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4−8 トライトロン王国の錬金術師

 ジェシカ王女は、以前フラウ王女と蔵書館に行った時に、トライトロン王国の歴史書と現代史の中に有名な錬金術師やその派閥などが記載されている蔵書を幾つか見つけ出していた。

「お姉様!早速蔵書館に行きましょう、、、」


「ところで、ジェシーはどうして錬金術などに興味を持ったんだ?姉の私から見るとジェシーと錬金術が今一つ良く結びつかないでいるのだがな!まさか、魔法使いにでもなりたかったとか?」


 人には人それぞれの特性や持分がある。いや、そうでなければならない。いろいろなものに興味を持つ人間が存在していて、この世界は形成されている。

 フラウ王女は、お転婆だったのが幸いして彼女は剣の道に進むことができたし、座学好きなジェシカ王女はいつの間にか錬金術の勉強をしていた。

 そして今、トライトロン王国では、この二人の能力が必要とされようとしていた。


「私は、『 無から有を創り出す 』という不思議な概念が珍しくて、ついつい引き込まれてしまったようです 」


 人間は自分の目で見えていないものについては、『 何も無い 』あるいは『 存在しない 』と理解する。蔵書館でジェシカ王女が見た蔵書には、必ずしも目に見えるものだけが物質ではなくて、目に見えなくても自分達の周りに確実に存在していて、実際には人間に見えているもののほうが少ないかもしれないと記載されていた。


 本来、『 錬金術 』はそういう目に見え無い物などを上手に利用することで、新しい別の何かを作り出すことを可能にしたいという願いから出発した学問である。

 またその夢を追求してきた人達のことを『 錬金術師 』と呼んでいた。


「幽霊みたいなものか?」

「お姉様、茶化さないでください!これでも私は真剣にお姉様のお役に立ちたいと考えているのに、、、 」

「悪かった!茶化すつもりじゃ無いんだが、私にとってはジェシーの言っている意味がさっぱり理解できないもので、、、ついな 」


 二人は、蔵書館のトライトロン王国に関する蔵書が並んでいる場所のテーブルに陣取った。そして、ジェシカ王女は自分が持ってきていた自筆の数十枚の紙の束を見ながら、次から次へと必要と思われる蔵書をテーブルの上に積み重ねていく。あっという間に手元に十数冊の蔵書が並んだ。


「ジェシー!ところで手に持っているその紙の束は何んだ?」


 ジェシカ王女はこの蔵書館に興味を持って通い始めた頃、広大な広さと無尽蔵に近い膨大な量の蔵書に驚き、そして感激し、蔵書館に来た折々(おりおり)に、どこにどのような蔵書が置いてあるかを少しづつ分類していた。いわゆるジェシカ王女専用の蔵書目録であった。


 ジェシカ王女が長い間蔵書館通いをしている内に少しづつ出来上がったお手製の蔵書リスト、それが完成した今、彼女はこの蔵書館には世界でも類を見ない種類の蔵書が数多く並べられているであろうことにはほぼ気付いていた。


 加えて自分の作っている蔵書記録簿がもし心悪(こころあし)き者の手に渡った場合、貴重な蔵書の数々がこの王国から盗み出されてしまう可能性も漠然と感じ取っていたのだった。


「この私の作った蔵書リストは、私とお姉様だけの秘密です 」


 ジェシカ王女は蔵書の貴重さを既に知っていたのだ。当然だが、この蔵書の中に王国の未来を導くことのできる貴重な『 予言書 』的なものが含まれていることにまでは、この時点では思い至っていないはずである。

 それでも、これらの蔵書が世界に類を見ないとても貴重なもので、万が一王国以外の者の手に渡った場合、王国の損失となるだけではなく、王国ばかりではなく、この世界にとって危険な状況をもたらすかもしれないということは薄々と感じ取っていた。。


 フラウ王女は、自分が武術に専念し腕を磨き、そして自国の暴動や他国からの侵略の対応に明け暮れていた日々、妹のジェシカ王女は意図しないまでも自分の得意とする座学の面でトライトロン王国を守るために蔵書館通いをしていたことになる。


 確かにいつも甘えてばかりいた妹が、時折、フラウの知らない知識などをそれとなく自分に話して聞かせ、時にはそれがフラウの戦略や戦術構想に役に立っていたことにも思い至った。


 今ジェシカ王女が手にしている記録簿は、恐らく百万の兵力より貴重なものだと考えられた。もし、ジェシカの持つ蔵書リストが外部に洩れ、良からぬ国の手に渡った場合、この蔵書館を巡って恐らく争奪のための大がかりな戦争が勃発する可能性すら考えられた。


「確かに、この目録の件は、当分二人だけの秘密にしておこう 」

 フラウ王女はそうつぶやきながら、ハザン帝国の侵攻目的がこの蔵書舘ではないことを祈った。

 

 ジェシカ王女はその目録の中から思い当たる蔵書を発見したとみえて、その蔵書が所蔵されている棚の前までフラウ王女を連れていき、王国における錬金術に関する歴史書を手に取った。


「この中には、我が王国の錬金術に関する三大潮流が記載されています 」

 

 ジェシカ王女がフラウ王女に差し出した歴史書には、錬金術に携わるそれぞれの流派がどのような錬金術を研究していたかが記載されているという。そして極一部はその成果についても記録されていたが、今回の飛行船開発に関連しそうな内容ではなかった。


 それでも、その中には王国の三大流派の錬金術師が現在どのような研究をしていたかについてはある程度知ることができた。フラウ王女は妹に急かされて蔵書をめくり始めたものの、剣術や政治の記録のようにスラスラと上手く頭の中に入って来ない。


 時折、顔を(しか)めたりしているが、フラウ王女にとっては、少し内容的に難易度が高過ぎたようである。ジェシカ王女は、姉のそのような戸惑いに早々に気がつき、この調査を姉に任せるのは可哀想だと判断し、自分だけで行う決心をした。


「フラウお姉様!今回のお姉様の目的は、私もある程度分かっているつもりですが、もう一度確認させてくださいね。飛行船建造に必要な、科学や化学に精通している学者達を探すことですよね!」


 フラウ王女は、呆れ顔で、

 ” そ、そ、そういうことだが、ジェシーにはその答えがこの蔵書の中から見つけられると考えているのか?”

と、ジェシカ王女をのぞき込むように尋ねた。


 ジェシカ王女はしばらく考えていたが、これからこの蔵書を詳しく読んで見ないとはっきりしたことは言えないと答えた。もし、ジェシカ王女が目的とする情報を発見できなければ、トライトロン王国の飛行船建造の計画は、おそらくあきらめざるを得なくなるか、あるいは気が遠くなるほどの長期戦を覚悟する必要が生じることになってしまうであろう。

 もしそのような事態になった場合、ハザン帝国は飛行船でトライトロン王国を滅亡の淵に追いやることになってしまうと考えられた。


 フラウ王女は、そのような結果となっては困ると思いながら、何か自分でも何か手伝えることが無いのか聞こうと口をひらきかけたが、自分がその調べ物を行ったとしても、妹の邪魔をしかねないことに思い至り、出かかった言葉を飲み込んだ。


 事実この調査案件の処理に関しては、自分では不可能で、今王国内で処理できる人材がいるとすれば、ジェシカ王女以外は考えられなかった。

 以前、卑弥呼から『 脳筋女 』と揶揄(からか)われたが、それは本当のことだったと今は実感していた。


「卑弥呼お義姉様がフラウお姉様のことを脳筋女と、、、幾ら何でも少しひどいですね 」

「いや、本当のことだった!今のジェシーをみて、そう確信した 」

 

 フラウ王女は、今回の人選において、その調査範囲をプリエモ王国にまで広げてくれるようにジェシカ王女に依頼した。

 この時、フラウ王女は、プリエモ王国であれば、この世界で一番の友好国である為、これを機に技術同盟を結ぶことで飛行船開発に優位に動けるのではないかと考えていた。


 しかし、ここでフラウ王女がささやいたプリエモ王国を今回の飛行船開発に巻き込む計画こそが、トライトロン王国の技術水準を飛躍的に向上させようとは、言い出したフラウ王女も含めこの時点では誰も想像できていなかった。

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