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3−32 忍びの部隊殲滅(3)

 フラウ王女は将軍達の家族の感謝の話を聞き終わった。

 そして、慣れない長時間の乗馬で疲れているだろうと、せめて今晩は家族水いらずで過ごしてほしいと伝え、部屋に下がらせた。


 エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐それに彼らの家族がそれぞれ部屋に戻った後、グレブリー大佐を呼んで、今回の救出作戦に当たってくれたダナン砦の二人の騎士について、その名前と大佐自身が彼らをどう評価しているかについて聞いた。


 二人の名前は、トライト・シュベール少佐とリモデール・バインド少佐。

 グレブリー大佐が最も信頼している部下で、決して失敗の許されない仕事の時には必ずというほどこの二人を使ってきた優れた人材であった。

 しかし二人とも可成りくせが強く、グレブリー大佐は自分だけが王都に赴任した場合、後任者にとってはさぞ扱いづらい存在となるだろうと危惧(きぐ)していた。

 

「やはりそうか、それにしても、グレブリー大佐にくせが強過ぎると思わせるあの二人は一体どれほどのくせ者なのか?」

「それは、幾ら何でも(ひど)い言い様ではありませんか?」


「あの二人王都勤めする気は無いのかな?」


 王都までの道のりは、家族連れにはちと長すぎる。もしあの二人が同行してくれれば、道中の安全は間違いない。

 フラウ王女そう言いながら、あの寡黙(かもく)な二人が汚れ仕事を黙々と嫌な顔ひとつせずこなしていた姿を思い出していた。


「どうだ!一緒に連れて行き、将軍の副官として使って見る気は無いか?」

「それは可能でしょうか? 」


「可能かどうかは、結局はお前の考え次第じゃ無いのか?お前が将軍になれば、ダナン砦は当然将軍の管轄(かんかつ)となる 」


 グレブリー大佐自身としては、くせの強い二人を砦に残しておく不安もないわけではなかった。しかし王都に赴任すれば、今以上にあの二人の存在が自分にとって、フラウリーデ王女にとっても必要になるような気もしていた。


「それじゃ、あの二人をここに呼んでくれないかな?」


 少佐二人は少し緊張した面持(おももち)ちで、部屋に入ってきた。

 フラウ王女は入ってきた二人に、

 ” トライト少佐、リモデール少佐!今回の作戦での働き大変ご苦労であった。お陰で家族全員を無傷に救出することができた ”

と声をかけ、ソファに座るように勧めた。そして大佐に王都赴任の話しを促した。


 大佐が二人つぶやいた言葉は 、

 ” 俺に着いて王都に行かないか?”

と凡そ個性の無いものであった。

 いや、ある意味個性的過ぎたのかもしれない。

 フラウ王女は 、

 ” 大佐!結婚の申し込みじゃ無いんだぞ ”

と吹き出してしまった。


「フラウ王女様がお前達に王都勤めする気は無いかと仰られている 」


「ちょっと待て、大佐!お前が連れて行きたいんだろう?そうはっきり言え、王都勤めの辞令を出すと。そうか、大佐にも苦手なことがあったんだな。百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の戦士と思っていたんだがな。フフフ、、、」

 

 なかなか大佐の話が進まないのに呆れたしまったフラウ王女は、二人に早速仕事を命じた。その内容は、将軍と大佐の家族を守り王都まで案内すること。そして以降はクレブリー将軍の配下で副官として将軍の補佐をするとの内容であった。

 但し、最終的な選択権は彼ら自身に委ねた。

 フラウ王女自身、この二人が王都への辞令を断ることはないとの自信があった。


「フラウリーデ王女様の王都辞令喜んで拝領(はいりょう)致します 」

 二人は、笑顔で応じた。

「これで決まったな。早速、明日早朝の出立準備をしてくれ。一旦赴任後に、必要があれば休暇を利用し砦に帰って構わない 」


 二人が出て行った後グレブリー大佐は、

 ” 私が彼等を連れて行きたかったのも確かですが、本当はフラウ王女様が彼等を必要としているのじゃ無いですか?”

とフラウに聞いてきた。

 

「そうだな!正直言うと、彼等のように有能で言葉は悪いが、必要に応じて王国の汚れ仕事を確実に処理できる人材を今後私が必要とするのは確かだ 」

 

 もしグレブリーが大佐の職責のままで王都に赴任するのであれば、大佐が居てくれることで大方の仕事は事足りると思われるのだが、将軍ともなると軽々しくは動けなくなる。その場合、彼等のような影の動きが可能な存在がこれからの王国には必ず必要になるはずだった。


 トライト小佐とリモデール小佐であれば、間違いなく王国屈指の守りになってくれることだろうとフラウ王女は考えていた。トライトロン王国が圧倒的な力でハザン帝国の侵略を殲滅(せんめつ)した事実は、既に多くの国々が知るところとなっているだろう。

 そうなると、今度は陰で暗躍(あんやく)する(やから)があちこちの国で発生してくることも十分に予測された。また、王国内の貴族達の動きも気になるところであった。

 

「ところで王女様、エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐殿は王女様自らが手を汚すほど信頼に値する人材なのでしょうか?」


「私とクロードは、ハザン帝国侵略の際に直接剣を交えた。恐らくエーリッヒ将軍があの時自分の持てる力の全てを私にぶっつけてきていたら、私は今もうここにはもういない可能性が高い。クロードも負けなかったとしてもきっと深手を負っていたと思っている 」


 そして、フラウ王女は彼等が自分達二人の命と引き換えに部下15,000名の命乞いをしたことを語った。もし、あの戦場であの二人が自分との約束を破り、ハザン帝国兵隊を動かしていたら自分達も含め王国の精鋭騎兵50騎は一溜りもなく殲滅されたであろうし、また王城もハザン帝国に占拠された可能性が高いと、、、。


「あの二人は真剣勝負の短い時間の中で、自分達がもう一度生き直す場所としてトライトロン王国に希望をつないだのではないかと思っている。ただ単に自分達の命欲しさにハザン帝国を裏切ったのではないと確信している。そのことはお主も十分に理解した上で聞いているのだろう 」


「申し訳ありませんでした。出過ぎたことをいいました。私自身も今回の救出作戦で、彼等が十分に信頼できる人間であるのは分かっているつもりです。王女様を試すような言い方をしてしまいました。失礼しました 」


「良い、良い。私がお前に期待しているのはお前のそういう部分だ。お前であれば、他の部下が言いにくいことでも私に讒言(ざんげん)してくれるだろう。これはクロードも同じ考えだ 」


 翌朝トライト少佐とリモデール少佐は身軽な服装で顔を見せた。

 グレブリー大佐は休暇返上で王都に赴任することを、

 ” 王女様は人使いが荒い ”

とブツブツ言いながら準備を急いでいた。


 それでも彼の顔は、新しい冒険を見つけた少年のように輝いていた。考えて見ると、辺境の砦とはいえ、クロード近衛騎士隊長と同じくらいの年で既に大佐である。少なくとも彼の軍事処理能力については疑う余地の無いものであろう。

 グレブリー大佐は、恐らく少年の心と大人の頭脳と胆力を合わせ持った人物のようにフラウ王女には思えていた。

 それでも、未だこの時点では、グレブリー大佐が生涯の友となることまでは知るはずもなかった。


 一行は馬に(むち)を当てダナン砦を後にした。ラングスタイン大佐の息子は、母との相乗りである。エーリッヒ将軍の娘は彼女の祖母と相乗りしているが、昨日の挨拶といい、今朝の騎乗姿といい若い頃にそれなりの兵隊と関連のある仕事をしていたのでは無いかとさえ感じさせられるように矍鑠(かくしゃく)としていた。

 将軍は奥さんと相乗りである。


 先頭には、トライト少佐が、殿(しんが)りにはリモデール少佐がついている。途中野宿を余儀なくされたが、誰も不満を漏らすこともなく自分にできることを黙々とこなしていた。

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