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3−30 忍びの部隊殲滅(1)

 翌朝早く七人はシンシュン国が準備してくれたハザン帝国の一般市民が普段着として着ている服装に着替え、得物(えもの)は馬にくくり付けた荷物の奥の方に(まぎ)れ込ませていた。


 半日以上馬を走らせると、やがてシンシュン国とハザン帝国の国境にある関所に着いた。そこはシンシュン国からハザン帝国への国境を越える商人や旅人達で長い列ができていた。それを見た七人は顔を見合わせながら、その列の中に別々に(まぎ)れ込んだ。

 もちろん通行手形はシンシュン国に発行してもらっている。


 グレブリー大佐は、突然にフラウ王女が三人の男を引き連れて堂々と関所破りを行っている光景が思い浮かんできたが、まるで悪い夢を見てしまったかのように首をフルフルと振っていた。


 この関所を越えると、ハザン帝国の首都までは馬であと2時間位である。


 エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐の家族は、首都の郊外に住んでいる。幸いにも二人の住居は百メートルと離れていない。

 7人は二手に別れて、大佐の家族が住む家と将軍の家の付近をそれぞれ偵察し、大方(おおかた)の情報を把握したのちに再び合流した。


 想定内ではあったが、彼らの住居の周りにはハザン帝国の軍服ではない私服を着た男が数人ずつ配置されていていた。大佐の話では彼らは暗殺を生業(なりわい)とする者だということであった。

 確かに歩く姿をみる限り、その隙の無さは兵隊の物とは全く異質のものであった。ただ黙々と無言で警戒を続けていた。

 家の中の詳しい様子までは探ることができなかったが、家族は無事に家の中に居るらしいとラングスタイン大佐は(ささや)いた。


 グレブリー大佐は、家の周りに忍びの暗殺者が見回りをしているというのは、間違いなく家族は無事に居ることの(あかし)だと思うと言い、全員もその推測は正しいと感じていた。


 エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐は、この状況について裏で糸を引いているのがココナ上級大将であろうことを確信していた。そうなると、見張りがフラウ王女達の侵入を上級大将に連絡するより先に暗殺者集団を全て殲滅(せんめつ)しなければならない。


 フラウ王女は、

 ” これではどちらが暗殺集団か分からないな ”

とつぶやきながら彼女は以前に卑弥呼が話してくれた ” 陰と陽 ” の剣術をふと思い出していた。


 フラウ王女とクロード近衛騎士隊長がハザン帝国の剣法をあらかた習得していたことは、たまたまとはいえ、今回の救出作戦には有利な条件になると考えられた。


 トライトロン王国の剣法は言葉と殺気をたくみに使い分けながら相手の弱点を見つけ出し攻撃するものである。一方のハザン帝国の剣法は、終始無言のことが多く、相手が()れるのを待って攻撃する。考えようによってはいわゆる殺人剣である。


 将軍と大佐の家は百メートル程離れているが、まず最初に大佐の家を見張っている暗殺者全員を一人も逃すことなく一気に殲滅(せんめつ)しなければ厄介なことになる可能性がある。


 ラングスタイン大佐とダナン砦の騎士、フラウ王女とグレブリー大佐、クロード近衛騎士隊長とダナン砦のもう一人の騎士、それにエーリッヒ将軍の4組に別れ、見張っている8人の暗殺者集団を無力化することにした。


 エーリッヒ将軍は、

 ” 見張りに気付かれないように後ろから近づき、まず一人を無力化し、もう一人がそれに気が付いて声を出す前にその命を断ち、更に必ずその二人が間違いなく死んでいることを確認する必要がある ”

と皆にささやいた。

 

 見張りの暗殺者集団は二人づつの4組で見張っている。将軍は二人の暗殺者に気付かれないように静かに近付くと、『 ご苦労さん 』と低い声をかけた。後ろから聞こえてきた声を不思議に思い振り返った暗殺者の一人を居合切り(いあいぎり)の初手で切り上げ、次手でもう一人の暗殺者の首を狙って切り下げていた。


 どちらも声を上げる間も無く頸動脈と延髄を断ち切られ、崩れ落ちた時には既に絶命していた。その間、ものの10秒と掛かっていない。元々戦いの最中で声を出さないことを信条としている忍びの者の欠点が幸いした。


 将軍の戦いを横目に見ながら、フラウ王女は別の暗殺者二人の後ろに近づくと、剣の(つば)を軽く鳴らした。その音に振り向いた暗殺者はフラウの突き出した剣で心臓を抉られ声を出すまでもなく即死していた。


 隣にいた暗殺者がその仲間が倒れたのに気付き振り向いた時には、グレブリー大佐の剣が彼の腹を切り裂き、返す刀で頸動脈が切り裂かれこれもまた声を出す暇も無かったようである。


 クロード近衛騎士隊長とダナン砦の騎士は、家の反対側を見回っている暗殺者達をやはり1分もかけずに無力化していた。

 さすがにクレブリー大佐が選んだ騎士、息を呑むような素早い剣裁(けんさば)きでもう一人を倒していた。ほとんど時間を同じくして、ラングスタイン大佐とダナン砦のもう一人の騎士も、二人の暗殺者を完全に無力化していた。

 

 全ての暗殺者が確実死亡したことを確認したラングスタイン大佐は、自分の家に入った。家の中には妻と五歳になる息子が台所に座っていた。大佐を見た妻は、自分の夫が戦死したと聞かされていたらしく、驚愕(きょうがく)に続き、泣きながら大佐に走り寄ってきた。

 五歳の息子は、

 ” お父さんお帰りなさい ”

と言って喜んでいた。


 大佐はほんの2〜3分で妻に状況を説明し、

 ” 今から将軍の家族を連れに行く。出かける準備をして暫く待っておく様に ”

と言うなり家を走り出ると、既に将軍の家の近くまで行っていたフラウ王女達と合流した。


 エーリッヒ将軍の家の周りにも、同じように八人の見張りの暗殺者が配置されていた。自分達の仲間八人が既に殲滅されたしまったことを知らない彼らは、時々低い声で話しながら家の中を時々(うかが)っている。


 フラウ王女は、家の入り口近くを見張っている暗殺者に目をやって、その後、将軍に目を向けた。フラウの意図(いと)に気付いた将軍は(うなづ)きで返した。フラウは他の仲間達にも同様に目配(めくばせ)せした。

 その意図を理解した誰もが音を立てることもなく自分の対峙する相手を定め、静かに散らばった。後は約束通りのように数分も経たずに全員を殲滅(せんめつ)していた。


 先に入り口近くの暗殺者二人を倒した将軍は、既に母親と妻と15歳の娘を説得し通行手形だけを持たせて外に出るところだった。

 

 ダナン砦の騎士二人は、事件の発覚を可能な限り遅くするために自分達が殺した暗殺者の死体を人目の付かない場所に隠してから駆けつける旨を伝えると、皆に先に行くように促した。

 五人と将軍の家族三人は、ラングスタイン大佐の家に急いだ。そして大佐の家族と合流し、ダナン砦の二人の帰りを待って国境に向かおうとしていた。

 帰ってきた二人は、ここでも挨拶もそこそこに暗殺者の死体の処理を始めていた。


 フラウ王女は、そのダナン砦の騎士の二人に、

 ” 済まない。ありがとう ”

と労いの言葉をかけた。

 フラウ王女の口から出た謝罪の言葉に、ダナン砦の騎士二人は黙ってただ首を振った。

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