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4−27 ハザン帝国飛行船破壊計画

 フラウリーデ王女は何かを思い詰めたような表情をしていた。彼女は今、もう一つの自分の考えを心の中で反芻(はんすう)していた。それは、トライトロン王国において早晩の飛行船建造が短期間では不可能と最終判断された場合、大量の飛行船がハザン帝国において完成する前に、その飛行船とその研究施設をことごとく破壊しようと考えであった。


「ハザン帝国の飛行船と研究施設を破壊するのですか?」


 ジェームス参謀長の問いに、フラウ王女は、例え後世の歴史家の誰もが自分を誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)しても、既にその覚悟はできているとつぶやいた。

 戦争は一度始めた以上、勝たなければ何の意味もない。

 王国の兵隊と民を守るためには、ハザン帝国の侵略に勝つしか外に方法はない。そして勝利しさえすれば、その後から正義はついてくるはずである。

 エーリッヒ将軍及びラングスタイン大将の二人も最悪の場合そうするしかないと踏んでいた。


 先のハザン帝国の侵略戦争、彼らは一方的に理由も無く仕掛けてきたものだったが、もしあの時トライトロン王国が負けていれば、恐らくハザン帝国が正義の国となっていた可能性が高い。

 今度はトライトロン王国がハザン帝国に侵略を仕掛けたとしても、帳消しということで、最終的には勝つか負けるかである。

 戦争で正義を唱えるためには、常に勝ち続けしか方法はない。一旦負ければ、過去の栄光は全て否定されてしまうことになる。


 エーリッヒ将軍は、フラウ王女の言った飛行船をどのようにして無力化するかの方法については何も聞かないまま、

 ” これはあくまでも私の推測ですが、フラウ王女様と精鋭の数名で飛行船の十機程度であれば、どうにでもできるでしょうな ”

と呟いた。


 これは申し訳ない。少し口が滑ってしまいました。

 ラングスタイン大将も、確かにそれくらいならどうにかなりそうだとと同意した。


 フラウ王女はニヤリと笑うと、少し考えるような素振りで、

 ” 将軍達は私を()き付けているのかな?"

と言いながら、将軍が暗示したその一言が今まで八方塞がりであったフラウ王女の気持ちに風穴を開けてくれたような気がしていた。


 確かに、飛行船建造を阻止するためだけであれば、王国の兵士を引き連れて進軍するまでもないことを、自分以外の人間が考え至ったのが極めて強い味方を得たような気がしたからだ。

 かつて、将軍達の家族を救う為にハザン帝国へ侵入した時の殺戮光景を思い出しながら、今度は相手が飛行船だから少しは気が楽だと考えることにした。


「飛行船を破壊することが可能だと仮定して、それに端を発し、再び大掛かりな戦争の勃発が心配されませんか?」

 ジェームス参謀長は少し不安そうな顔でそう発言した。


「ジェームス参謀長の危惧(きぐ)もよくわかる。ここは慎重な判断を下さなければならないとは思っている。あくまでも最悪の事態の時の判断だ。今すぐに実行するというわけではない。摂政殿!引き続き諜報員の調査の継続をお願いします 」


 フラウ王女は詮議が終わり自分の部屋に戻った。そしてハザン帝国の飛行船建造の進捗状況とトライトロン王国の調査状況を併せて考えていると、彼女は益々焦りと焦燥感を感じないではいられなかった。

 加えてハザン帝国の飛行船に使用する空中に浮かせるために使用されているという空気より軽いガスが一体どういうものかも気にかかる。ハザン帝国がそれをあの『 黒い水 』から得ているとの情報はほぼ確実のようである。


 王城内の黒い水の出る大井戸はハザン国撃退後に完全に埋め尽くしてしまったことをフラウリーデは思い出した。

 あの時、卑弥呼の呼びかけもあって、黒い水がこれからのトライトロン王国の行方を決めるような危険なものであると判断し、少なくとも王国側から積極的に戦争用の武器は作らないと決めて埋め立ててしまった。


 しかし既にハザン帝国では、黒い水を戦争用の武器として使う準備を始めていることが判り、

  ” 埋めない方が良かったかも ”

と少し複雑な心境になっていた。

 実際には黒い水の井戸を埋めなかったとしても、トライトロン王国で飛行船が最初に完成することは無かったはずである。井戸を埋めたのはつい最近のことである。


 頃合いを見計らったように、義姉卑弥呼からの思念が入ってきた。

 

「そう深刻に考える必要はないぞ!フラウ?わしがお前に言ったのは、お前のことを侵略者呼ばわりされたくなかっただけで、あの井戸を掘り返すのはいつでもできるし、まだ今の段階ではあのような大きな井戸の必要はあるまい 」

・・・・・・・!

「そう!必要になったらいつでも掘り起こせば良い、、、。あの石油はもっと他の方面に利用すべきで、ジェシカ王女達が必ず導いてくれるはずじゃ 」


 ハザン帝国での飛行船建造進行状況がかなり進んでいるとの情報が入り、少し焦ったフラウ王女の思念が卑弥呼にも伝わってしまったようである。

 

「ハザン帝国が黒い水を戦争用に応用し始めたとなると、トライトロン王国が王国と近隣諸国を守るために黒い水を使用する大義名分は出来たことにはなりますが、、、」


「それはそうじゃが、何れにしても結論はジェシカやニーナを信頼して調査結果を待とうではないか?きっと良い答えを出してくれるはず 」


 フラウが感じる限り、卑弥呼は既にジェシカ王女やニーナ・バンドロンの調査報告の内容をある程度予測できているような返答ぶりであった。


 それでも最悪の事態を予測し、フラウの計画したゲリラ戦法によるハザン帝国の飛行船破壊並びにその研究所の破壊計画も具体的に立案しておく必要はありそうであった。

 フラウ王女は最終的に実行するかどうかについて、ジェシカ王女達の調査結果次第で考えようと結論付けた。

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