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第五十話 未確認位階:知性型<N-ELHH>

こちらのなろう版もとうとう50話にたどり着きました ありがとうございます

 くたりと音もなく、俺の手を握りしめた右手から力が抜けた。

 落ちた右手は、原形を留めぬほど焼き焦げた体の上に重なる。

 祈りは一瞬。


 砂塵が晴れる。

 姿を現すは異形の<N-ELHH>。近代兵器を駆使し、ベテランであるユーリーを殺した一人軍隊(ワンマン・アーミー)

 俺の胸元に狙撃弾を叩き込んだのもこいつだろう。いまだに胸には鈍い痛みがある。


 「目標未確認階位<N-ELHH>。敵の銃火器に十分注意しろ。交戦開始(エンゲージ)!」


 告げ、駆け出す。


 「合わせろ沢渡!」


 「了解だ!」


 壁には敵の物であろう実体剣が突き刺さっている。

 ならば少なくとも近接武器のカードは一枚削れているということ。馬鹿正直に射撃戦に付き合うよりもゼロ距離に勝機がある!


 ウィングバインダーを開放せず、背部二連バーニアを起動する。

 これがなければブルーノの超人的戦闘速度に追いつけない。


 蒼炎の痕跡を残しながら敵に突っ込む。

 

 タタタタタタ!と銃声、SMGの類。


 有り余るベクトルを使って体を振り回して三次元機動、弾幕の間をすり抜ける。

 前方を駆けるブルーノも一弾足りとて食らっていない。

 

 「ゼアッ!」


 「ラァッ!」


 最初にブルーノの一太刀、続けざまに俺の斬撃。

 銀と赤の残影が糸を引く。


 「チッ!」


 「浅いか!」


 思いの他挙動が速い。

 動きそのものが速いのではない、機を見るに敏というべきだろうか。反応速度が異常だ。おそらくこの反応速度が大量の武装の素早い持ちなおしを実現させている。

 続けざまに交互に連撃を放つものの、甲殻をかすめるにとどまり、致命的なダメージを与えるには及ばない。


 「下がれブルーノッ!」


 叫び自らも飛びのく。

 一秒前に俺たちがいた位置を銀の光が通過する。投げナイフの類か。

 

 追撃の銃声。

 銃声の大きさと間隔的に恐らく拳銃弾。

 再び横っ飛びで回避。


 「グッ」


 少し着地の角度をしくじった。

 隙ができる。


 それを見て敵がナイフを引き抜きこちらに詰めてくる。


 だが、数本走る翡翠の色の光軸がその行く手を一瞬遮った。


 「援護します!」


 「ナイス!」


 雨衣ちゃんのドローンか。

 小技が効いて助かる。


 一瞬の間。

 剣を引き戻し、敵の攻撃に備える。


 ブルーノの振るう剣閃とナイフが激突する。

 彼と入れ替わるように前に出て右腕に力を籠める。狙うは武装破壊。今は敵の手札を一枚でも削る。


 だが、俺のナイフ狙いの縦切りは右腕をひっこめることで回避された。

 潜り込むように刺突が迫る。


 「ブルーノ!」


 「あぁ!」


 大振りの切り下ろしの後の体を折り曲げた姿勢。その背中を踏みブルーノが跳躍する。 

 上空からの裂帛の一撃。受けられたが敵の体勢が崩れる。

 そこにドローンが飛来し、攻撃を加える。

 致命部位は避けられたものの、末端部に焦げ跡が残る。


 「リャアッ!」


 「……ッ!」

 

 「行きます!」


 そのまま三方から取り囲み、波状攻撃を仕掛ける。

 

 左、右、唐竹、バックステップで回避して前蹴り、下段切りから首を狙った上段への派生!


 「クッソが……!」


 「……当たらん!」


 敵は銀、赤、緑の色彩にその身を囲まれながらも奇怪な動きで傷を負うことなく潜り抜ける。それどころか反撃のナイフが首元を何度も掠めた。


 さっきも思ったが、俺と雨衣ちゃんのレーザーは回避、ブルーノは基本パリィと対応がきっちりしてやがる!

 下手に受ければ武器が壊れることまで分かってるってことか、大層な脳みそだ!


 ブルーノの斜下からの切り上げがもはや何度目とも知らぬナイフとの激突で金属音を鳴らす。

 ナイフが敵の手から抜け上に弾かれる。自然、それを追って目線も上に向かう。

 だが、それとは別に無意識下で足は床を蹴り回避動作をとっていた。


 「グッ!」


 「痛ッ!」


 けたたましい音と悲鳴。閃光が視界すれすれを掠める。

 

 野郎、ナイフを弾かれたのはブラフで本命はSMGの抜き撃ちか!

 全く読めなかった、回避できたのは僥倖という他ない。

 

 息吐く間もなく再び弾幕が襲い掛かる。

 後ろ飛びのあとにバーニアを吹かして空中を後ろに滑り回避。


 着地するや否や敵を見据える。

 構えているのは今までの武装とは比較にならないほど重厚で長大な代物……SG-564フルオートショットガン。


 極超圧縮金属製の散弾を20発仕込んだショットガンシェルを毎分三百発という悪魔的な速度でばら撒く携行式施設制圧用兵器。放たれる弾丸は空間を埋め尽くす飽和攻撃と化す。

 それが片腕ずつ二丁。


 クッソが!こんな狭い廊下で躱せる訳ないだろうが!

 先ほどの連射をどうにか数発の被弾で止めている二人もアレの猛攻を受ければ……!


 「だったらァ!」


 引き金が引かれるより早く銃身を壊す!

 踏み込んで銃身を叩き切るべく最大速度で駆けだすが、距離が遠すぎる。

 ハナっからこれが狙いかよ畜生!


 泥のように鈍化した時間の中、銃身下部ののドラムマガジンがゆっくりと回転を始める。

 クソ、間に合わん!

 

 「うおりゃああああ!」


 下から黒い巨体が床を突き破り俺と<N-ELHH>の間に立ちふさがる。

 放たれた弾丸はガンガンガンと凄まじい音を立てながらも一発たりとも俺達の後ろに回ってくることはない。


 「ジャンナか!」


 呼びかけると黒い騎士のようなヘルムがこちらに向き直る。


 「はい、それでナカーザャ隊の方々なんですが……」

 

 そこで彼女は言いよどむ。 

 

 「ダメだったか……」


 彼女には通信の途絶えたナカーザャ隊の安否確認を頼んでいた。

 ……ユーリーが死んでいるのを見て薄々覚悟はしていたが、やはりやられていたらしい。


 苦々しいものが走るが、俺が気に病むのも筋違いというものなのだろう。少なくとも彼の今際の弱弱しい微笑みは、気にするな、と言っていたように見えた。


 一瞬脳裏に走りかけた忌み名とノイズを搔き消す。


 「弔い合戦だ!」

 

 「はい!」


 再び踏み込む。

 銃弾を回避し、牽制の光子銃を打ち込みつつ後ろに呼びかける。


 「二人ともさっきのは大丈夫か!?」


 「体に傷はないが<Ex-MUEB>側のショックアブゾーバーがやられた、戦闘は難しい」


 「私もドローンが!」


 「了解、っとォ!」

 

 攻撃を受けつつも右腕の重斬剣で反撃の機会を見計らうジャンナも告げる。


 「さっきの攻撃を防ぐための上昇で私も結構燃料食っちゃってて、ちょっとやばいかもです……」

 

 「わかった、なら早期決着だなッぶねえ!何か策は?」


 「あります、ただちょっと火力が高すぎるので雨衣ちゃんとウチのブルーノを一回攻撃範囲外に連れ出してくれますか?」


 「わかった!」


 やり取りを終え、カウンターを打ち込んで隙を作るジャンナより一歩早く再び距離をとる。

 続けてジャンナも着地、地響きが鳴る。


 着地し、いざ二人を回収しようと背を向けた瞬間、こめかみに電撃のように閃きが過った。

 視界とは別に、もう一つ。重なり合うように光景が「見える」。肉体から抜け出した自らの魂が、自分を見下ろしているかのような景色。


 狙われてんな。

 多分SR-342。長尾が昔火力はあるけど取り回しが悪すぎるとかぼやいてた難物スナイパーライフル。

 それをこの短時間で抜き放つってどんな器用さしてんだ。


 おそらく俺の正面装甲を穿ったのもこれだろう。

 先刻は不覚を取りはしたが……


 「——見えていればなァ!」


 正面から後ろへ。弧を描くように斬撃を繰り出す。

 斬撃は正確に弾丸に当たり、膨大な熱量が弾丸を蒸発させた。


 そのままポーチから引き抜いた小瓶を投げつける。

 色相が反転したもう一つの景色の中、小瓶は放物線を描いて胸元の生傷に衝突して砕け散った。液体が飛び散る。

 

 「ギがァぁァぁ!」


 奴が悶え苦しむ。ジャンナが何をしようとしてるかまではわからんが、その大仕掛けまでの隙を作ることはできただろう。


 それきり、奇妙な感覚が消えうせる。

 その手触りを確かめる間もない。


 「掴まれ!」


 戦闘モードを<高高度機動戦>に変更すると同時に二人の手を掴む。

 壁に蹴りを入れて大穴を開け、そこから飛び出してウィングバインダー解放。


 「うわわわわわわぁ!?」


 飛行初体験の雨衣ちゃんの悲鳴を置き去りにする猛スピードで飛行し、研究所から一定の距離を取る。


 「ジャンナ、OKだ!」

 

 「了解!」


     ◆


 もはや周りを巻き込む心配もない。ここで決める。


 両肩部マルチランチャーパック展開。

 シールドを防御形態から砲撃形態へ変形。

 腰部ビーム砲展開。モードを収束モードに選択。急速チャージ開始。

 左腕プラズマキャノン最大解放。銃身伸長。

 廃熱ハッチ全開放。ファン急速始動。

 耐衝撃アンカー敷設。

 プラズマキャノンのコントロールと各部砲塔のコントロールをペアリング。

 ロックオン、数1。未確認警告をノータイムで承諾。

 各部セーフティアンロック。


 砲撃準備完了。


 左手で引き金を思いっきり引き切る。


 「フル・バーストォ!」


    ◆


 「おいおいおい……」


 「これじゃ殺せたかどうかもわかりませんよ……」


 ドン引きする俺と雨衣ちゃんにブルーノが返答を返す。

 

「あぁ、アイツは昔からああだ。慣れてくれ。」

 

 行われたのは全13門の砲塔による一斉掃射。シンプル極まりない攻撃であるが、それゆえに威力は絶大だった。


 赤雷と爆炎が四方八方に飛び散り、尋常ならざる大爆発を起こす。

 音が激しく鼓膜を叩く。 


 爆撃が止み、視界が晴れた頃には、眼下の研究所は跡形も無くなり、それがあったはずの地点には、赤熱化した地面にクレーターと蒸気を放つ黒鉄の人影があるのみであった。

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