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4−5 異次元の図書館

 トライトロン王国の蔵書館には、邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)に言わせると、そこに存在する蔵書の全てを読み解く能力を有する者がいたとすれば、トライトロン王国だけではなく、この世界の歴史を全部を大きく塗り変えてしまうほどの内容が詰まっているらしい。

 言い方を変えれば、トライトロン王国のあるその世界を完全に征服できると表現した方が正しいのかもしれない。


 フラウ王女にはその価値が蔵書館のどこにあるのかを未だ十分に知ることができないでいた。ややもすれば、卑弥呼の冗談なのかと思ったりもしていたが、妹ジェシカ王女の話を聞くに至り、決して冗談でもオーバーな話でもないような気がしてくるのだった。


「フラウや!全然冗談なんかじゃない、フラウはその蔵書館の価値を全く分かっておらんようじゃな 」


 突然にフラウ王女の頭の中に卑弥呼の声が響いてきた。

 そして、トライトロン王国に卑弥呼がフラウ王女と一緒に精神転移してきた時に、卑弥呼が蔵書館にある歴史書の中には自分と同じ名前の卑弥呼のことをどういう風に書かれているかが知りたいと、フラウ王女に蔵書館へ連れて行ってもらった時のことを話し始めた。


「蔵書の中に書かれている呪術師のヒミコ殿のことですね!」


 その蔵書の中のヒミコは、時間軸の違うヤマタイコクで生きていたが、老衰で亡くなったと書いてあったことをフラウ王女は思い出していた。


 フラウ王女はその時の卑弥呼のつぶやきを今はっきりと思い出していた。

 あの時義姉は確か、ヒミコの死後ヤマタイコクは滅亡し、長い長い群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の時代を経て、『 日の本(ひのもと)』として統一されたとつぶやいていたことを、、、。


 その蔵書を読んだ時、卑弥呼は確信していた。あの『 東の日出る国(ひがしのひいずるくに) 』の蔵書の中に記載されていたヤマタイコクは、今のトライトロン王国とは時間軸を異にしている王国の歴史的過去の史実が記載されたものであろうと、、、。


 今卑弥呼が住んでいる世界における邪馬台国の卑弥呼女王は、フラウ王女の知る限りでも既に千年以上君臨しているはずであるから、その蔵書に記載されている邪馬台国とは、世界或いは時間軸が異なる場所であるとしか考えられない。


 一方、その蔵書に記載されていたヒミコの寿命は、長くても百年で、その後は、『 日の本 』の歴史の中から綺麗さっぱりとその姿を消し去っている。

 そのことから、両方の邪馬台国には全く異なる時間の流れが存在していることは確実で、そう解釈すると、多少無理すれば辻褄(つじつま)も合ってくる。


 卑弥呼が見る限り、あの蔵書館の蔵書にはフラウの世界からすると遥か未来でしか知ることのできないような事柄が、過去の出来事として書かれていた。そのことを知ったからこそ卑弥呼はその蔵書館のことを『 異次元の蔵書館 』と名付けた。


 そう考えると、フラウ王女が今知りたいと思っている王国の近未来や近しい過去の歴史も、あの蔵書館の蔵書のどこかには記載されている可能性があった。

 

「そうじゃ!今フラウは確か『 空気 』のことや空気より軽い物の存在について知りたいと思っているのじゃろう 」


 卑弥呼は、あの蔵書のどれかに。『 空気 』や空気より軽い物を発見した過去の事例が既に記載されているはずだと確信しているようであった。そう!恐らく飛行船を動かす画期的な方法などについても、過去に成し得た出来事として、あの蔵書のどこかに記載されているはずだと、、、。


「それであの時お義姉様は、その蔵書館の蔵書で私の住んでいる世界が丸ごとそっくり買えると仰ったのですね、、、」

「そうじゃが、ある時間軸では、空飛ぶ飛行船どころか、夜になると月が見えるじゃろう。あの月や更に遠い星までたどり着けるような飛行船が発明されることさえもちゃんと記載されていたぞ 」

 

 一見、荒唐無稽(こうとうむけい)な卑弥呼の話も最近まで邪馬台国の卑弥呼の脳と同調していたせいか、フラウもある程度理解可能となってきていた。


 今フラウの住んでいる世界で、真に価値のあるものはあの蔵書館に保管されている蔵書に記載されている内容その物であった。

 万が一にも大いなる野心を持った侵略者等が王国の蔵書館に目をつけた場合、トライトロン王国だけではなく、フラウ達が住んでいる世界が丸ごと終焉(しゅうえん)に向かってしまう可能性すら十分に考えられた。


 また、逆にその利用し方によっては、その世界がかつてない程繁栄する可能性も秘めていた。事実、その蔵書館がトライトロン王国にある以上、やはりフラウ王女がこの世界の牽引役を担うことを、歴史は要求しているのかもしれなかった。


 そう考えると、フラウ王女はトライトロン王国が蔵書館を厳重に管理する義務を負っていると思えてきた。


「フラウお姉様!どうしたのですか?なんかボーッとされていますよ。もしかして、卑弥呼様と話されているのですか?」


「相変わらず、ジェシカは勘が鋭いのう!フラウや!お前の目でジェシカをじっと見つめてくれないかのう?わしも義妹の可愛い顔をじっくり見たいもんじゃな!、、、」


 ジェシカの顔を見て安心したのか、やがて卑弥呼の思念は次第に薄れ始めた。


 フラウ王女は、自分が本当に困った時や行き詰まった時に声をかけてくる卑弥呼に感謝しても仕切れないと考えていた。そして、今し方、卑弥呼の言った内容がこの蔵書館の中で知り得た知識であるとすれば、恐らくそのヒントはあの時卑弥呼が熱心に読み込んでいたあの『 東の日出る国 』の蔵書だろうとあたりをつけた。


 ジェシカ王女も確か卑弥呼から邪馬台国の言葉の解読を教わり、既に読めるようになっていたことをフラウは思い出し、二人で邪馬台国滅亡以降の『 日の本(ひのもと) 』 の近代化について、蔵書を片っ端から読みあさった。


 確かに卑弥呼がいうように、その蔵書の中にはフラウ王女達が今欲しいと思っている情報の多くが書かれていた。フラウにも少しながら理解できる内容の物もあった。ジェシカは、自分が選んだ蔵書をテーブルに置くと、『 東の日出る国 』の蔵書の一つを喰い入るように見ていた。


 『 空気 』の存在、空気の中に含まれるいくつかの『 酸素 』や『 二酸化炭素 』、『 窒素 』などの物質、空気より軽い物質の『 水素 』や『 ヘリウム 』の存在をジェシカはその蔵書から知ることができていた。

 ジェシカ王女の思考の柔らかさがその理解を比較的容易にしていた。


 またジェシカ王女は『 水素 』が非常に燃え安く、場合によっては爆発することなども知った。更に、『 ヘリウム 』は『 黒い水 』の中にも含まれていて、燃え難いことなどについても、、、。


 しかしその蔵書の意味するところは、結局はハザン帝国の飛行船開発が荒唐無稽(こうとうむけい)(まが)いものではないことを二人に理解させるには十分過ぎるものでもあった。


 そして、この課題を解決するためには王国内の科学や化学と言われる分野の専門的知識を有する者の存在が無ければ、とても実現するのは不可能という事実を改めて突きつけられてしまったことになる。


 このことは、取りも直さずトライトロン王国が自然の恵みが豊富であることに甘え、満足しながら生きて来きたその付けの支払いを、今ここでまとめて突き付けられているような気がしてならなかった。


 人間は必要に()られないとあえて自分から苦労を買って出るようなことはしない。いったん安穏(あんのん)とした環境にどっぷりと浸かってしまうと、あえて人は深く考えることをしなくなってしまう。


 正にトライトロン王国に与えられた五穀豊穣(ごこくほうじょう)の恵みが、王族や王国の民の未知を求める意欲を失わせてしまっていたと考えても言い過ぎではなかった。

 その原因と責任の大半は王族や貴族などの特権階級に依るところが大きいとも思われた。


 一方のハザン帝国は自然の恵みの恩恵を受けにくい環境にあった。その分、科学や化学の発展に頼る必要があったのかも知れない。

 必要に駆られると、その分野の学問は大きく発展していく。


 一方で、それが戦争の兵器として利用され悲劇に見舞われることも少なくないが、人間が成長していく歴史の過程の中では、それはそれである意味仕方のないことなのかもしれなかった。

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