表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/417

3−34 フラウ王女と卑弥呼の思い

 ハザン帝国からのエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐の家族救出作戦も無事に終わり、みんなが王国に帰りついてから四日ほどが経った。

 先の家族救出に当たって、フラウ王女はもっと他にいい解決法が無かったのかを再び考え始めていた。

 あの夜卑弥呼の思念がフラウ王女の頭の中に入ってきて、それに慰められ一時は納得できたつもりでいたのだが、今フラウリーデ王女は、自分の部屋のソファーで三度目のため息をついた。


 本当にあれが正しかったのかと再び考え始めていたからだ。数日前に見た悪夢のせいかもしれない。日が経つにつれ、今回自分が取った行動とは違う他の適切な解決法が無かったのかと、、、


 卑弥呼(ひみこ)の白くて端正な顔を深く念じた。

 しばらくして、フラウの脳内で、

 ” この間会ったばかりじゃないか?どうしたのじゃ!そんな泣きそうなまでに感情を(たかぶ)らせて、また新たな問題でも発生したのか?”

どうしても会いたくてたまらなかった卑弥呼の優しい声が聞こえてきた。


 フラウ王女は、卑弥呼の等価交換の話を聞いて一応理解できていたつもりだったのだが、日が経つにつれ、自分達が殲滅したあの暗殺者にもきっと家族があっただろうにと考えると、胸が張り裂けそうなっていた。

 卑弥呼自身、ここしばらくフラウ王女の不安定な心の動きは既に知っていたが、この問題は、これからフラウ王女がトライトロン王国を背負っていく以上、自分自身で解決しなければならない課題と考えていた。自分にとっての大事な人を守る、或いは国を守るということは結局は、それを邪魔する存在は全て排除するしか方法はなかった。


 以前、卑弥呼はフラウ王女に ” 陰と陽 ” の話をしたことがある。また綺麗事だけでは決して政治は行えない。実際、エリザベート女王やスチュワート摂政も王国やフラウ達を守るために意に沿わない反逆者の抹殺や粛清を余儀なくされてきた。フラウ王女が成長し、今やまさに彼女自身が決断し実行しなければならない立場になりつつあった。


 フラウ王女はこれまで多くの場合、自分や家族あるいは王国の民に危機が及びそうになった場合、その脅威を排除するために剣を抜き、その加害者を殲滅(せんめつ)してきた。

 それは、相手命を奪うという意味では全く同じことであるが、精神的には少しは許されるような気がしていたが、実際には理由はどうであれ、殺された相手にとっては何ひとつ変わらない。


 確かに、直接自分の手を汚さなければ、少しは罪の意識が少なくて済んだのかもしれない。しかし実際のところ、本質は何も変わらない。それでもフラウ王女は、今回は自ら暗殺者を一方的に蹂躙(じゅうりん)した行為が自分を益々追い詰める結果となっていた。


 しかし、フラウ王女が人質を奪還すると決めたその瞬間から誰かがそれを実行しなければならなくなったはずである。もし、仮りにフラウ自身がハザン帝国に行かなくて、婚約者のクロード・トリトロンに任せて、自分は王城に残ったと仮定する。


 そして、救出劇の一部始終を婚約者のクロード・トリトロンから聞いたとする。その場合、婚約者にその業務を命じたことを、間違いなく後悔することになったはずである。

 婚約者のクロードに命令するくらいであれば、自分の手を汚す方が、未だよかったと、、、。


 フラウ王女の周りには既に王女の命令とあらば、それが例え理不尽な命令であろうと、それを実行に移す部下は少なくない。確かに自分が直接手を下さないと少しは気が楽になる。


 それでも、その役目を婚約者のクロードには命じたくないと思うのは、間違いなくクロードを家族と思っているからであろう。ある目的を達成する為に誰かを殺めなければならなくなった場合、誰がそれを実行するかは大きな問題ではない。


 犯罪者の死刑が行こなわれた時、実際に刀で首を落とした死刑執行人が悪いのか、そうするように執行命令を出した為政者に責任があるのかを考えると、少なくと消去法で考えると死刑執行人に罪があるとは考えられない。

 執行命令さえ出さなければ、犯罪者は斬首されることはなく、死刑執行人も自ら手を汚さずに済む。


 確かに今回の人質救出作戦とは本質は少し異なるが、基本的な意味合いは何も変わらない。

 王女の命令に基づき、自分の部下が実行するか、自分の手で直接相手を無力化するかの違いくらいでしかなかった。

 自分の手さえ汚さなければ、それで構わないと考えるような為政者こそ失格と思える。


「フラウや!確かにこの先も似たようなことが起こるでじゃろうが、自身が自らの手で行うべきかどうかは、確かに熟考する必要があろだろうな。何れにしても、王国の正義を貫くためには、敵の正義と戦うことになるのだけは確かじゃ 」


 確かにそのような争いはいつどこにでも発生してもおかしくはない。ただ必要なのは、それが自分自身の虚栄心のためだけか、真実王国の民のためであるかによって変わってくると思われる。


 フラウ王女自身、これから自分がどのような為政者(いせいしゃ)になろうとしているのか、あるいはなっていくのか、とても不安になってきていた。それでも卑弥呼と話をしていると、自分が徐々に怪物に変わりつつある不安が少しやわらいでいくような気がした。


 人を導くということは、自身の中にある信念に基づき行動する必要がある。そして、その行動の後ろには必ず民がついていなければならない。

 実際、卑弥呼自身も千年以上も似たようなことを悩み続けてきていた。そして今でもそのことで悩んでいる。いつまで続くともしれないその悩みは、一千年以上も生き続けている卑弥呼であってもやはり精神を痛める。


 僅か十九歳のフラウ王女が悩んだとしても決して非難されるべきものではない。むしろ悩むことを放棄する方が極めて罪深い。

 人間は常に自分の行動に常に真摯(しんし)に向き合わなければならない。それが自分にとっての痛みであろうと部下や市民の痛みであろうと、、、。


「フラウ王女が悩むことを忘れてしまえば、後世に名を残す『 暗愚な女王 』に成り下がってしまうことじゃろうて、、、」


 一国の王や女王の罪や功績は決して自分自身で決めれるものではない。周りや後世の歴史家が何れ決めることになるであろう。それでも卑弥呼がフラウの義姉である限り、フラウを後世の歴史家が非難するようなことにはならないであろう。一千年以上もそのことで悩み続けている卑弥呼がフラウ王女についている限り、そうはならないはずである。

 卑弥呼はフラウ王女が今回の救出作戦で大きな罪の意識を感じ、そして今でも悩んでいることにむしろ安堵していた。


 卑弥呼はフラウ王女が先の人質救出作戦での出来事を真剣に悩んでいるそれ事態が、将来王国を背負う女王としての大切な資質であると考えていた。


 卑弥呼は、

 ” わしが、お前の義姉でいる限りお前を後世に悪名を残すような女王には絶対にさせないから安心せよ ”

という言葉を残してフラウ王女の頭の中からその思念は消えていった。


 一方でフラウ王女は、今日のこの涙を最後に、力強く王国を率いる覚悟を決めると、自分の気持ちを引き締めるかのように、自分の頬を叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ