1−11 戦略会議
翌朝、クロード騎士隊長を伴ったフラウ王女が詮議場に入ると、全員が一斉に立ち上がって敬礼した。
フラウ王女は出席者全員を見回しながら、今から軍議を始めると宣誓した。
「皆んなも状況は聞いていると思う。持ち場の考えを順次聞いて行くので、報告内容を整理しておくように!」
フラウリーデ王女は出席者全員の一通りの意見を聞き終わり、
” これから戦略の立案を行う ”
大きく息を吸い込みながら身を乗り出した。
フラウ王女のその言葉を皮切りに会議場内に電撃が走ったように緊張で室内の空気が一瞬ビリビリと帯電したように感じられた。
これからが、『 龍神の騎士姫 』の本領発揮である。
戦略立案に当たり、フラウ王女は敵軍2.5〜3万に対して、王国軍は7,000の兵力しか居ないことを再度確認した。
第三軍務大臣メリエンタール・カルマは、最低でも7,000の兵力は、二週間以内に責任を持って戦える状況にすることを断言した。そのメリエンタール大臣の招集状況に関しては、既に各部隊からの最終確認も取れていた。
フラウ王女は第三軍務大臣の気負いの無いその目を見て、
” 私は、卿に兵の召集を命じて良かったと思っている。少なくともあの発言は希望的観測の発言では無かったようだ ”
と、労をねぎらった。
「第一王女様、いえ、『 龍神の騎士姫殿 』光栄に存じます 」
「その通り名では呼ぶなと言ってあるはずだが、、、」
「申し訳ありません!」
フラウ王女は、その言葉はこの戦に勝った時にこそ聞きたいと悪戯っぽく笑った。
フラウ王女は今度はジークフリード総参謀長の方を向くと、今回の攻防戦はかって無いほど激しいものとなるであろうと念を押しながら、ハザン国攻防戦にクロード騎士隊長を彼の副参謀長に考えていることを伝えた。
総参謀長もクロード近衛騎士隊長の常日頃の戦略的・戦術的な見方に関しては驚きと敬服を持って認めていた。そしてできれば一緒に仕事をしたいとも考えていた。
「しかし、クロード殿はフラウリーデ王女様にとってかけがえの無い王女様専属の近衛騎士隊長、姫様が先陣を取られるのであれば、姫様にこそ必要かと、、、」
「皆も感じているとおり、今回の戦はこれまでの反乱軍の鎮圧とは全くレベルが異なる。恐らく両国の存続を賭けた熾烈な戦いとなろう 」
フラウ王女は、今回の様に兵の数が圧倒的に少ない戦においては、正攻法では王国を守れるはずは無いと確信を持っていた。
この様な状況の時には、戦局や戦況の全体を空から俯瞰的に見ながら、そしてその都度都度に適正な判断を下しながら、加えて逐一最前線に新たな情報を最速で伝えることが、最終的な戦局を決める鍵となるであろうと考えられる。
出席者一同はその役を一体誰が出来るのかと考えていた。それは仕方のないことである。これ迄は全てフラウ王女自身が計画立案し、自身で戦局を見極め更に自らが攻め込んでいた訳である。その為か今回の様な状況にあって、にわかに王女意外の候補者が見つからないのである。
「私は、今回のこの一番重要なその仕事に、私が信頼するクロード近衛騎士隊長を使って欲しいと考えている 」
クロード近衛騎士隊長がフラウ王女の肘を突く。クロードがフラウと一緒に前線に出て、フラウを守りたいと思っていることは、彼女には十分に分かっていた。フラウとしてもクロードがそうしてくれたら、どんなにか心強った。
それはフラウ王女の個人的望みであり、少なくとも今回の戦では戦略こそが戦局の行方を決めるのは確実である。それを可能にすることができるのは、近衛騎士隊長のクロード・トリトロンの様に冷静沈着で、かつ物事を俯瞰的に見ることが可能な人材が何としても欠かせなかった。
それが出来る人材はフラウの知る限りクロード近衛騎士隊長以外には考えられなかった。
フラウ王女は、ハザン帝国の侵略など理不尽なことで、しかも筋の通らない理由で王国の民や兵隊を死んだり負傷させたりするのだけは何としても避けたいと考えていた。
「今回の様な身勝手で理不尽な侵略に屈することは、私の矜持が許さない 」
戦局として極めて不利な状況にあるこの現況を覆すには、自分の信じるクロードの能力を最大限生かす必要があるとフラウ王女には確信できていた。
その為、いつも自分の後ろを守ってくれている唯一信頼できるクロード近衛騎士隊長をしばらく手放すことになったとしても、もしこの戦に負けることは、結局自分とクロードの死、そればかりではなく女王も摂政も可愛い妹ジェシカの死までも確実となる。
フラウ王女はこの戦にクロードを戦士としてではなく作戦参謀としての手腕を発揮させることこそが、王国の生き残りの大きな鍵であろうと漠然とそう感じていた。
クロード・トリトロンはフラウ王女の自分を見るそのまっすぐな瞳に、王女の考えている多くを理解した様に頷いた。
「私の考えに、異論がある者は直ちにその理由と共に申し述べよ 」
申し合わせた訳でもなかろうが、皆んなが一斉に立ち上がりフラウ第一軍務大臣に最敬礼した。少なくとも、この会議に出ている者は誰もがフラウ王女の大きな変化にに驚きはしたものの、全員が支持したのである。
「隣国の侵攻が始まれば自分は前線に出るが、ここ当分は其方達と戦略、戦術を話し合いたいと思っている。私が邪魔とかは言わないよな?」
総参謀長は、滅相もないというような顔をして会議室を出て行くフラウ王女に立ち上がって最敬礼をした。それを見た他の武将達も同様にフラウ王女を最敬礼で見送った。