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4−21 あのエーリッヒ将軍が驚いた

 朝食が終わり、着飾ったニーナ・バンドロンはフラウ王女に連れられてエーリッヒ将軍に会いに行った。

「フラウ王女様!今朝はどういったご用件で?」


 フラウ王女は、ニヤリと笑うと、

 ” 今日は、このお嬢さんを将軍に紹介したいと思ってな、嫌がる彼女を無理に連れて一緒にわざわざやって来たんだが、、、"

と言った。


 将軍はフラウ王女が連れてきたその娘をじっと見ていたが、たちまちその顔は驚愕(きょうがく)に変わってしまった。

「本当にニーナなのか?一体どうしたんだ、その姿は?」

「お父様、やっぱり私には似合いませんか?」


 意表を突かれたエリッヒ将軍は、驚きで目が見開かれていた。そして、自分の娘が、このように整った顔をしていたことに驚き、最初はどこかの姫様ではないかと思っていた。


「ほら、ニーナ!お父様もあんなに喜んでおられる。これからは、王城勤めにもなることだし、少しは我慢してたまには着飾らないとな 」


 フラウ王女は、エーリッヒ将軍がある程度落ち着いたのを感じると、今日ここにやってきた理由を話し始めた。

 将軍は、フラウ王女の悪戯に、

 ” 立ち合い以外だったら、何でも!”

と応じた。

 こうなると、一転して形勢が逆転した。年齢も人生経験も長いエーリッヒ将軍にフラウ王女が敵うわけもなかった。

「それは、聞き捨てならないぞ。立ち会いは受けてもらわなければ困る。私の剣を受けれるのは将軍以外にはいないんだから!」

 今度は、フラウ王女があわてる番である。

・・・・・・・!

「冗談ですよ!フラウ王女様が娘のことで、意表を突いたのでちょっと意地悪を言ったまでです。むしろ王女様との立ち会いは私の楽しみでもありますから、、、。


「ところで、王女様の依頼事とは一体何でしょうか?」


 フラウ王女は、ニーナに城勤めを願いたいと考えていることを父親エーリッヒ・バンドロン将軍の了解を求めた。

 主として蔵書館の責任者として、それからジェシカ王女と自分の飛行船建造計画の手助けのためにと、、、

 エーリッヒ将軍はフラウ王女の話を聞いても、正直彼女達の要求している内容が今一つピンと来なかった。召使いであれば、不器用な自分の娘よりも遥かに優れた者がいくらでも居ると思えたからだ。


「ご命令とあらば、是非もございませんが、しかし一体、うちの娘で役に立てることがあるのでしょうか?」


 フラウ王女は、ニーナに出来なければ、今この城内には誰も出来る者は居ないと言いながら、先日刀(katana) を造る為に、ハザン帝国から亡命した鍛治職人に会いに行き、その鍛治職人をその気にさせたのは、将軍の娘ニーナが作成した刀(katana)の鍛造法をまとめた書類のお陰であることを話した。


 将軍は娘が、蔵書の虫であることは知ってはいたものの、まさか刀の鍛造法(たんぞう)に関する詳細な知識までも持っていることなど、夢にも考えていなかった。

 実際、フラウ王女の話を聞いてもまだ信じられない気分の方が優っていた。


 フラウ王女は、刀の鍛造方法だけではなく今後飛行船の開発に関する調査に関しても、ジェシカ王女と一緒に担当してもらうように考えていることも打ち明けた。

 

「そうですか!娘がどの程度役に立つかは分かりませんが、喜んでお受けさせて頂きます。ニーナ?それで構わないんだよな 」

・・・・・・・!

 それとこれは別件だがと言いながら、エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐をトライトロン王国の第一軍務大臣所管の将軍とその副官の大将にそれぞれ任命することをフラウ王女は付け加えた。 


 エーリッヒ将軍は、その話を聞くなり、クロード近衛騎士隊長殿と比べると私共の功績は皆無なのが明白だとフラウの申し出を断ってきた。


「クロード近衛騎士隊長は私の婚約者で近々結婚する。そうなると摂政殿の代理を行ってもらわなければならなくなる。だからお前達が心配することではない。私とクロードが一緒に今後のことを考えた上での人事なのだ。受けてくれるな 」


 今度は、有無を言わせぬ気魄(きはく)で、

 ” これは命令だ ”

と迫った。


「フラウ王女様とクロード騎士隊長殿ご両人のご意志とあらば、是非もございません。敗残のこの身の全てをお二人にゆだねます 」


 ニーナ・バンドロンは呆然としていた。本来捕虜であるはずの父がトライトロン王国から認められ、しかも軍部中枢の重鎮で迎えてくれるという。近い将来女王として君臨するであろうフラウ王女の破天荒な考え方にはまるでついていけなかった。


 そして父親ばかりでなく、未だ何も実績のない自分迄蔵書館の館長に迎えたいと言ってくれている。ハザン帝国での自分達の取り扱いと比べてあまりにも異なる考え方には驚くばかりであった。


 ハザン帝国から自分達が亡命して来る時、正直相当な不安を感じていたのは確かだった。どうひいきめに考えても幽閉か、場合によっては拘束もありうると覚悟していた。

 フラウ王女の自分達の取り扱いに関しては、とても戦争相手国の捕虜とその家族の扱いではななかった。


「それでもフラウ王女様、色々と後々面倒なことになりませんか?私達は敵国の将軍とその娘ですよ!」

「確かに、そうだな。それでは、ニーナは私を裏切るかもしれないと言いたいのかな?」


 ニーナは、敵国将軍の娘というだけで、後々フラウ王女に迷惑をかけてしまう羽目になるかしれないのを心配していた。しかし、ニーナの心配をよそに当の本人がそうしたいと言っているのだから、なぜお前が心配すると、、、フラウはニーナの危惧(きぐ)など歯牙にもかけなかった。


 そして、

 ” その内、勘弁してくださいと言う程こき使ってやるから ”

と王女は涼しい顔をして笑った。


 ニーナにとって、ハザン帝国時代に制限されていた好きな蔵書を好きなだけ読めると考えると、好きな蔵書に囲まれていることができるなら、蔵書に埋もれながら死んだとしても決して悔いはなかった。


「蔵書は私にとって無限の喜びと希望を与えてくれます 」

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