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4−2 ハザン帝国の飛行船

 フラウ王女は、あのように大きな船が空中に浮いていることそれ事態が、信じられないでいた。しかし決して彼女の認識が不足していたわけではない。当たり前といえばその通りで、この時代もし空に浮かんでいるものがあるとすれば、それは鳥か雲くらいしか知られていなかった。

 明らかに、人工物と思われるその大きな物体は地上100mくらいのところに浮いているのであるから無理もなかった。


「将軍?あの船はどうして空に浮いていることができているのだ?」


 フラウ王女の問いに、エーリッヒ将軍はしばし逡巡(しゅんじゅん)していた。そしておもむろにその飛行船について話し始めた。その飛行船に関する情報はハザン帝国の最高機密となっており、軍部の人間でも極めて限られた者にしかその詳細な情報を知らされていなかった。


 エーリッヒ将軍もラングスタイン大佐も陸戦部隊だったため、その飛行船についての詳細な情報はほとんど知らされておらず、軍内部での噂程度の内容しか持っていなかった。

 

 大佐は、聞き(かじ)った内容ですがと前置きして、この世界の空に存在している『 目に見えない何か 』について、ハザン帝国内でうわさされている話しを始めた。

 人間の目には見えないが、この世界の自然界に確実に存在しているもののひとつに『 空気 』と呼ばれているものがある。そして人間などの動物が生きていくためには、その口や鼻からその空気を身体の中に常に取り入れることで生きていることができているのだと、、、。

 

 また、自然界にはその空気より更に軽い何かも存在しており、それを選び出し集めて飛行袋と呼ばれる薄い袋に詰め込むことによって、飛行船は空中に浮いているとうわさされていた。


 自分にはさっぱり理解出来ない内容ばかりだったと付け加えた。エーリッヒ将軍も『 確かにそうだった 』相槌(あいづち)を打った。


 フラウ王女も理解できないのか、彼らの話の途中で『 空気 』、『 軽い 』 と何度かつぶやいていた。

 

 この世界に目に見えない空気というものが実際に存在していたと仮定し、その空気より更に軽いものがあった場合、それをかき集め袋に詰め込むことが可能であれば、その袋が空中に浮くことは何となく理解できた。

 フラウリーデ王女は水の上に浮いている木の葉を想像しながら、そう理解した。

 

 実際に空気より軽いものが存在することを前提に、それを飛行袋に詰め込むことで飛行船が空中に浮くことは理解できる。しかし上空に浮いているだけではトライトロン王国までたどり着けるはずもない。

 その飛行袋を目的地まで進める為には特殊な推進用の機械が必要になるであろうことは(おぼろ)げながらも想像できた。


 エーリッヒ将軍は、ハザン帝国の国民のうわさの範囲を出ませんがと前置きしながら、船の後ろに大きな風車のようなものを取り付けて人力で風車を回すことによって前に進むのだと聞かされていた。もちろんその詳細については彼らの想像の及ぶところではなかった。


 フラウ王女は将軍達の話を聞きながら改めて考えていた。

 もし彼らが話してくれたことが事実であるとすれば、この世界におけるこれからの戦争の在り方は全く変わってしまうかも知れなと漠然と感じ、彼女の背中を冷たいものが走った。


 最近になってハザン帝国において剣士が重宝されなくなってきたと将軍達が話してくれたことがあったが、その理由の一端にこのような大型の戦争兵器の開発が影響しているのではないかとフラウ王女は考えた。


 そう仮定すると、今後兵士同士が剣、(やり)や弓矢などを持って競う時代は、遅れ早かれなくなってしまうであろうと予感され、大きな戸惑いを覚えていた。


 先の(いくさ)でハザン帝国を無傷で退け、当分はトライトロン王国や近隣国も安泰であろうと考えていたが、フラウのそういう考えはかなり甘かったのかもしれなかった。

 将軍達の話によるとまだ試作段階であるのは確実だが、仮りにハザン帝国の飛行船が完成し、ある日突然国境を超えて100機の飛行船がトライトロン王城の周りを取り囲んでいる光景を思い浮かべると、彼女の背筋を大きな戦慄(せんりつ)が突き抜け、思わず身震いした。

 

 ハザン帝国の飛行船が空から、王城や王都街目掛けて火のついた黒い水を投下する光景はフラウ王女にも容易に想像できた。彼女はまるで悪夢を見た時のような恐怖感にとらわれ自分の頭を何度も振っていた。


 もしそのような事態が発生した場合、現状の王国ではなす術もなく王城が焼かれ、王都街も全て焼きつくされてしまうだろう。

 逃げ場を無くした多くの王都民が逃げ惑い焼かれ死んでいく様子が容易に想像できた。そしてその時に、ただじっと見ていることしかできない自分の無様な姿が脳裏に浮かび、事態は予想していたのよりもはるかに深刻なような気がしてならなかった。


 加えてこんな重要な情報への対応は自分一人で抱ええることは大き過ぎる内容だという不安にも(おそ)われてきた。もしこれが剣術に関することであったなら、何の迷いも無く自分だけで解決しようとしただろう。


「それにしても、ハザン帝国は民を飢えさせまでして兵器の開発に余念が無いとは、どういう思考回路を?」


 フラウ王女は国民が飢えて餓死しているという状況下で、ハザン帝国は一体何をしているのだという(いきどお)りを感じていた。

 だがこのハザン帝国による他国の侵略に関する考え方は、長年トライトロン王国のように豊かな自然に恵まれ、深刻な飢えをほとんど知らないフラウ王女や王都民には恐らく理解できない思考の展開であったのだろう。


 とは言え、元ハザン帝国兵二人の話から、現実にハザン帝国はトライトロン王国を始めとして全世界を制覇(せいは)する目的で大型の破壊兵器を最優先で開発を進めているのはほぼ確実と考えられた。

 

 事情はどうであれ、現実にトライトロン王国占領を前提としてハザン帝国の大型破壊兵器の開発が進められていることは紛れもない事実であるようである。。

 トライトロン王国の立場としては、ハザン帝国が飛行船で王国を攻めて来る前にその飛行船に対抗する手段を確立しておかなければならないことだけは明確であった。

 

 フラウ王女の世界にも『 目には目を、歯には歯を 』という(ことわざ)があるが、ハザン帝国の飛行船襲撃に対する具体的な対抗手段については、彼女のの想像の範囲をすっかり超えていたため、見えない不安で頭の中は焦燥感で一杯になってしまった。


 そういう中で妹ジェシカ王女の存在は、フラウ王女にとって暗闇のトンネルの向こう側の小さい明かりであった。フラウ王女はその薄明かりを信じて、ジェシカ王女の能力を信じて、邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)を信じて前に突き進む気持ちを新たに固めるのだった。


「どうやら、吹っ切れたようじゃのう、フラウ!。お前のことだから、自分でその結論に到達してくれると、わしは信じていたぞ 」


「お義姉様!どうして?」

「いやな!ちょっと暇じゃったもんで可愛い義妹と話そうと思ってな。 降りかかってくる火の粉は自分で振り払わなければ誰も助けてはくれんからのう 」


 卑弥呼は何でもないことのように、何の戸惑いもなくそう言ってのけた。卑弥呼のその口振りから、フラウ王女は、ハザン帝国の飛行船は近い内に完成しトライトロン王国を目指し、飛来してくることがほぼ確実であろうと予想した。


 フラウ王女は、自分達に許されている時間はどれ位あるのかが気にはなったが、それを卑弥呼に尋ねることはしないで、早急に技術的な対抗策を立案することを決意した。


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