる聞いてみた。


「結論から、言います。可成り大掛かりなプロジェクトになりますが、不可能ではありません。その条件は詮議の席上で皆さんに報告します。最終的には、王国としてどこまで本気でこれに取り組むかにかかっています 」


 ジェシカ王女からその報告を聞くなり、フラウ王女は早速明日にでもスチュワート摂政に緊急召集してもらうことにした。そして、ジェシカ王女とニーナに詮議出席者のために簡単な図とか絵とかも挿入してくれと追加した。


「大丈夫です、そのつもりで準備しておりますので 」


 ジェシカ王女は自分がたまたま興味があって勉強していた錬金術(れんきんじゅつ)が、王国の一大事に役に立つかもしれないと考えると、こうなることが、あらかじめ自分達に与えられた運命だったのかもしれないと、そう思えた。


 フラウ王女は妹のジェシカ王女をこのような争い事に巻き込みたくなかったのが本音であったのだが、背に腹はかえれず彼女達に丸投げしていたことを申し訳なく思っていた。

 ジェシカ王女は姉の心を読んだわけではないのだが、いつもフラウ姉に守られているだけの妹では申し訳なく、今回は独り立ちする絶好の機会だとも考えていた。


「これまでずーとご両親やお姉様にだけ重い荷物を背負わせてきました。私には剣は持てませんから、私の出来ることでお役に立ちたいと思います 」


「有難う、そう言ってくれると私の気持ちは少し楽になる 」


 今回、ジェシカとニーナの調査内容や報告書など見ていて、正しい知識に裏打ちされた戦術や戦略の立案は一万の軍勢に匹敵するのではないかと改めて感じさせられたフラウ王女であった。


 戦略立案は経験と幅広い見識と決断力によってなされるが、このような研究開発に関しては正確な知識と未来を予見する見識に裏打ちされることによって、初めて完成させることが可能になることなのかもしれないと、フラウ王女は、改めて理解した。


 剣の試合にしても、戦略とまでは行かないまでも戦術に関しては両者が対峙する前からその駆け引きは始まっている。いわゆる場所とか地形とか太陽の位置とか、更には風向きとか。勢力伯仲(せいりょくはくちゅう)の剣の相手の場合は、特にそうであろう。

 そして一手一手が終わるごとに次の戦術もそれに応じて変化していく。。


 しかし剣や槍で戦う方法は、もう明日にでも時代遅れになってしまうのはほぼ確実である。他ならぬフラウ自身がその最も強力な牽引者となってしまうことにまではこの時点では考えが及んでいなかった。


 フラウ王女は、ジェシカ王女が嫁いだ後のことを考えると、今回のように広範囲でかつ詳細な学術的調査が必要となった場合のこれからの王国に少し不安を感じ始めた。

 フラウ王女から見たこの頃のジェシカ王女は妹というより、座学や錬金術(れんきんじゅつ)の大先生である。妹の結婚は極めて喜ばしいが、強力な戦力を手放すことにもなる。

 自分のわがままな部分では、その感情がせめぎ合っていた。


 ジェシカ王女には姉フラウリーデがニーナの城勤めの話を持ち出した時、既に姉の考えを大凡(おおよそ)理解していた。ここ数ヶ月のニーナとの共同作業で、彼女であれば自分より遥かに優れた存在になってくれると確信するに至っていた。

 自分のことに話が飛んでしまったのでニーナは真っ赤な顔をして、

 ” ジェシカ王女様が私を導いてくれているのです ”

と言い訳をしたものの、あまり効果はなかった。

 この頃になると、ニーナ・バンドロンの博識さは城内でもかなり有名になりつつあった。


 トライトロン王国に来るまでのニーナは知識はあっても、その使い道を知らない、いやそういう場面に出会えずにいた普通の娘であった。この王国に来て、王国には自分で見れる好きな蔵書が無尽蔵に存在しているばかりでなく、自分の知識を王国が必要としてくれていることがわかってとても嬉しかった。


「ジェシカ王女様が私を導いてくださっているからですよ 」


「ニーナ!ニーナの能力は毎日一緒に暮らしている私が一番良く分かっているつもりだ。それが間違っていると言うなら、私の目が節穴だと言っていることになってしまうんだけど、、、」


「ジェシカ王女様、だんだんフラウ王女様の話し方に似て来ていますが、、、 」


 ジェシカ王女自身いつまでもおフラウ王女の翼の下で守られてばかりいてはいけないと最近思うようになってきていた。恐らくそれは、この王国で自分の能力を頼りにしてくれる姉がいて、それをいつも陰で見守ってくれる卑弥呼がいるから、そう感じれるようになったのかもしれない。


「私は、ジェーシーを何時までも私の翼の下で守ってやりたいと思っていたのだが、ジェシカにも素敵な白馬の王子様ができたようだから、そろそろ私も覚悟を決めないとな、、、」


 途端にジェシカは真っ赤な顔をして、ボロー王子様とは、時々お手紙の交換を行っているに過ぎませんと言ったが、その言葉は二人に対して何の説得力もなかった。


 ほう、まだ何ヶ月も経っていないのに、もう何度も手紙の交換を行っているのか?この分だと、私より結婚が早くなるかもな?と逆にフラウ王女から冷やかされてしまった。

 

「お姉様!あまり揶揄(からか)わないでください 」


 こういう冗談事を言って笑っていられるのも、そう長くないかも知れないとフラウは感じ、今日明日の平和を一層大切にしようと考えた 。

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