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第六十一話 白亜の翼

 ドドドドドン!


 上から降り注ぐ弾幕がパウダースノーと死せる兵士の血肉を撒き上げ、ただでさえ悪い視界を塞ぐ。

 紅白の飛沫の中から、鈍く輝く光が見えた。

 

 「……畜生!」


 咄嗟にバク宙を踏んで煙幕の裏から飛んでくる弾丸を回避。

 着地する直前にバーニアをふかして横にスライド移動して追撃を躱す。


 足をつけた瞬間、吹雪を切り裂くように敵が飛来してくる。

 猛禽類の狩りの様に放たれる奇怪な脚部の一撃と交錯する形で非実体剣で一太刀入れんと試みるが、寸前で急上昇され攻撃はハズレ。鋭い爪の先端が肩口の装甲を少し抉った。


 「グッ……」


 微かに血が滲む。

 一瞬動きが止まった隙に、更に弾丸が降り注ぐ。

 

 このタイミングで大きく動いての回避は不可能。だったら!

 

 右手で非実体剣をくるりと一回転させて初撃をガード、続けざまに縦斬り横切りと繰り出して二撃三撃と撃ち落とし、小さくジャンプを挟んでからの横薙ぎで四撃目を弾き返す。

 生まれる一瞬の猶予で体を射線から外し、突っ込んでくる三体をどうにか回避する。

 

 「ジャンナ!すまん!」


 「了解です!」


 空中でロンダートのように跳ね、黒い巨体の裏に隠れて虎口を凌ぐ。

 ガンガンガン!と大音が鳴り響いてエネルギー弾が装甲表面で弾けた。


 「グ、ウゥ……!すいません、長くは持たないかも!」


 「分かった!無理はしないでくれ!」


 黒騎士の背後から飛び出し、再び回避に専念する。

 馬鹿げた量の弾丸の群れの弾道を見極めながら駆け抜けながら呼びかける。


 「雨衣ちゃん!ドローンであいつらと撃ち合えないか!?」


 「すいません!こっちも凌ぐのだけで手いっぱいです!」


 「クッソ!」

 

 黒髪をひらめかせ、シールドを張ったドローンをしきりに体の周りで飛翔させて攻撃を防ぐ雨衣ちゃん、そこに張り付いた表情は必死そのものでとても余裕はなさそうだった。


 剣を遮二無二振り回して迎撃しながら、前ダッシュで弾幕の隙間を潜り抜ける。

 ったく、キッツイ!


 回避の中で光子銃を何度も打ち込むものの、舞い上がる雪でエイムアシストすら働かない状況ではろくに当たりやしない。

 

 近くで交戦している部隊でも銃口を天に向けて撃ち落さんとしているとしているものの、成果は芳しくないようで、逆に上からの制圧射撃に撃ち負け、血を巻き散らしながら頽れるもの多数。俺たちがこうしてどうにか耐えきれているのが幸運とすら言える状況だった。

 ムワと立ち込める血臭が白銀の雪原を満たす。

 

 「嫌だァァァァ!」


 高空から放たれる絶叫の声が糸を引きながら地面に叩きつけられて消えた。

 衝撃から腕を前にして体を守る。


 「ギぃギぃ」

 

 「グぎ」


 ——奴ら、嗤ってやがるな。


 顔も発声器官もねえ異形の癖に生意気だぞクソども。


 ブルーノと交錯して一瞬足が止まる。

 

 「どうやってあの烏モドキに吠え面かかせてやったもんか!」

 

 「さぁな」


 疾駆を再開する。


 「その羽で飛ぶのはどうなんだ!?」


 「いや時間がねえ!ウィングバインダーを開いてる間にハチの巣だ!」

 

 「時間さえあればいいんですね!」

 

 ジャンナが間に入る。

  

 「そうだが!」


 「三秒ならどうにかいけます!」

 

 「了解、スリーカウント後に頼む!3……2……1……今!」


 「行ッけェェェ!」


 バーニアで雪を吹き散らしながら横スライド移動したジャンナが一斉に装備を射撃し、空に巨大な爆炎が上がる。弾幕が止んだ。今なら……!


 メインシステム、戦闘モード起動。戦闘種別<高高度機動戦>。


 ウィングバインダーが音を立てて開く。二連巨大バーニアが甲高い音と共に蒼炎を吐き出し、生じた推力と揚力が俺の体を空に持ち上げる。

 爆炎を突っ切って舞い上がり、敵高度に到達ざま、上に向かって蹴りを叩き込みカチあげる。 


 弾幕を高速機動で危なげなく回避しながら光子銃を連射、次々と撃ち落とす。

 

 連続して襲い掛かる猛禽の足を右腕を高速で振るって切り落とす。

 上から一方的に攻撃を仕掛けられてたのが厄介なだけで同じ高度にいりゃあ大した脅威じゃねえなァ!


 右腕からワイヤー射出。手頃な一体に括り付け、巻き取る力で空を舞う。

 交錯の一瞬に翼を切り払い、それの反動で次の獲物に飛び掛かってその背に叩き込む。死骸を蹴り落して飛び上がり、体を捻りながら横に剣を振り回して三枚におろす。

 真上からワイヤーを放って、相手を拘束。ブンブンと振り回して周囲を巻き込みつつ地上に投げ捨てる。


 体を横に倒してコマの様にクルクルと回って背中を切り刻む。

 回転から姿勢を戻すが早いか光子銃を乱射。輝く光弾の群れが敵を撃ち落とす。

 反撃で放たれる光弾の群れを切り刻んで防御。そのまま空中に体を流して一回転、後ろ足で蹴りを叩き込む。疑似ソバットをもらった相手が吹き飛んで視界の外に消える。


 「ギぃ!」


 「遅ェよ!」


 猛禽の足が肉を抉り取らんと突き出される。

 初撃は腕部装甲の厚みで強引に弾き、二撃目は非実体剣のトラス構造部分で防御。そこから一回転して立ち位置を入れ替えた後、力任せに弾き飛ばし、体勢が崩れた所に刹那の間で重なり合うような四連斬撃を叩き込んで解体。火花と粒子の残光が舞い、一瞬俺の顔を明るく照らした。


 「……ハァッ!」


 僅かに気が緩んだ一瞬、俺のものでは無い気合一閃。下から上に跳ね上がった人影が華麗なサマーソルトキックを敵に叩き込んだ。生まれた衝撃波に俺の体すら揺るぐ。

 

 空に舞った人影が高みから叫んで来る。


 「悪い沢渡。遅くなった!」


 「お前どうやってここまで!?」


 「ジャンナと天音に強力してもらった。上に乗った俺ごとジャンナにドローンを盾でカチあげてもらって、そこから空中でドローンを蹴って飛んできたって訳だ」


 さながら燃料タンクを切り離すロケットが如しである。思いついてもやらんだろそれ。


 「相変わらずとんでもねえな!ていうかそれ落ちるしか無いんじゃねえか!?」


 現に、俺より遥か上空にいたはずの影はその顔すらはっきり判別できる距離まで縮まっている。ブルーノの<Ex-MUEB>には空中で動きを制御する類のものは無い。どうするつもりか。


 「何を言ってる。


 ――足場なら、大量にあるだろう」


 落下エネルギーを生かした飛び蹴りが敵に突き刺さる。呟いた声が俺のすぐ隣を駆け抜けた。それを視認した瞬間には既に離れた位置にいた別個体に蹴りがめり込んでおり、その敵がどこへ吹き飛んで行くかを確認するより先に三体目の翼がありえない形に歪曲している。


 足技蹴り技で敵に襲いかかり、その反動で飛び石の様に敵の体を使って空を駆け巡る、攻防一体ならぬ攻進一体の大技。当然踏み外せば紐なしバンジーである。だがそんな状況にあってもブルーノの技のキレは一切地上と変わることは無く、ピンボールの様に弾みながら敵を吹き飛ばしていく。

 

 「ハハハハ、化け物め!推力なしでそれやるかよ!」


 常人を超越した妙技絶技にいっそ笑いすら漏れる。

 笑いながら再び加速し、敵に突っ込んでいく。正面から敵の弾幕に突撃、バレルロールで射線を切り、次の瞬間には敵を貫いている。

 その俺の背をブルーノが軽快に踏んで上空に飛び上がり、武装腕で弾丸をばら撒いて敵を撃墜していく。

 その合間を縫って敵に接近、複数体を連続斬りに巻き込んで切り飛ばす。


 「合わせろブルーノ!」

 

 「了解だ!」

 

 空から再び落ちて来たブルーノが今度は俺の背の翼部分に乗る。

 ウィングバインダーの縁をしっかり握ったのを確認した後にバーニアを最大稼働させる。


 その状態で光子銃を乱射し、非実体剣を振りかざして、敵を打ち抜き切り落とす。

 俺の軌道上にいた敵が全て地上に向けて落ちていく。


 「いよっし最高速!やれるな!?」


 「もちろんだ!」


 頼もしい返事と共に翼を蹴り、ブルーノが空中に飛び出す。


 ――空間が、揺るぐ。

 

 <高高度機動戦>の速度と、ブルーノの異常極まる身体能力の合算によって虚空に放たれた拳打は、空間そのものにヒビが入るのではないかというような轟音を撒き散らしながら、周囲の敵を立ちどころに一掃した。


 足場を失い落ちるのみのブルーノを空中で回収。

 高度を稼ぐために、機首を上げる要領で上体を起こす。

 必然、視界も上を向いた。


 「――おいおい、今度はなんなんだよ!」


 視線の先、空が灼けていた。

 燃え盛る火球の群れが、灰色の空を切り裂いて上空から降り注いでくる。

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