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4−7 王国科学技術省の設立(2)

 フラウ王女は決断した。もう、いつまでも惰眠(だみん)(むさぼ)っている暇などない。これまでの怠けて過ごしてきた日々を反省し、ハザン帝国の飛行船に対する対抗手段を確立する決意を固めた。

 そして詮議の場で王国の反省点に歯に絹を着せずに素直に述べた。

 それは、むしろフラウ王女自身の反省とこれからの決意表明に近かった。

 

「私は第一軍務大臣兼第二軍務大臣及びトライトロン王国の第一王位継承者として、皆の前で約束する。ハザン帝国飛行船への対抗手段は飛行船しか無いと考えている。私はこの飛行船を、身にかかる火の粉を振り払うためにだけに使用するつもりだ。決して他国侵略の目的では使用しない! 」


 フラウ王女は自分の発言を自分自身の言葉で一言一言を噛みしめるように(つむ)ぎ出した。確かに19歳のフラウ王女にとっては、重過ぎる決断である。そのような葛藤(かっとう)を見せながらの王女の発言の最後には、自らの欲望の為に飛行船を使用した場合、自らが粛清(しゅくせい)の対象となる旨の記録を残すようにとも指示した。

 

 フラウ王女の誓約を前提に、直ちに王国に科学技術省を設立しハザン帝国よりも優れた飛行船を建造する決定がなされた。


 恐らくこの時点で、ハザン帝国の飛行船建造がこれからのトライトロン王国の最も大きな脅威になることを完全に予測できていたのは、フラウ王女とクロード近衛騎士隊長それにハザン帝国の二人とグレブリー大将の5人、いわゆるハザン帝国の首都上空でその飛行船を実際に自分の目で確認した者達だけであっただろう。


 フラウ第一王女の確かな覚悟を聞かされ、王国科学技術省設立に関する提案は出席者全員に積極的に受け入れられた。


 フラウ王女は詮議が終わり次第、早速科学技術省の設立の具体的な起案に当たったのだが、武闘一辺倒でこれまでやってきたツケがここに至って表面化した。そこで、少なくとも自分よりも思慮深いと思っている婚約者のクロード近衛騎士隊長にも相談してみたが、彼もやはり基本は武人、戦略戦術面には優れているものの、科学や化学などの面にはからっきしであった。


 フラウは、う〜んと唸ってみたもののそれで答えが出てくる訳では無い。

 皆の手前大見栄(おおみえ)を切ったものの、科学技術省の具体的な設立について解決できそうな糸口がなかなか見えて来なかった。


 翌日の朝食の時間、フラウ王女は浮かぬ顔をしてため息をついていた。

 ジェシカ王女は、昨日までの自身たっぷりな姉の顔を思い出しながら不思議に感じていた。


「お姉様!どうしてそのようにため息ばかりついてついていらっしゃるのですか?昨晩はあんなに自身ありげな顔をなさっていたのに!」


 先の詮議で科学技術省の設立を宣言したところまでは良かったのだが、いざ具体的な糸口となると中々見つからなくて、あれこれ悩んでいたのが、ついつい顔に出てしまっていたようである。


「もしかしてこの間、蔵書館で調べていた飛行船の案件ですか?」


「ああ、科学や化学に優れた人材をどのようにして集めたら良いのか、誰を責任者にすればスムーズに研究が進むのか、自分にはさっぱり見当がつかず困っているのだ 」


 ジェシカ王女は今姉が悩んでいることに関して、自分が少し役に立てるかもしれないと考えていた。それは、ジェシカ王女が以前から『 錬金術 』に興味持っていて、色々と調べたことがあったからである。


「トライトロン王国や周辺諸国で活躍している錬金術師や、誰がどのような種類の研究に打ち込んでいるかなどについて以前調べたことがあります 」


「ジェシカと蔵書館に一緒した時に確かにそのことは聞いてはいたのだが、それが飛行船の建造と直ちにつながるとは思えないのだが、、、」


 ジェシカ王女はその後の調査で、飛行船開発に直接関係しそうなことも、いくつか心当たりのものを既に見つけ出していた。


 ジェシカは、豊かな胸を何時もより前に突き出すようにして答えた。その顔には自信と喜びの表情が伺えた。恐らく自分が王国のというより姉フラウ王女の役に立てることそのものが嬉しかったのであろう。


「私は、頼もしい妹を持って嬉しいが、まさかジェシカが錬金術に興味があったなんて今まで知らなかった。悪かったな!」

「私も、初めて話します。錬金術と聞くと皆さん不思議な顔で変人扱いしてくるばかりですから、、、」


 フラウ王女自身錬金術に関して必ずしも快くは受け取ってはいなかった。胡散臭(うさんくさ)さが優先してしまうのだった。最近では、錬金術との名称の由来となっている貴重な金を作り出す方法については、完全に否定されていた。 


「しかしどこで何が役に立つか分かりませんね 。それにしてもお姉様!考えても見て下さい!『 無から有 』ができるのですよ。とてもすごいと思いませんか?」


 氷を温めたら水に変わり、更に温めると『 水蒸気 』と呼ばれる白い煙に変わってしまう。逆に、空気の中の白い煙を冷やすと水滴になり、さらに冷たくすると氷になってしまう。

 最初は煙のようにしか見えなかったものが誰の目に見える水滴や硬い氷に変化する。いわゆる、無から有が出来上がったわけだ。


 この世界には周りの条件に応じて形を変化させるものが水の他にも数多く存在している。そういう物質を利用して新しい何かを作ろうとするのが錬金術なのであるが、この時代においてはそれは魔法の一種のようなものであると信じられていた。


 ジェシカ王女はフラウ王女が分かりやすいようにと気を遣っていくつかの例を上げながら話してくれたのだろうが、それでもフラウにとってはにわかに理解できる概念では無かった。


 事実、多くの錬金術は、やはり荒唐無稽(こうとうむけい)な夢物語として処理されているのが現状で、フラウ王女の反応は極めて普通のことであった。

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