4−22 ニーナと蔵書館の秘密
フラウ王女とニーナ・バンドロンはエーリッヒ将軍の元を離れ、王城に向かって戻り始めた。一緒に並んで歩きながら、フラウ王女はこれからニーナに課せられるであろう運命について話し始めた。そう、あの蔵書館に保管されている蔵書には大きな秘密があって、蔵書館長に就任した場合、終生その職を担ってもらう必要が生じるであろうということを、、、。
フラウ王女はニーナや将軍に対し申し訳ないと思いながらも、トライトロン王国の抱える極めて重大なあの蔵書館の秘密に関しては、決して無視できないほど重要なことだったので、この機会にある程度は彼女に先に話しておくべきだと考えていた。
実際、この蔵書館に関する秘密をニーナが完全に知った場合、王城に縛り付けるしか手段は無くなることは確実であった。
ニーナ・バンドロンがこの王国の蔵書館の責任者を引き受けた時点で、ニーナの人生はほぼ決まってしまう。仕事以外でこの王都外に出ることも早々はかなわなくなるだろう。
「ニーナが蔵書館の仕事引き受けるということは、それは柊生自分を蔵書館に縛り付けることになってしまであろう」
「それは、もしかしてあの蔵書館にある蔵書の重大な機密性からでしょうか?」
「そうか!もうニーナは薄々感じていたんだな、、、!」
フラウ王女は、王国蔵書館の重大な秘密についてニーナ・バンドロンに全てを話すべきかどうかをずっと迷っていた。そしてその結論が出せないまま今日に至っていた。フラウ王女がいくら王国の第一王位継承者であるとはいえ、何の罪もない若いニーナから、読書以外の自由を全て奪い取ってしまうかもしれないという考えが、命じるべき決断を鈍らせていたのだった。
それでも、ニーナ自身のその言葉を聞いてフラウは、彼女がその本質に気づくのももう時間の問題だと感じた。
やがてニーナは蔵書館の秘密を完全に知ることになるであろう。その時にニーナ自身がその蔵書を守り抜く覚悟を決めるまでもう少し待つことにした。
それでも、若い彼女のこれからの選択肢に大きな制限を設けることになる可能性に関しては、ある意味理不尽さを強く感じないではいられなかった。
しかし、ニーナの答えは極めて簡潔であった。
「分かりました。私は素晴らしい蔵書さえあれば、殿方などどうでも良いのです 」
フラウ王女は、その内好きな男ができたら変わる可能性も否定できないと思ったが、そうあって欲しいような欲しくないような複雑な気分になった。
そうこう話している内に、城の入り口に着いた二人はジェシカ王女の部屋へと戻って行った。
初めてのこのような豪華な身だしなみをさせてもらったことを大変ありがたく感謝していたが、ニーナにとって、その格好では蔵書やメモ書きの仕事に差し支えが出るのは疑いようもなかった。そして、可能であれば、元の服装に戻して欲しいと考えていた。
ニーナ・バンドロンは頭のキレも良く、相手を理詰めで追い込むことは恐らくそう難しいことでは無かった。しかし自分のことを思ってくれている王女達や女王にそうすることは憚られた。
それでも背に腹はかえれないと、意を決して
” どうか、以前の服装に戻すことは許されませんか?フラウお義姉様だって、普段は騎士服を召されていますし、稽古の時は稽古着に着替えられます ”
と、フラウ王女の痛いところをついた。
フラウ王女は、ニーナ・バンドロンの気持ちが良く理解できたし、かと言って、両親の喜んでいた今朝の様子を思い浮かべながら、すぐには返答ができずにいた。
「そうは言ってもな!女王の計らいだから全く無視するわけにも行かないし、困ったな。ニーナの気持ちは私には非常に良く分かるのだが 、、、」
そこでジェシカ王女が助け舟を出した。
「お姉様?日頃は仕事し易い服装で、皆んなで揃って食事する時などには着替えるということではどうでしょうか。私もそうするように努力しますので 」
そこら当たりが、今回の落としどころのようである。
実際、ニーナ・バンドロンが一旦仕事に没頭すると、なり振り構わず、古い蔵書を1日に何冊も、何百ページもめくり、何十枚もメモを取っていく。そうすると必然的に着ている服は埃やインクで汚れてくる。
ジェシカ王女も最近では、作業のし易い服に代えている。日頃は身につけている王女としての装飾品なども今はすっかり取り外している。まして、元々そのような服装に慣れていないニーナ。バンドロンが服を替えたいという考えには、フラウ王女も納得しない訳には行かなかった。
「ああ!ジェシカ、蔵書館勤務の件に関しては先ほどエーリッヒ将軍の了解ももらえた。明日からでも構わないとのことであった 」
「分かりました。ありがとうございます。しかし、ここ数日はニーナが家から通うことは難しいのではないかと思っています。調べ物が立て込んでおりますし、できる限り報告書の最終取りまとめを急ぎたいと考えていますので、、、」
「そうか!具体的な日程については、全て二人に任せる 」




