4−16 刀鍛治職人探し(1)
翌日、フラウ王女は王国内の鍛治職人探しを手伝ってもらうために、クロード近衛騎士隊長とラングスタイン大佐に声をかけた。もちろん本物の刀(katana)を鍛造できる鍛治職人を探してもらうためである。刀(katana)を愛刀ととしているラングスタイン大佐は勿論のこと、最近刀の素晴らしさに魅せられているクロードも二つ返事で喜んだ。
「しかし、刀を作れる鍛治職人と言っても、一体どうやって探すのですか?私には全く心当たりがありませんし、大佐も王国のことは未だ十分に把握されていないでしょうし、、、」
フラウ王女は、胸を張って後ろ手に持っていた20枚程の書類を自信ありげに二人の前に差し出した。
それは!刀(katana)の原料の入手方法と精錬方法また刀の鍛造方法が記載された書類であった。
「こんなものを一体誰が、、、?」
フラウ王女の持っている書類の記載主はエーリッヒ将軍の娘ニーナ・バンドロンであるが、何故かフラウ王女は自慢げに胸を張った。まるで自分が書いたかのように、、、。
そしてニーナの中には凄い能力が眠っているようだとつぶやいた。
こうなると、ニーナだけでも5億ビルを遥かに超える能力を持っていると思える。今度の飛行船の建造に当たり、ジェシカ王女と一緒に正式な研究メンバーに入ってもらうことをフラウ王女は決めていた。
トライトロン王国における剣の製造方法は残念ながら、ハザン帝国の刀(katana) の製造方法とは使用する原料や鍛錬方法が大きく異なっている。しかもハザン帝国の刀の製法は、基本極秘扱いになっているため、多くの場合一子相伝で引き継がれていく生業であり、ちゃんとした記録はほとんど見つけることができなかった。
また名刀は一本仕上げるのに莫大費用と時間を必要とし、大量生産には全く向かなかった。また別の意味で、二本と全く同じ刀は作れないのも希少価値を上げる要因にもなっていた。
優れた一振りの刀(katana)を作り上げるのに家が優に一軒買える程の金がかかるのは普通であった。
ハザン帝国において刀の鍛造が禁止された理由の一つに、そういう事情があったのかも知れない。
今から、10年程前にハザン帝国の鍛治職人が一人砂漠を超えてトライトロン王国に逃げ込んだといううわさがあった。
その鍛治職人亡命のうわさがハザン帝国の軍部の知ることとなり、指名手配になっていたらしいのだが、トライトロン王国に亡命したことまでは思い至らなかったのか、あるいはその時点ではトライトロン王国とことを構える考えがなかったのか、その亡命者が王国内でハザン帝国軍に捕らえられたという記録は存在していなかった。
その噂が真実だとすれば、その亡命者はこの王都のどこかにひっそりと鍛治屋を営んでいる可能性が考えられた。
ニーナ・バンドロンの調査結果には、トライトロン王国にハザン帝国の鍛治職人が亡命した可能性があることにまでは触れているが、その後、彼がどこに住み着き、未だに鍛治を続けているかどうかに関しては、詳細不明と書かれていた。
ラングスタイン大佐は、この書類に書かれてあることが仮りに事実だとすれば、その亡命者が死亡していない限り未だ鍛治を生業としているような気がしていた。そして自ら亡命したくらいだから刀の鍛造をあきらめきれないでいる可能性が強いのではとフラウ王女に話した。
仮りにその亡命者が既に死亡していたとしても、必ず、その技術を受け継いだ弟子が存在していてもおかしくはないとも考えていた。いや、むしろそのために亡命したとさえ彼は思っていた。
クロード・トリトロンは、この王都街の中心部に、王都周辺の鍛治職人を束ねる組織があることを思い出した。この組織は確か普段は特に大掛かりな仕事をしている訳ではないが、いざ内乱勃発とか他国との戦争とかの際には大量の剣や武器が必要となる。そういう時に、鍛治職人を集めて必要な仕事の割り振りを行ったりしているらしい。
クロードはまず手始めに、フラウ王女に鍛治職人組合の代表者に会うことを提案した。
「では、久し振りに王都街に出かけるとするか!」
フラウは二人を引き連れて、馬に乗り王都街に繰り出した。
王都街は先のハザン帝国侵略のゴタゴタなどもう遠い昔の出来事とばかりにすっかり忘れてしまったかのように人々は生き生きと生活を営んでいた。
「トライトロン王国の王都街は、いつ見ても活況ですな!ハザン帝国の市街地とは大違いです 」
「そうなのか?王都街以外の市街地には余り行ったことがないので、どこもこんなものかと思っていたが、、、」
ラングスタイン大佐は、ハザン帝国の軍部が特権階級意識が強過ぎて、庶民の生活を守るどころか、むしろ庶民に無理を強いている事実について話した。そのこともあってか、トライトロン王国の王都街における庶民の明るい顔をまぶしそうに見つめていた。
「ハザン帝国では、軍部の特権階級が庶民を虐げているのか?」
「恥ずかしながらトライトロン王国とは全く違っています。この王国では兵隊達と庶民との間に極めて良好な関係が成り立っているように見えます 」
ラングスタイン大佐はうらやましそうにフラウ王女を見ながらそう語った。
自分達がハザン帝国で叫んでいた庶民と軍部の格差の是正が、もうすっかりこの王国では成し遂げられてしまっていることに感心していた。あるいはトライトロン王国設立当初からの気風なのかもしれなかったが、、、。




