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4−4 空気より軽いもの

 フラウ王女は父スチュワートへの頼みごとが終わり執務室を退出すると、妹のジェシカ・ハナビー・フォン・ローザス王女を連れて、蔵書館へと向かった。


 ジェシカ第二王女は蔵書館への姉からの誘いとあってひどく驚いていたが、正直フラウ王女は妹ジェシカの座学の能力を大きく買っていたし、特に最近妹の座学の知識が常識では測れない程格段に向上してきているとも感じていたこともあって誘ったのである。


「ジェシー!人間や動物が生きる為に絶対に欠かせないものにはどういうものがあると考える?『 愛 』なんて答えは許さんぞ。もっと現実的なものだ 」


 姉からの謎かけみたいな問いかけに、それでも決して冗談ではなさそうな雰囲気に押され、ジェシカ王女自身が考えていた回答をつぶやいた。


「水と食料ですか?」


 確かにそれらがないと、動物はそう長くは生きることができない。特に水は食料よりも大切だということが、この時代であっても万人の知るところであった。


「他にもっと大事なものがあると聞いたことはないか?」


 この時点で、ジェシカ王女は姉のフラウリーデが極めて真剣に問いかけてきていることを確信し、

 ” お姉様!どうやら本当に謎々(なぞなぞ)では無いのですよね!”

と、つぶやいた。


 ジェシカ王女は、『 東の日出る国(ひがしのひいずるくに) 』の蔵書の中で知ったことなのですが、と前置きして、自分の知り得ていた内容を語り始めた。


 自分達人間には見えないが、人間の命の根源(こんげん)となっている何かが、この世界中の至るところに存在しており、それは一部で『 空気 』と呼ばれ、その空気はこの世界中のいたるところを覆っていると考えられている。

 そして、もしその空気がないと動物は直ちに死んでしまう。そのような目には見えない何かが確かにこの空間には存在していると記載されていたことをジェシカ王女ははっきりと思い出していた。


 人間や動物はその空気というものを鼻や口から吸って自分達の身体の中に取り込み、それを生きるために使用し、身体の中で不要となった色々な物と一緒に再び鼻や口から外に出す行為を繰り返すことで人間や動物は生き続けていられるのだと、、、。


 実際、その蔵書の内容に触れた時、ジェシカ王女は自分自身で鼻と口を覆って試した。ものの1分も経たない内に、苦しくなったのを覚えていた。


 人が川とか湖に人が落ちた場合に、泳げない人は溺れて死んでしまうが、その水の中にはその空気が殆んど無いから、呼吸ができなくなり死んでしまうと記載されていた内容のことも併せてフラウ王女に話した。


 フラウ王女は、妹ジェシカ王女を蔵書館に連れてきたのに満足を覚えていた。

 やはり、ジェシカ王女は目に見えない空気の存在を知っていたのだ。

 そこで自分が人の目には見えない空気というものの存在について知りたかったのと、加えてその空気よりも更に軽い何かの存在を探していることをジェシカ王女に話した。


 またフラウ王女は妹にハザン帝国で開発中の飛行船についての話を始めた。空気より軽いものが実際に存在していた場合、それを袋の中に入れて漏れないように縛れば、空気より軽いから空に浮くのではないかということを、、、。


 そしてその原理を利用すると、空を移動可能な飛行船を作ることも夢ではなくなるとフラウ自身もそう思っていることも付け加えた。

 トライトロン王国において、もしその飛行船を開発することが可能であれば、プリエモ王国を始めとして多くの国々へ旅ができることや、多くの荷物を運ぶことができるようになり、夢が大きく広がるであろうとも付け加えた。

 

 ジェシカ王女は俄然(がぜん)目を輝かせながら、

 ” その時はぜひ私もご一緒させて下さい ”

というその目はいつに無く真剣に見えた。

 

 それからのジェシカ王女は、自分で作成した蔵書館の蔵書リストをめくりながら空気に関連する記載がありそうな蔵書をメモし始めた。そして、邪馬台国(やまたいこく)のことを記載した蔵書を含め数冊を引き出すとテーブルの上に置いた。

 大好きな姉に頼られたことに加え、プリエモ王国へも比較的簡単に行き来可能になる可能性が生じることに気がつき、ジェシカ王女の心に火がついた。


 そしてジェシカはその数冊の蔵書を小脇に抱えるると、姉と一緒に自分の部屋へと戻って行った。


 ジェシカ王女は、自分の部屋に入ったきりなかなか出てこなかった。途中夕食の時間だと呼びにいったジェシカ王女の侍女アンジェリーナもすげなく王女に断られてしまっていた。


「どうした?アンジェリーナ!ジェシカは食べないのか?」


 侍女アンジェリーナは、部屋いっぱいに蔵書をひろげ、一心不乱に書物を読んでいたジェシカ王女を見て、今までの王女に見られない気魄(きはく)を感じさせられ、一歩退いてしまった。それでもアンジェリーナは、少し遠慮がちに声をかけたが、

 '' いらない ''

の一点張りだったと彼女は少し悲しそうな顔をした。


「そうか!大丈夫だ。後で私がジェシカの部屋に簡単な食事を持っていくので、部屋で食べやすそうなものを適当に見繕(みつくろ)っておいてくれないか?」


 どうやら、ジェシカ王女に本気の火がついたようである。そのことは取りも直さず、ホッテンボロー王子に会える機会が得られるようになった可能性が影響しているのかもしれなかった。


 フラウ王女は、意図的にプリエモ王国行きを(ほの)めかした自分を申し訳なく思ったりもしたが、それ以上に、今のフラウ王女は『 空気より軽い物 』の存在をとにかく早く知らなければならないと焦っていた。

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