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4−23 フラウ王女の卑弥呼への頼み事

 ジェシカ王女は、フラウ王女が二人に依頼していた飛行船の研究開発に関する調査が最終段階に至ったことを感じていた。調査の途中ではその内容に驚き感心しながらも、迫り来る時間と調査すべき内容の多さに焦りを感じたことも多かった。

 

「処でジェシー、ニーナ!飛行船建造計画の調査の進行状況はどんな風だ?」


 ジェシカ王女は、自分達の調査の進行状況について報告を始めた。

 現段階では、調査内容のまとめの最終段階に入っているものの、これまでの調査結果から考えると、自分達の知る限り、これからは知識も技術も全く存在していなかったことを実現していかなければ目的は達成できなくなる。そのことに関して大きな不安を抱えていた。

 そのためには王国としてのこれまでにはないほどの覚悟に加えて、ある程度の時間と莫大な経費も必要になると予測していた。


 実際には蔵書館にある蔵書内容から考えても、現在のトライトロン王国にとって常識と考えられている多くのことを、まず(くつがえ)すところから始めなければ、到達不可能な内容だとジェシカ王女とニーナは確信していた。

 それ位、トライトロン王国における化学や科学の学問は未だ未だ稚拙(ちせつ)であった。


 それでも蔵書に記載されている内容を詳しく見ている内に、実際には王国内においても錬金術師の中には水面下でこれらの真偽を探究している人物が若干名存在している事実を知ることができたのは二人にとって大きな収穫であった。


 その道の隠れた専門家を探し出し、王国の研究費用を無尽蔵に投入することが可能であれば、飛行船の開発それ自体は全く不可能では無いと思われてきた。


「恐らく、後数日程の時間があれば、全貌がまとまると考えています 」

「そうか、元々雲をつかむような話をお前達に振ってしまった訳だから、我儘(わがまま)は言わない 」

・・・・・・・!

「お前達二人に出来ないことであれば、この王国の誰にも困難であろう。悪いが、その目標で宜しく頼む 」


 フラウ王女は、自分の部屋に戻り久しぶりに水鏡(みずかがみ)を前にして、呪文を唱え始めた。しばらくすると、水の表面が波立ち始め、やがて静かになると卑弥呼(ひみこ)の顔が少しづつ鮮明に写り始めた。


「お義姉様!ご無沙汰しております。お義姉様の美しい顔を拝見できてとても嬉しゅう御座います。邪馬台国(やまたいこく)の方はどんな状況でしょうか?」

「久し振りじゃのうフラウの顔を見るのは、、、時々お主の思念が入ってきていたので、相変わらず仕事に精を出していることは分かっていたから、特に心配はしていなかったがのう 」


 フラウ王女は、卑弥呼にハザン帝国のエーリッヒ将軍の娘ニーナ・バンドロンに関して話し始めた。ジェシカ王女と同い年で、ジェシカさえも舌を巻く程の才女で、刀(katana) の鍛造のことで調査を依頼したところ、刀を作る為の原料から鍛造設備、鍛造方法などトライトロン王国には存在していない内容に関して入念な調査をしてくれことなどを、、、。


「いよいよ、フラウは刀(katana)の鍛造に入るのか?居合抜刀術(いあいばっとうじゅつ)に随分と惚れ込んだものだな!じゃが、刀を鍛造するためには特殊な鍛治職人が必要になるじゃろう?」


 卑弥呼は、刀(katana)の特性については、既に知識を有しているようであった。

 ハザン帝国で流通している刀の中でも、エーリッヒ将軍やラングスタイン大佐が所有する業物(わざもの)級になると、フラウ王女が所有する『 神剣シングレート 』のような優れた剣であっても、まともに打ち合うと、恐らく折れてしまうのでは無いかと考えていた。


 そういう意味では、武器として考えた場合、刀より優れている剣の存在は極めて少ないように思えていた。


 フラウ自身、エーリッヒ将軍の所有する刀が武器として十分過ぎるものであることは最初の立ち会いで実感していた。

 戦場で将軍と対峙した時、フラウ王女の持つ野生の勘は『 神剣シングレート 』が将軍の持つ刀によって折られることを危惧(きぐ)したのは確かだった。

 『 神剣シングレート 』であったからこそ、フラウにその危険性を教えてくれたのだと考えていた。


 とは言え、フラウ王女は今では刀(katana)を単なる殺傷用の得物(えもの)としてだけ見ているわけではなかった。むしろ芸術品としての価値も極めて高く、その美しさやその怪しさに惹かれていた。もちろんフラウ王女の持つ『 神剣新グレート 』の方がその彫り細やかさや美しさ、さらにはどのような年月を経ても褪せない色などの価値は比較するべきものではなかった。


 一方で得物(えもの)に対する武人の思い入れの部分では、エーリッヒ将軍とラングスタイン大将の刀の可愛がりようは特別であった。二人は暇を見つけては刀の手入れに余念がなかった。そして彼らは手入れしながら刀に語りかけていた。まるで恋人に語りかけるように、そして大事そうに磨き上げていた。


「それでも、既に戦争のあり方も少しづつ変化してきており、鍛造方法も使い方も難しい刀(katana)はこれからは急速に(すたれ)れていくじゃろうな。フラウの王国で刀が作れる技術が継承されたとしても、、、」

・・・・・・・!

「分かっております。だからこそ私は今のうちに王国内で刀(katana)を作れるようになり、その技を継承させていきたいのです 」


「そういえば、どこかの国では飛行船がたくさん飛び交う時代となっても、刀は芸術品として大事に保管されていると聞いたことがあるぞ、、、」

・・・・・・・!

 卑弥呼自身も、刀を単なる殺生の道具としてだけではなく、芸術品として完成させるのは面白い考えかもしれないと考えていた。

「やはり、お義姉様はあの刀の行く末をご存じなんですね!」

「いや!まあ、何かの蔵書でちらっと見ただけじゃ、、、」


 と卑弥呼は笑いながらその話を打ち切った。

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