4−19 ジェシカとニーナの戦場
王城に着くと、フラウ王女はラングスタイン大佐に礼を言ってクロード近衛騎士隊長と二人でジェシカ王女の部屋へと行った。
もちろんジェシカの部屋は蔵書と紙くずで相変わらずごった返していて、彼女達の姿は良く確認できなかったが、紙を丸める音や妙なうなり声が聞こえてくることから部屋の中にいることだけは確かだった。
「ニーナはいるか?」
蔵書と紙屑をかき分けながらニーナ・バンドロンが出てきた。
二人はその姿を見て驚いてしまった。頭に鉢巻をして現れたのだった。後ろからゴソゴソと現れたジェシカ王女もニーナと同じように鉢巻をしていた。
「ここは、まるで戦場だな!」
ジェシカ王女は、フラウ姉が戦場で剣と盾を持っているのと同じように、このペンと紙が剣と盾で、そしてこの部屋こそが自分達の戦場であると言い、少し誇らしげだった。その妹のの顔は自信に満ち、とても輝き美しくいつもより大人びて見えた。
この頃の二人はかなり根を詰めて調査業務に当たっているため、相当に疲労が蓄積しているようだが、それ以上に喜びにその顔は輝いている。その顔は自信に満ち溢れ、フラウ王女から見ても怪しく美しいと感じた。
人は誰かに頼られ、それを自分だけがなし得るかもしれないと考えた時、その喜びと自信はやはり顔に出てくるようである。
今のこの二人には、一様に自信と精気が滲み出ている。
それを見た、フラウリーデ王女は、この二人をとても美しいと思った。
「何か私に御用でしょうか?フラウ王女様!」
「なあ、ニーナ!今度からその王女様はやめてくれないか。これからはニーナとの付き合いも長くなりそうだし、、、そうだ、フラウ義姉様にしてくれ!それが良い 」
ジェシカ王女までがうんうんと頷きながら、
「私が嫁いだら、調べ物をやってくれる者が居なくなるから、ニーナ!その時はフラウ姉様を宜しくね 」
少しからかうように言った。
「まだ結婚すると決まった訳でも無いのに、そんなこと言うのはよせ。もうから寂しくなるじゃないか?」
「お姉様!冗談ですよ。私の結婚は当分先のことですよ 」
フラウ王女は今朝ニーナ・バンドロンからもらった刀の製造法に関する調査報告書に関して、感謝の言葉をかけた。そして元ハザン帝国の鍛治職人に見せたら、涙を流さんばかりに喜んでいたことも付け加えた。
実際には今日明日にでも作れると言うわけではないだろうが、原料集めや、精錬炉の製造などについては王国側が中心になって行い、それらがそろい次第、刀の鍛造を始めるように約束ができていた。
「ニーナ!本当にありがとう 」
「フラウ王女様!あっいえ、フラウお義姉様のお役に立てたのであればとても嬉しく思います。正直、目的の鍛冶屋があの内容を理解できるか少し心配していましたが、、、」
実際、その鍛治職人はニーナがまとめてくれたあの報告書を見て、確実に刀の鍛造は可能と踏んだようである。
これまで王国内での刀作りが不可能だと考えていた原料が確実に入手でき、更に『 白鋼 』を精錬するための炉も王国側が供給してくれるということで、その鍛治職人の残り火に火がついてしまった。
「あまり守備良く話がまとまったので、ちょっと拍子抜けだったが。これで無駄骨折らずに済んだ。これからも宜しくな、ニーナ! 」
「処で、今晩は久しぶりに皆んなで食事しないか?」
最近この部屋にこもりっぱなしで皆とゆっくり食事する暇もなかった。たまにはみんなとゆっくり食事するのも良い気分転換になるだろうと考えたジェシカ王女は、急ぎやりかけの仕事を終わらせて、食堂に行くと約束した。
やはり、この二人座学を得意とするだけあって、一日中蔵書と格闘していても何の違和感もないらしい。
飛行船を作る為に必要な科学者や化学者などの錬金術師の粗方のリストアップは、この二人によって既に終わりつつあり、そろそろまとめの段階に入ろうとしていた矢先であったので、夕食の誘いにも喜んで応じた。
しかし、いざ誰をその責任者にするかについては未だ試行錯誤の段階であった。資料に記載されている内容だけでは中々決め難く悩んでいた為、ジェシカ王女は皆んなと一緒に食事することで確かに気分転換になり、何かいい考えが浮かぶような気もしていた。
久しぶりに、家族全員揃っての夕食とあって、エリザベート女王とスチュワート摂政も大喜びである。この頃になると、ニーナ・バンドロンもすっかり王族の家族の仲間入りをしていた。




