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4−13 フラウ王女の居合抜刀術(いあいばっとうじゅつ)(2)

 クロード・トリトロンの試合開始の合図と共にフラウ王女は、腰を少し低くして一歩、そしてまた一歩とエーリッヒ将軍に近づいた。それでも相手に刀が届く迄には未だ2歩ほどある。フラウは将軍と同じように低い腰のまますり足で更に間合いを1歩詰め寄った。

 

 未だ二人とも刀の柄には手を触れてもいない。


 腰を落とした構えのまま、将軍がすり足で横に動くジャリッという音がした。もちろん、その将軍の目がフラウ王女から離れることはない。フラウもそれに合わせ低い姿勢のまま身体を将軍の目を見ながら、再び正面に対するようにゆっくりと向き直った。


 未だどちらも殺気は表情には微塵(みじん)も現れてきていない。将軍が先に、ほんの一瞬だけ鋭くごく短い怒気を放った。フラウ王女はそれが将軍の意図的な誘い込みだと理解した。そこでフラウは将軍のその誘いに乗ると見せかけて、(つか)に手を当てて一瞬怒気だけを膨らませながら、将軍の方から仕掛けてくるのをじっと待った。

 それでも、将軍は刀の柄にさえも未だ触れていない。


 フラウ王女は将軍が刀の柄に触れた瞬間に大きく踏み込みながら抜刀するつもりであった。フラウが将軍に勝るとしたら、それは恐らく身体の軽さによる素早さだけだと分かっていた。その為、フラウは将軍が先に仕掛けるように誘導したかった。


 その為、殺気を更に少し膨らませながら刀の柄を掴むような仕草をした。将軍は正にその瞬間を待っていたかのように、1歩大きく踏み込みながら抜刀した。

 しかし、それはフラウが故意に仕掛けた誘いであったため、フラウにはその将軍の剣筋を十分に見切ることができていた。そこで将軍の剣を僅か数センチ横に(かわ)しながら、素早く抜刀した。


 お互いに切り上げた刀同士が、丁度フラウの顔の高さの所で当たり火花が散った。しかし、エーリッヒ将軍の背がフラウよりも高かった為、その高さの分だけ早くフラウの斜め上段からの返す刀が将軍の肩を捉えた場所で止まった。


 しかしその一瞬の後に将軍が次手として振り下ろした刀が王女の刀に触れ火花を散らし、フラウの首の薄皮一枚の手前で止まっていた。

 クロードが二人の中に入り、試合の終了を告げた。

 時間にしてほんの10分程度であったが、二人とも汗びっしょりになっていた。

そして、吐く息も荒い。


 エーリッヒ将軍はフラウ王女に 、

  ” もう王女様に教えることは無くなりました。私の居合抜刀術の後継者をお願いしたい ”

と深く頭を下げた。


 鍛練場内に割れんばかりの拍手が湧き起こった。


「それにしても、フラウ王女殿がハザン帝国の忍者刀で以って私に試合を申し込むとは予想だにしなかった。やはり、居合抜刀術は刀(katana)でないと、、、」

 

 エーリッヒ将軍は、フラウ王女がハザン帝国の刀を使用したことに驚き、トライトロン王国でも刀 (katana) の存在を認めてもらえたような気がして、とても嬉しかった。


 正直、刀(katana)に魅せられているのはフラウ自身であった。それに居合抜刀術や神道無限流の研ぎ澄まされた剣技は恐らくこの世界でも極めて珍しいと思っていたし、この剣法だけは絶対にこの刀の存在無くしてはあり得ないとも考えていた。


「フラウ王女殿、我が剣法をそこ迄認めてもらえたのは感謝に耐えません。それでも、この世界も広いですから、、、」


 勿論、将軍の居合抜刀術の剣技に惚れ込んで、フラウ王女が弟子入りしたのは間違いないが、抜刀術を極めるためにはやはり刀(katana)が必須である。


 しかしフラウ王女は、将軍や大佐らの刀を見るたびに刀の魅力に取り()かれてしまっていた。

 刀の美しさとその実用性を兼ね合わせた剣は恐らく他には類を見ないだろうとさえ思っていた。


 フラウ王女は、実際この美しい刀とそれを使うのに相応しい刀術が合わさった時、初めてこの刀の最高の真価が発揮できると感じていた。


 エーリッヒ将軍は、フラウ王女のその話を聞いて感激していた。恐らくハザン帝国伝統の刀と剣技をここまで理解してくれた人物が、元々『 刀 』とは無縁の『 剣 』の使い手である『 龍神の騎士姫 』であったことに、一種の理不尽さを感じながらも、それ以上に喜びの方が遥かに大きかった。


「実は、今朝、将軍の娘ニーナ殿にトライトロン王国で私が使用するための刀(katana)が作れないか調査をお願いしている。恐らく良い結果を出してくれるものと期待しているのだが、、、」

 と言い残すとエーリッヒ将軍に礼をして二人は鍛錬場を後にした。


 フラウ王女は、先に将軍から『 居合抜刀術 』の後継者として認められたことから、少しの照れもあって、

 ” クロードは『 神道無限流 』の後継者になるつもりはないか?ラングスタイン大佐もそれを強く望んでいるようだが、、、”

と言いながらクロードの肩を叩いた。


 やはりフラウ王女には天性の剣の使い手であるようだ。事実エーリッヒ将軍は、これまでハザン帝国の多くの兵士に幾度となく居合抜刀術を指南してきていた。しかし、残念ながら誰一人として免許皆伝には至らずその全員が修行途中で挫折してしまっていた。

 

 フラウ王女はたった三ヶ月で刀術の真髄を理解し、そして完全にマスターして、初の『 居合抜刀術師 』としての免許皆伝者となった。

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