第五十二話 R-05地区基地メインゲート防衛戦
「状況は!」
『四方を包囲され二次ラインまで戦線が後退!陣地の再形成もままならない!また方法は不明だが敵増援の即時投下が可能な模様!』
「作戦目標は!」
『敵勢力の撤退ないしは殲滅!』
「無茶言ってくれる!」
『できるだろ?』
「まぁな!」
『最悪敵陣内で暴れまわって体勢を立て直すだけの時間稼ぎをしてくれればいい!頼んだ!』
打てば響くようにインコムの先から凛とした指示が返る。
「俺は北方面を潰す!他の三方面の制圧を頼む!」
「「「了解!」」」
返答を直下に、再び空へ舞い上がる。
腕部積載型パルスカノン、光子銃起動。
下の敵の群に雨あられと射撃を見舞い、持ち場への道を切り開いてやる。
『ナカーザャ隊はどうした!?』
「……KIAだ」
『馬鹿な、何があった?』
「かなり込み入っててな、今この場で伝えきるのは無理だ!こいつら追い払ってからだな!」
『わかった。さっさと蹴散らして戻ってこい!』
激励一つ。
インコムの通信が切れる。
同時、降りかかってきたミサイルの雨を急旋回で避ける。
「おわっ!?俺ごと殺す気か!?」
爆炎の中を突っ切るように低空飛行。非実体剣起動。
刃先を引っ掛けるように敵に当て、飛行の勢いのまま複数体をまとめて剪断する。
飛び散る肉塊の奥、前方に敵集団。<スプリガン>型。表示を見る限り数はざっと75。
その異形の前腕に熱持つ光が点り、すぐさま十重二十重と弾幕が周囲を取り囲む。
「そりゃあ飛んでる相手には狙うよなぁ!」
奴らの本分は飛行物体の処理。 俺を狙うのも当然の話だろう。
旧時代当時の主力戦闘機のマッハ5の最高速を以てしても回避しきれぬ弾速と速射性を持つ移動式対空速射砲塔群。
それが上からでも数え切れぬほどの数量、地表に並んでいる。
直撃ルートの弾丸を右腕を粗雑に振って剣で迎撃。撃ち落とし、虚空を蹴って上へ逃れる。
弾丸の網の目を搔い潜って抜け出し、空を駆けて追いすがる弾丸を突き放す。
バーニア全開、全速で吹っ飛ぶものの背後から付きまとう死の嵐はなかなかしつこい。ええい、ラチがあかん!
推力オフ。重力が俺の体を捉え、地表に叩き落とさんと縋りつく。
風を切りながら体は下へ。射線の群体から外れていく。
その最中、親指でツマミを弾きモード変更。単射から拡散速射へ。
推力回復、体をぐるんと回すように上昇。引き金を引き込む。
赤い光がまっすぐ飛翔するのではなく、散弾のように細かく分割して放たれる。
細かな弾丸は敵の火線と当たり、互いに弾け相殺。星屑のような光が舞い散る。
「ハァァ———ァ!」
その光の中を銃を撃ちながら真っすぐに突き進む。
撃ち漏らしが一発肩を掠めた。少しの金属音とともに装甲が僅かに欠ける。
「だったら!」
右手に提げたままの剣を手の中で風車のように回す。
それを前に掲げ、お手製のラウンドシールド替わりにしながらさらに突撃。
撃ち漏らした弾丸も高速回転する刃に触れ消し飛んでいく。
その状態を維持したまま敵の群れの中に飛び込む。
ミキサーめいて回る光刃と飛散する弾幕が敵を焼き、物言わぬ肉へ変貌させる。
懐に飛び込んでしまえば弾丸は気にならない。
弾丸が放たれるより早く、敵を割き、穴をあける。
群れを抜けるタイミングで体重を後ろに置き再び上昇。
先ほどの突撃で発生した一筋のライン目掛け、右腕を振りかぶって非実体剣を思いっきり投げる。
ツマミを弄り再び発射モード変更。単射に切り替える。
フリスビーのように宙を舞う非実体剣の光刃部分に狙いを定め――
「じゃあなァ!」
引き金を引いた。
弾丸と光刃が衝突する。
カァン!と甲高い音一つ。回転をそのままに銃弾の威力で弾かれた刀身が宙に跳ね上がる。
銃弾と光刃がお互いに干渉、乱れた粒子が勢いに沿って混乱したかの様に飛散する。
熱暴走でイカれた機械が放つかのような怪音と、やたらめったらに播き散らされ、敵を焼き払う光と熱。
それら全てが止み、視界を閉ざす灰交じりの砂塵が風に流されるままに晴れた頃には、<スプリガン型>で間断なく埋め尽くされていた大地には不格好に切断された死骸が転がり、その中央部に非実体剣の基部が真っ直ぐ突き刺さるのみだった。
それを見て後に降下。着陸姿勢をとりながら地面に突き刺さった基部を回収する。
「……チッ、流石にか」
弾丸が衝突した部分が黒く変色している。咄嗟の思い付きにしては悪くないと思ったのだが、そう連発はできなさそうだ。敵を全滅させる前に剣が壊れる。
地に足を付けるや否や再び非実体剣を起動させつつ高速旋回。
上から降りかかるミサイル三発の爆炎の合間を抜けて効果範囲から逃れ、そのまま振り向く勢いで敵を切って捨てる。
右からの爪の一撃を腕を絡めるようにして止め、振り回して左からの一撃を防ぐ盾とする。赤褐色の飛沫が散るのを確認した瞬間射撃。被害者と加害者纏めて脳天をぶち抜く。
頽れる肉塊を踏みつけ軽く飛ぶ。数m先の敵を空中で繰り出した縦切りで沈め、なおも滞空したまま足を振るいもう一体蹴り砕く。
散る脳漿の中手を地面につけ側転。振るわれる一撃を躱しつつノータイムで反撃、首を落とす。
瞬間、予感。色相が反転する。
またこれか。
本能の赴くままに右手の剣を逆手に握り直し、そのまま無造作に後ろに動かす。
攻撃しようとしていた敵は自ら刃に突き刺さる。
肉を抉ったまま向きを90°変え、前に振りぬいて右半身を断ち切った。
反転した世界が収まる。
立て続けに起こる奇怪な現象の考察にまで脳は廻らない。
「そこっ!」
ダッシュで距離を詰める敵を射殺。
斜め前からさらに敵が肉薄、攻撃予測が鳴る。
突きこまれるより一拍早くハイキックを見舞い、宙に浮いたところを発砲。心臓と脳天を同時に貫いてとどめ。
足に打ち込んで動きを止めてから空中を滑るように移動して首を飛ばす。宙に舞ったその首をさらに足場にして飛び上がり、パルスカノンと同時に上から一斉放火。焼き払う。
着地と同時にアラート。左手武器のEN残量欠乏。要リロード。
「面倒なッ!」
落ち着いてリロードするには少し敵が近すぎるか。
右手の剣を放り投げる。
ナイフ投げの容量で敵を二体団子のように貫く。
その隙に一気に距離を詰める。
「ゼェァッ!」
踏み込んで一撃。
貫手の威力は敵の甲殻と肋を砕き割り、生暖かい心臓を抉り出した。
引き抜く。
「気持ち悪ィな……」
あんまり気色が良いものではない。握りつぶしてから地面に投げ捨てる。
スプラッターは苦手だ。
串のように突き刺さった剣を引き抜く。
とりあえず付近の敵は一掃できたか……
発射するものが変われども手順はさして変わらぬリロードをしつつ、インコムを繋ぐ。
「こっち沢渡!一応粗方倒しきった!そっちは!?」
『南側は陣地の再形成が終わったので一旦兵士の方々にお任せして東側にいます!』
『その東側だ。天音と共に交戦中。取り敢えず今のところは問題なく足止めができている』
『西側、一斉射撃でこのまま一気に押し込みます!』
目立って戦局が不味いところはない、どころか押し返せそうな勢いですらある……だとすれば。
「奏!件の即時増援はどうなってる!?」
『いや、現在反応はない……損耗率的にはとっくに出てきてもおかしくないはずなんだが……先刻までの執拗な追撃はなんだったんだ?』
困惑の声を叫び声が割り込む。
『西側勢力、ジャンナ少尉の一斉放火により総数を大幅に減!敵勢力、撤退します!』
『腑に落ちない点は多々あるが……そうだな。総員基地内に撤退!当面の脅威は去ったものとする!
哨戒部隊には厳戒体勢に移行するよう伝達しろ!
敵生態解析部、特務実証部隊はこの後私の所に集合するように!』




