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4−18 ハザン帝国の鍛治職人

 3人は、早速、最北端の隣国との国境近くにある小さな鍛冶屋を目指して馬を走らせた。そしてその鍛冶屋の前で馬を降りると戸口で声をかけた。

 中から真っ黒に火焼けしたいかにも鍛治職人風の老人が顔を出した。

 

 そして、彼の目は一瞬ラングスタイン大佐の腰に釘付けになると、慌てたようにソワソワとしだした。


 事情を理解したフラウ王女は、自分はトライトロン王国の第一王女フラウリーデで、この二人は自分の仲間だから心配することはないと、ハザン帝国の兵士ではないことを念押しした。


 その老人は少し緊張を解いて、

 ” その王女様が私に一体どんな御用で?"

(いぶか)しそうに聞いた。


 フラウは、自分の腰に差していた刀を鞘ごと抜くと、その老人に差し出した。

 老人は鞘から刀をゆっくり引き抜きながらじっと見つめてていた。そして、

 ” ハザン帝国の忍者刀 ”

とつぶやいた。


「ラングスタイン大佐、お主の剣を御主人に見せてやってはくれないか?」


 鍛冶屋は大佐の剣を手に取ると、まるで遠くに離れていた我が子が久し振りに里帰りしてきたかのように懐かしそうにじっくりと()め回すように見入ると、刀を鞘から少しづつ引き抜いて刃のそりや美しい波紋とかを確認していた。


 そして、その刀がとても素晴らしい出来で、良く手入れもされており、刀の喜んでいる声が自分には聞こえる様な気がすると嬉しそうに、言葉をくぎりながら訥々(とつとつ)と語った。そしてゆっくりと刀を(さや)に納め大佐に返した。


 フラウ王女は、ラングスタイン大佐が先のハザン帝国との(いくさ)における亡命者であることを鍛治職人に話した。


「そう言えば、そういう噂話が、、、」


 事実、フラウ王女はこの刀(katana) に高い芸術的な価値を感じていた。勿論剣である以上戦いや戦争に使われるのが主目的となるため、本来の目的を達成できない飾りだけの刀では全く価値はない。

 

「まず、私専用の刀と、ここにいる私の婚約者クロード・トリトロンの分、それぞれ一振りづつと、他に護身用の刀数本を鍛造してもらえないだろうか?もちろん鍛造所の新たな設置などの費用は全て王国が支払う 」


 しかし現実にはこの刀を作るためには特殊な原料となる砂鉄とその砂鉄を『 玉鋼(たまはがね) 』とも言われる『 白鋼(しろはがね) 』とするための特殊な精錬炉が必要となる。それに加え炭という木材を蒸し焼きしたものもトライトロン王国では一般には流通していない。

 彼が知る限りでは、それらの物は王国内には殆ど出回っていないため、まとまった数の刀を作ることは、事実上困難であろうとその刀鍛治職人は思った。


 フラウ王女は、恐らくこの中に其方(そのほう)が求める原料やその入手法などが記載されているはずだと言いながら、 ニーナ・バンドロンがまとめてくれた書類の束20枚を鍛治職人に手渡した。 


 彼は、その書類をじっくりと読んでいたが、次第にその目が光り輝いてきた。そして奥に向けて、『 おーい 』と声をかけた。中から、20歳位の若者が小走りで出てきた。


 彼は、トライトロン王国のフラウ王女様達を紹介し、『 刀(katana) 』の鍛造依頼があったことを話した。そして自分の手に持っている原料などの入手方法が記載された書類を突き出した。

「お前!挑戦してみる気はないか?」


 その若い鍛冶職人は、正直自分が死ぬまでに本物の刀を作る機会は恐らくもう訪れないであろうと、半ばあきらめかけていた。降って沸いたような王国王女の依頼で、その鍛冶職人の目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにもに見える。


 トライトロン王国の鍛冶屋にとって、現実的に最も困難なことは、刀を作るための設備や技術もさることながら、肝心な刀鋳造の原料となる砂鉄が一般には流通していないことであった。勿論王国内に全く砂鉄が存在していない訳ではいだろうが、普段ほとんど使われない為、実際には入手が困難であった。

 その為、刀の製造は事実上不可能と考えるしかなかった。


「かつて無い大仕事になるかもしれないが、お前は覚悟はできているか?少なくとも、刀(katana) の原料砂鉄の精錬と『 白鋼(しろはがね) 』の鍛造はわしとお前の長年の夢だったよな 」


「私は、この鍛治工房に出入りするようになって、親方の打ったあのたった1本の刀に魅せられ、いつかこのような日が来ることをずっと心の中で待ち望んでいました 」


 若い弟子は、正直刀の美しさと実用性にに魅せられていた。従ってその刀さえ打てるのだったら、死んでも悔いはないとまで考えるようにまでなっていた。そして今、師匠に着いてきた甲斐があったこと心底喜んでいた。

 師匠の夢はその青年にとっても生涯の夢でもあったようだ。


「そうか!わしも死ぬ前に一度で良いから自分でも満足いく刀を創り上げたかったが、今ではすっかり諦め、その願いが叶わないままこの生涯を終わるのも仕方のないことだと思っていたのだが、、、」


 その鍛治職人の目は既に自分達が刀作りに精を出している情景をはっきりと思い浮かべているような輝きを見せていた。そして、この仕事を喜んで引き受ける約束をした。


 ただ、彼はこれから刀を鍛造するに当たって、フラウが持参してきた忍者刀の特徴について話し始めた。結局、彼が言いたかったのは、忍者刀は自分の目指す刀ではないことを、はっきりと王女に伝えたかったようである。


 王女自身その忍者刀が長さや重さの面でのみ自分に合っており、本来の刀の持つべき特長の多くが殺されている忍者刀が欲しいわけではなく、そのためにラングスタイン大佐の刀を見せたことを伝えた。


「それでは、大佐殿の持っておられる刀を王女様用にふさわしく少し小ぶりに改造された刀(katana)をお望みということでよろしいですね 」


 フラウ王女は自分の願いをしっかりと理解してくれている鍛治師に感謝し、少なくとも私の命を預けられる得物(えもの)で、尚且つ刀が本来持っている美しさや妖しさを損なっていない生きた刀(katana)が欲しいと頼み込んだ


 フラウ王女は鍛冶屋に有難うと言うと、2〜3日中に城から適当な人材を派遣するから、必要な物の手配や支払等の雑用は全てその者にやってもらうようにと頼んだ。

 またこのことはは組合長にも既に話を通してあるので、必要な物は組合長に依頼してくれと付け加えた。


 話が思い通りに進んだと満足した三人は馬に飛び乗ると、颯爽(さっそう)と王城に向かって走り始めた。

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