4−24 卑弥呼女王の攘夷
勘のいい卑弥呼は、わざわざ水鏡を使ってまで連絡してきたのは刀(katana)の話だけでは無いのじゃろうとフラウ王女の真意を聞いてきた。
実際、フラウ王女が卑弥呼義姉に相談したかったのは、ニーナ・バンドロンの件であった。彼女がやがて蔵書館の秘密に完全に到達するであろうことと、もう既に蔵書館の重要な秘密をも薄々勘づいてしまっている事実に関してであった。
当初、ニーナに対して上司と部下のような関係で、本人が望んでいることであれば、生涯彼女が独身を通そうと、むしろ自分には都合のいいことだと考えていた。
しかし、最近ニーナとの接触頻度が増える度に、自分は彼女にとんでもなく重い枷をつけようとしているのではないかと考え始めていた。それは、恐らくニーナのことを自分の身近な人間と考えるようになったためのフラウ王女の心の変化なのかもしれなかった。
「そんなに勘が鋭い娘ならいずれ完全に気付くだろうな 。あの蔵書の中に記載されておる王国の未来に起こるであろう内容についてもな、、、」
「もう、ある程度理解しているようです 」
「お前とジェシカが信頼して任せているようだから大丈夫だとは思うが、世の中はそれだけで動いているわけではないのでのう 」
「と言いますと、、、ニーナが王国を裏切るかもしれないということでしょうか?」
「それだけとは限らんじゃろう!裏切りを強要させられるとか、、、?」
・・・・・・・!
「フラウの住んでいる世界を滅亡させないためにも、最悪は彼女にはその世界から消えてもらわなければならなくなるかもな、、、まあそれは冗談じゃが、わしが見る限り彼女にその心配はないようじゃな、、、」
卑弥呼は、最近フラウ王女のところに多彩な人間が集まり始めたことに、今後トライトロン王国が大きく変化していくであろうことを感じ取っていた。そして、その者達に支えられながら一大王国を築いていくであろうことも実感していた。
「フラウの方がジェシカよりもよっぽど人誑しだったのかもな、、、」
最近、フラウ自身がこの王国を治めることになるであろうと意識し始めたせいか、あるいは卑弥呼の思念が入り込んでいるせいか、王国を守り発展させるためには有用な人材が欠かせないのを強く感じ始めていた。
仮りに自分自身がいくら有能であったと仮定しても、所詮7人の知恵者には対抗できる訳が無いこと位は十分に理解できる程にはフラウ王女も大人になりつつあった。
「ああ、そうじゃ忘れるところだった。実はな邪馬台国の姫巫女が九郎兵衛と結婚したのじゃ。近い内に邪馬台国女王の座を姫巫女に譲ることになると思う 」
「もう、攘夷なされるのですか?それに九郎兵衛殿はお義姉様の、、、」
「何を言っておる。わしは千年以上もの間働いてきたのだぞ、、、それに何を一人走りしてるんじゃ、フラウ!わしは九郎兵衛をわしの思い人とかいった覚えはないのじゃが、、、」
・・・・・・・!
「それに、一人残される身は辛いからのう!」
ここに至って、フラウは卑弥呼義姉から揶揄われていたことを知ったが、その卑弥呼の心の奥に自分の不死に対して暗い闇を抱えているような気がして、自分が卑弥呼のその闇をほんの少しでも照らす存在になれたらと思った。
「フラウは優しいのう!わしなら大丈夫じゃ。それにしてもフラウがもう少し大人だったら、わしの冗談が直ぐに分かったのじゃろうが、、、」
最近フラウ王女は、未だはっきりとは見えてはいないが、恐らくトライトロン王国に更なる脅威が降り掛かるのではないかという不安が拭いきれないでいた。それはフラウの頭の何処かにいつも存在して、時に大きく頭をもたげてくるハザン帝国の飛行船のことであった。
平和利用のための飛行船建造ならむしろ歓迎であるが、将軍や大佐から聞くところによる話では、軍事目的であるのはほぼ確実で、実際ハザ帝国に放っている諜報員からの報せでもそのことは間違え用のない事実だと考えなければならない、
「ニーナやジェシカは恐らく科学や化学分野で天才的な能力を持っていると信じていますが、あまりにも許された時間が少な過ぎるのです 」
・・・・・・・!
「こんな時にお義姉様がいてくれたらと、叶わない願いを募らせておりました 」
最近、父のスチュワート摂政の所に入ってくる諜報員からの情報の中にはハザン帝国の飛行船に関することが多い。もうこの時点では、ハザン帝国の飛行船の第一攻撃目標はトライトロン王国であり、王国を撃破した後は、プリエモ王国などの近隣国へも侵攻し、全世界を傘下に収めるのが最終目的ではないかとの情報までも舞い込んできていた。
しかし、その一方でハザン帝国の庶民の暮らしは日を重ねるごとに悪くなり、特にトライトロン王国に敗けた以降は、日に日に餓死者の数も増加している。
ハザン帝国軍幹部の狙いの構想は、トライトロン王国の豊かな食料にあり、まずトライトロン王国を占領し、十分な食料を得てから更に近隣諸国に攻め込むという、一種の神頼みに近い戦略構想に近かった。
それを聞いたスチュワート摂政は、
” 他国の食料をあてにして進軍するなど、正に敗戦間近の国が食糧難で兵士に現地調達の指令を出すようなものだな ”
とその気狂いじみた構想を一笑に伏したという。




