私のスマホの検索履歴〜魔王を倒せた〜
「なぜ、なぜ、か?それを我に問うか、勇者よ」
玉座から、ここにたどり着いた人の英雄達──勇者を見下ろす魔王は、ここにきての問に、答える。
「なぜ、なぜか。なぜ、我が人を滅ぼさんと欲するか、か。それを、我に問うてきたのは、200年ぶりになるか」
魔王は不死だ。
魔王は不老だ。
もとより長命種族たるエルフ──魔王自身により滅ぼされた──が、魔法を極めて己の死をも超越した。これが、魔王だ。
「我は──もう、飽きたのだ」
それはどこまでも身勝手で、自分本位だった。
「最初に聖術を学んだ。ついで、魔法を修めた。神も探求した。無論のこと、体術も、武術も。ああ、人についての──医学といったか?あれも、究めた。美について、芸について極めた。科学の果てを、人々が生み出すテクノロジーの果てを我は見た」
過去を振り返り、まるで夢見心地であるかのような口調だった。
「この世のすべてを極めてしまい──我は飽いたのだ。つまらん。実につまらん。我の無聊を慰めるものなど、もうこの世にはない」
魔王は億劫そうに──否、事実億劫なのだろう、ため息を吐く。
「だから、我はもう、この世を亡ぼすしか無いのだ。こんな世界はもう必要な…………おい、何のつもりだ勇者。それは、見ればわかる。スマホだろう、そんなもので、我の無聊は────なんだ、このサイトは。ほう、創作物投稿サイト?それも、知っておる。たしかに、極稀に我の琴線を揺さぶる者も────おい、おい、おい、おい、なんだその単語は」
「同一人物CPショートケーキ化……とは、なんだ?」
「え……?ケモってこんなに需要高いの…………?」
「NTRしか、描かないのかこの絵師……………?」
「ふむ……実に練り上げられた純あ…………NTR!?丁寧に脳破壊するための下ごしらえで、純愛描写を欠かさないだけのNTR!?」
「いやこれは……もう人体ではなく…………人とは…………有機物とは………………カプとは……………尊厳とは…………尊厳は排泄される……………………なにこれえ」
◆
「ねえ、賢者」
「なんだい、勇者」
「別にさ。別に、私が頭悪いせいかもしれないけどさ」
実のところ、勇者にはなにが起きているかが、理解できていない。
パーティーメンバーの一員たる、賢者が彼自身の携帯端末を、突然魔王に見せたのがきっかけということは、わかるのだが。
「見せたのって、あんたの履歴、よね?」
「そうだよ」
「あんたの性癖、多岐にわたりすぎない?」
「僕は、賢者だよ」
違う意味に聞こえてきた勇者は、浮かんできた違う意味を頭から追いやりつつ。
「完全に魔王、戦意失ってるけど」
魔王と呼ばれる個体が、急速に人類圏を侵してきたのは50年ほど前だ。魔法と呼ばれる未知の力により、人々はその数を1/3まで減らされていた。要するに、かなりピンチであり、その魔王を倒すための人類の希望。それが、勇者だった。
その勇者が、なんとか魔王を追い詰めたは良いが、魔王の圧倒的な力により手詰まりとなっていたのが、ほんのつい先ほどまでのことだった。
が。
今やもう、スマホの虫である。あの、魔王が、だ。
「そりゃ、戦意も喪うに決まっているさ。ねえ、勇者、魔王はかなり正直に、侵攻理由を教えてくれてたじゃないか」
「まあ、うん」
「つまり、さ」
「えええええええ!?生えてる!?なんで、無機物を擬人化した上で美少女に変えて、そこに生やしたのだ!?生命への冒と…………無機物なら冒涜にならない、のか……?人間、おもしれえ…………………!」
「人の性癖で、しばらくは飽きる暇も失くならせることができるんじゃないか、って考えたんだ」
「あんたのスマホの検索履歴が、えげつないだけなんじゃない?」
賢者は、笑ってごまかした。
「あ、因みに僕の分がおわったら、勇者のやつ見せてね」
「なんで?」
「だって僕、君のカバーしてる範囲は流石に拾いきれてないから。ほら、少年漫画の男性キャラたちの純粋な友情とか」
「なんで知ってんの私のあれを!?!?!?」