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4−15 刀(katana)

 フラ王女が鍛錬場でエーリッヒ将軍と真剣での勝負を行った二日後、将軍の娘ニーナ・バンドロンはこの王国でもし刀を作るとした場合に、刀の鍛造が可能かもしれないと思われる鍛冶屋をいくつか探し当ててくれていた。

 そしてニーナは、その分野に詳しい鍛冶屋が見たら恐らく理解できるであろうと思われる(はがね)の原料やその精錬方法などの詳細を記載した20枚ほどの図面入りの書き物をフラウ王女に渡した。


「飛行船建造に関する調べ物で忙しい時に無理に頼んで申し訳なかった。こんなに早く、しかも(まと)めてまでくれて本当に有難う 」


 フラウ王女は、ニーナに深く頭を下げた。ニーナはフラウ王女の態度に恐縮しながら、ジェシカ王女から飛行船に関する調査より刀(katana) の調査を優先して欲しいと頼まれていたことを話した。


 フラウ王女は調べ物をしているジェシカ王女の側に行くと、その肩を抱きしめて、

 ” 有難うジェシー ”

と耳元でささやいた。


 ジェシカ王女は、

 ” ああ見えて、姉様は目標が決まると、とてもせっかちで、口では、 ゆっくり でとか言っていても、本当は直ぐにでも欲しいはず ”

とニーナに急ぐように頼んでくれていた。


 フラウ王女の性格は妹のジェシカ王女にはすっかり読まれていたのだ。

 ほんの1ヶ月程前迄、フラウのベッドの中に滑り込んできていたあの可愛いジェシカ王女は一体どこに行ってしまったのだろうと、疑問だらけのフラウ王女であった。

 

 ニーナ・バンドロンの育ったハザン帝国の女性の教育は一部の特権階級を除きほとんどなされていなかった。勿論一般人の通う学校など存在していない。


 軍幹部や政治家などの一部の特権階級者の家庭の子女は、家庭教師を雇って教育を受けていた。それでも女子の場合、主として礼儀作法や情操教育などが主体であった。純然たる学問を教えてくれるような家庭教師など現実には存在していなかった。


 ニーナ・バンドロンはハザン帝国将軍の娘といういわゆる特権階級に当たる将軍の娘であったため、やはりその例から外れることはなかった。

 そのため、読み書きなどの基礎的教育は十分に身につけていた。

 

 それでも彼女は特に勉学に興味を持っていたため、通常家庭教師が教える程度の教育では到底満足できていなかった。


 彼女の唯一通うことが可能だった国立の図書館などにある蔵書であってもそのほとんどが娯楽中心の雑誌程度で、ニーナ・バンドロンの知的好奇心を満足させることはできなかった。


 特にニーナが興味を持っていた科学や化学の錬金術に関する蔵書などは重要蔵書として全て、国の管理下にあってニーナが利用できる図書館には全くというほど保管されてはいなかった。


 その為だろう。トライトロン王国の蔵書館に保菅されている莫大な量と種類の蔵書を見た時に、本気で蔵書館に寝泊まりしたいと思ったようである。

 

 もちろん、トライトロン王国においても女性で科学や化学に興味を持つ者は極めてまれで、ほとんどは言語学や文化・社会学等の座学を身につけるのがほとんどであった。

 そういった意味では、ジェシカ王女にしてもニーナ・バンドロンにしても当時では極めて珍しく理系の女子であったのだろう。


 フラウ王女でさえ、ジェシカ王女が『 錬金術 』に興味を持っていることなど、今回初めて知ったわけである。それ位、専門的教育は女性からはかけ離れた存在であった。


 フラウ王女はニーナ・バンドロンからもらった刀(katana)に関する二十枚くらいの書類を大事そうに抱えると、クロード・トリトロンを連れてジェシカ王女の部屋を後にした。


「これで、あのエーリッヒ将軍やラングスタイン大佐が持っている刀(katana)と同じものがトライトロン王国でも作れるかもしれない」


 そう考えるだけで、フラウは王女一人でに笑いが込み上げてきて、胸の(たかぶり)を抑えることができないでいた。


 久し振りに、フラウの脳内に義姉の卑弥呼(ひみこ)が声をかけてきた。

「『 居合抜刀術 』の免許皆伝を(さず)かったようじゃのう!益々フラウは強くなってきたのう、、、。」

「有難うございます。お義姉様。これもお義姉様のお陰です 」


 フラウ王女はこの時、トライトロン王国の剣法の中に刀(katana)の文化を組み込んで行こうと考えるようになっていた。


「ほう、王国の剣法とハザン帝国の剣法の融合とな?」


「ええ、ただ単に殺傷の道具としてだけではなく、王国の芸術品として、ハザン帝国の芸術品として、それ以上に持ち主の感情と呼応しあえるような魂を宿らせることが可能な剣として、、、」

 

 フラウ王女がエーリッヒ将軍との模擬試合に使用した忍者刀は普通の刀(katana)と比較して隠密裡に使用することに主眼を置いて作られている特徴を持っており、扱い安いように長さは短く、反りも少なかった。

 一目見ただけでは同じ刀とは思えず、本来の刀(katana)の持つ輝きなどもカムフラージュする為の工夫が施されていた。


「それにしてもフラウの王国では刀(katana)を作れる鍛治職人はいないと思うのじゃがなあ、、、」

 やはり」卑弥呼は刀が特殊な原料と特殊な製法で作られたものであることを知っているようであった。


「そのことなんですが、王国に亡命してきたエーリッヒ将軍の娘が、昨日1日で刀(katana)の鍛造方法を蔵書館の蔵書からまとめめてくれました 」

「ほう!あのニーナがな?」

・・・・・・・!

 卑弥呼は、フラウの周りに貴重な人材が少しづつ集まってきていることを察知し、

 ” それもフラウの人徳。今のそのフラウの気持ちをいつまでも忘れないように大切にするのじゃぞ ”

と呼びかけ、思念を切ろうとした。


「お義姉様!少し待ってください。実は、ジェシカ王女に、、、」

「ああ!ジェシカにも好きな殿方が出来たようで、良かったな! 」


 ジェシカ王女がホッテンボロー王子と恋するようになってから、急に大人になり、自分を置いてどんどん成長して自分から離れていくように思えて、フラウ王女は一抹の寂しさを感じていた。


 卑弥呼は、フラウとクロードとの婚約が発表された時、フラウ王女も両親に同じ思いをさせたはずだと語り、思念を切った。

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