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4−9 ジェシカ王女とホッテンボロー王子

 トライトロン王国がこれからやろうとしていることは、ハザン帝国の飛行船の脅威より王国を守るためという大義名分はあるのだが、飛行船建造が成功した場合、この王国内でも世界侵略を企む意見が出てきても不思議ではないと考えられた。


 その第一候補と考えられるのが、何かと不協和音の多い王国の貴族連合体である。


 事実、トライトロン王族に否定的な貴族連合の一部は、何をさておいてもその成果を利用して、世界征服の夢を持つことになっても不思議ではなかった。

 かりにそのような事態が発生した場合、それを牽制(けんせい)するために信頼のおけるプリエモ王国を味方につけておきたいと、フラウ王女は漠然と考えていた。


 ジェシカ王女は、何故プリエモ王国が必要なのかについての答えをもう少し明確にしてほしいとフラウに詰め寄った。


「相変わらず鋭い突っ込みだな。プリエモ王国は元々友好国であるし、もし、ジェシー(ジェシカ王女の愛称)がホッテンボロー殿と婚約すると、両国の友好関係は更に強固なものとなり、滅多なことでは外からの干渉が無くなるのではないかと期待しているのだが、、、」

 

 ジェシカは、ホッテンボロー王子の名前が出たため、やや顔を赤くして、

 ” 昨日ボロー様からの手紙を頂きました "

と少し恥じらうように下を向いた。

 それを見た、フラウ王女はこれ以上ジェシカ王女の心を確認するまでもないことを確信した。


「そうだ!ジェシカ!腹が減っていないか?良かったら、私がシノラインのところに行って、昼食を用意してもらうが、、、」

「そうですね。帰って食べるのも面倒臭いですし、お姉様がそう言って下さるなら、私はここで蔵書を読んでいますけど、、、」


 たちまちフラウの顔に特大の笑みが浮かび、逃げるように城内へ戻って行った。正直ジェシカ王女の話してくれた内容について、ある程度は理解できたものの、現実にはどこから取り掛かったら良いのかがフラウにはさっぱり分からなかったからだ。


 恐らく、この件に関してはフラウが中途半端な形で推し進めるより、この方面に詳しい妹にじっくり調査してもらい、妹が出した結論について審議する方が間違いが少ないように思えていた。

 かと言って、全部丸投げしてしまうのも妹に申し訳なく思う気持ちが、せめて昼食の用意だけでもと思って城に戻ったのだが、心の奥で、やはり自分は座学は苦手だと再認識させられていた。


 考えてみると、前回蔵書室に(こも)った時は脳内に卑弥呼(ひみこ)の思念が存在してて、卑弥呼がその蔵書を読むことを欲していたためにフラウ王女にもスラスラと読み進めることができたのである。卑弥呼が脳内に居ないときのフラウは、やはり座学より剣を振るう方が圧倒的に楽だと思えた。


 フラウ王女が、城内に戻ると昼食の準備は終わり、既にテーブルに並べられようとしていた。蔵書館でも食べれるようなものを見繕(みつくろ)って、ジェシカと二人分を用意してくれるようにと侍女のシノラインとアンジェリーナに頼んだ。


 二人がその準備をしている時間に、フラウは模擬刀を取り出して一生懸命に素振りを行った。そうすることで肩の()りが嘘のように楽になっていく自分は、やはり座学より身体を動かす方が遥かに向いていることを改めて再認識させられていた。


 蔵書館の休憩場所のテーブルの上に昼食が並べられた。簡単なもので良いと言っていたが、いつもの料理や飲み物が見繕(みつくろ)われていた。


「お姉様、蔵書館でのピクニックこれで2回目ですよね。時々、食堂以外でこうして食べるのも楽しいですね 」


 フラウ王女自身、このような天気の良い日に、離れの庭で紅葉でも観ながら皆んなで昼食を食べるのも楽しいかもしれないと考えていた。別に王城の食堂で食事をしなければならないという決まりは無かったはずであるが、フラウの記憶の中には、家族が揃って庭園で食事したという記憶は無かった。


「処で、ホッテンボロー王子からはどういう内容の手紙だったのだ?」


 ホッテンボローの名前が出た途端、ジェシカの白い顔が薄紅色に染められて行くのを見たフラウ王女は、妹がいじらしいと思う反面、自分とクロードの間にはそのような、胸をときめかす時期が無かったことに少しの不満を感じていた。


 ホッテンボロー王子の手紙には、婚約披露パーテイに自分まで呼んでもらえて感謝していることや、久しぶりフラウリーデ王女やジェシカ王女に逢えて嬉しかったとかの御礼の挨拶に加え、近い内に是非また会いたいとか、一度プリエモ王国へもフラウ王女共々招待したいなどの内容が(したた)められていた。

 

「それで、ジェシーはホッテンボロー王子のことどう思っている?」

「とても素敵な方です。私も是非またお会いしたいと願っています 」


 フラウ王女はこの飛行船建造の計画書作成が一段落ついたら、プリエモ王国の錬金術師の件もあり、ジェシカ王女も一緒に連れてプリエモ王国に行くことを考えていため、一緒について来ないかと話した。


「お姉様と一緒に旅ができるなど夢のようです 」

「ボローにも会えるしな 」

「意地悪言わないで下さい。お姉様!私は昼食が終わったら早速情報収集に当たらないと、、、」


 ジェシカ王女の心に火がついた。

 数日後、ジェシカの収集した情報は自分で記載したメモだけでも百枚を超えていた。一部の蔵書については、ジェシカが自分の部屋に持ち込んでいた。彼女の部屋は、既に年頃の娘の部屋とは考えられない程に書斎化してしまっていた。


 何故か、その翌日からはジェシカ王女の部屋にエーリッヒ将軍の娘ニーナ・バンドロンが頻繁に出入りするようになってきた。


 ハザン帝国からの救出作戦の後、将軍の娘ニーナ・バンドロンが同じ歳と知ってジェシカ王女に紹介したことを思い出した。ニーナも座学が得意であったようで、その後二人は意気投合して、一緒に蔵書館へ通ったりしていたようである。


 ニーナ・バンドロン自身、元敵国の将軍の娘ということもあって、最初の頃は気を配りながら話していたが、科学とか化学とかの話になると、二人の話が延々と続き、特にニーナは珍しい蔵書がふんだんに見られる蔵書館にすっかり魅せられてしまっていた。


 ニーナの話の内容からは、ハザン帝国では将軍の娘といえどもそう簡単に国の蔵書を見れる環境では無かったらしい。それでもニーナは色々な伝手(つて)でこの種の蔵書をそこそこ見た経験はあった模様である。


 ジェシカ王女はニーナ・バンドロンのその記憶力に完全に圧倒されていた。自分自身も記憶力に関しては誰にも負けない自信を持っていたが、ニーナに関してはその常識を遥かに越えた存在であった。そしてジェシカはニーナのことを密かに『 天才ニーナ 』と呼んでいた。


 とにかく、ニーナ・バンドロンの学問に関する理解能力と記憶力は恐らくジェシカの知る限り、常軌を失した人材であった。どんなに複雑な内容の文章であろうと一瞬の内にそれを理解し、底の無い袋のように幾らでも記憶することが可能なのである。


 そういうニーナを見ながら、ジェシカはニーナが近い将来トライトロン王国を背負うことになるであろう姉フラウリーデ王女の頼もしい知恵袋になってくれることを確信していた。

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