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4−6 王国科学技術省の設立(1)

 トライトロン王国第二王女ジェシカ・ハナビー・フォン・ローザスが蔵書館通いを始めてから1ヶ月、彼女の寝る間を惜しんでの奮闘が功を奏したのか、空飛ぶ船の開発に必要と思われる基礎研究の目標を定めることができた。

 それでも、正直ジェシカ王女の考えはフラウ王女にはさっぱり理解できないことばかりであったし、その基礎研究が一体どうやったら飛行船開発につながっていくのかとなると、もう想像すらつかないでいた。


 ただ、ある世界のある時間軸の中で、実際に飛行船が開発され空を飛んだことだけは(まごう)うことのないことと思われた。実際、蔵書館の歴史書にはそのことが明確に書かれていたし、卑弥呼(ひみこ)の言葉からもそれが作り物の物語ではなく歴史的事実ということは理解できた。


 トライトロン王国では、昔から錬金術師(れんきんじゅつし)と呼ばれる、いわゆる、歴史書の中に記載されていた科学や化学に類する研究(技:わざ)を生業(なりわい)とする人達が多数存在していた。元々はその文字が示すように、当時もっとも貴重だとされていた『 金 』をどうにかして作り出すために色々な研究がなされたところからそう名付けられた。


 当然ながら、『 金 』を創り出すことはできないまま、この手の学問は既に衰退しつつあった。しかし一方でこれらの研究のお陰で、いわゆる科学や化学に類する研究が少しづつでも発展してきたこともまた事実である。

 それでも、自然の恩恵の多いトライトロン王国では必要に迫られることが少なかった為、幸か不幸か錬金術が王国の表舞台に登場することは、少なくともこれまでは無かった。

 

 それから数日が過ぎ、父のスチュワート摂政からハザン帝国に放っている諜報員からの報告としての第1報が入った。そのことを知ったフラウ王女は、早速摂政に王国の主要執政メンバーに召集をかけてくれるように依頼した。


 その中には勿論エーリッヒ将軍、ラングスタイン大佐、つい先日正式に王都に赴任したグレブリー・シュトライト将軍も含まれている。

 

「今から詮議を始める 」


 スチュワート摂政の重苦しい第一声でその場の空気が急にどんよりと重苦しくなり、これから始まる話が簡単に処理できるような議案でないことを想定させた。


 まず最初にハザン帝国に放っている諜報員から入手された飛行船に関するいくつかの情報についての報告がなされた。

 それはハザン帝国において、『 空飛ぶ船 』と呼ばれ、一つの船に兵士100名が搭乗可能だとの触れ込みの内容であったらしい。


「摂政殿!それではある日数千名のハザン帝国兵が空飛ぶ船に乗り、突如として王都の上空に現れるかもしれないということなのでしょうか?」

と、王都赴任早々のグレブリー・シュトライト将軍が尋ねた。

 

「にわかには考えにくいのだが、その通りだ。ふとある日空を見あげると、そこには幾隻もの飛行船が浮かんでおり、その飛行船から燃盛る『 黒い水 』が王都全域に降りかかる事態も十分に、、、考えられるということだ 」


 スチュワート摂政は渋い顔をしてそう答えた。


 驚きのあまり誰からも言葉が出なかった。前回のハザン帝国戦においてフラウ王女がその『 黒い水 』の威力を示して見せたからであろう。しばらくの沈黙が過ぎ、フラウリーデ王女は詮議の出席者の顔を全員見回した。

 トライトロン王国は、これまで大きな戦争には巻き込まれることもなく今日に至っていた。しかし、そのような幸運が永続するはずもなく、むしろこれまでが運に恵まれていたと考える方が妥当であろう。


 フラウ王女は、王国はその運の良さにあぐらをかいて新しい技術の開発を(ないがしろ)ろにしてきたそのツケを今払わされようとしていると主張した。

 実際にはハザン帝国のみならず、他の国々も豊かなトライトロン王国を属国にする目的で、新しい武器の開発を行いながら爪を研いで待っている可能性も全く否定はできなかった。


 フラウ王女も含め出席者全員にとって耳の痛い話である。実際、発言しているフラウ王女自身もそのことについては反省していた。


 勿論それなりの諜報活動はトライトロン王国としてやってはきていたのだろうが、長く平和な時代が続き、平和ボケしている王国では理解し得ないような、動きがあちこちの水面下で計画されていたとしても不思議ではない。むしろ、王国は見えぬ振りあるいは見えなかったふりをしていた可能性すら否定できない。

 

 トライトロン王国は

  ” 黄金の獅子には誰も手を出さ無いだろう ”

との思い上がりで長い間惰眠(だみん)(むさぼ)っていたのかもしれない。


 それでもこのまま放置すれば、何れハザン帝国などの属国になり下がる可能性すら考えられる。それが杞憂(きゆう)に終われば幸いだが、実際に3万の軍勢からの侵略を受けている。そして今再びハザン帝国が新たな攻撃兵器としての飛行船を開発してトライトロン王国攻めを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていると思われる。そしてその事実は、黙っていても消えて無くなるわけではなかった。


 実際に、先のハザン帝国の侵略戦争についても事前に察知することができなかったことが、そのことを証明しているような気がしてならない。

 これまでも人数は少なかったが、ハザン帝国にトライトロン王国の諜報員は派遣されていた。

 諜報員からの報告で、ハザン帝国が急ぎ市民から兵を募っているという情報は得ていたものの、それがトライトロン王国に向けられているものであることにまでには思い至らなかったことが、危機管理の(とぼ)しさの証拠のようにも思われた。


 フラウ王女はそれこそがトライトロン王国の思い上がりだったということに、今更ではあるが深く反省せざるを得なかった。

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