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第四十八話 徒手にては死せず

 ドンドンドン!

 重々しい音と共に手元の銃口から銃弾が放たれる。

 

 真っ直ぐ敵に向かって真鍮色の光が飛んでいくが……


 「ギぎィ」


 「まぁそうだわな」


 影の向こうで異形が踊り、死の閃光はどこにも当たらず消えていく。

 

 反撃が来る。

 一射目を躱し、二射目を避け、三射目を右手で引き抜いたナイフで叩き落す。

 そのまま片手でライフルの引き金を引きながら敵に駆ける。


 敵の手元からでた青色の半透明の光が銃弾を減衰する。またしても銃弾は奴の甲殻を傷つけることはなかった。


 あれは……


 視界に浮かぶ表示を読み取る。

 Eb-28電磁障壁か。


 「ガぁっ」

 

 銃弾を防ぎ終わるや否や敵が巨大な手裏剣めいて電磁障壁を投げつけてくる。 

 

 「フン!」


 地を蹴って宙を高速で舞う半透明の幕を躱す。

 銃弾を溶融させるほどの熱量を持つ盾。

 攻撃に転用すれば触れた敵を焼き焦がす鉾となる。触れるわけにはいかない。


 「ゲぎィ」 


 「クソが!」


 宙に浮き逃げ場のない俺に向けて円筒が凄まじい速度で飛んでくる。


 認識加速(レコグニション)起動。

 こちらに向けて飛来する円筒を含めて周囲の速度が目に見えて鈍化する。

 

 一先ずの時間稼ぎ(まぁ主観時間を引き延ばしているだけなので物理的な時間は稼げていないのだが)。

 対象が何か、<Ex-MUEB>が齎す情報を確認する。

 RL-967四連装ロケットランチャーの弾頭。数二つ。


 迂闊に弾くのは危険か、なら。


 「フン!」


 体を捻って直撃を躱し、二発目は上から踏みつけ上へ飛び上がる。

 二回の爆破が背を叩く。


 「ガ……ハ……」


 肺胞から空気が漏れるが問題ない。

 爆破の勢いを助力に敵のすぐそばまで一気に距離を詰める。

 勢いを殺しきれず些か無様な着地となったが気にしない。ナイフの刃で横から切りかかる。


 「ハッ!」

 

 「グぅ」


 振るった刃は逆手に握られた両刃剣で受け止められた。

 そんな長物を逆手持ちとは小器用な。


 ガキ、ガキリ、ギャリ、ギャリン!


 それぞれ短長の異なる薄い金属片が何度となくぶつかり合う。

 

 「ぜェりゃァ!」


 「グぎィ!」


 互いに渾身の一斬。

 激しく衝突したのち、動きが硬直する。鍔競り合い。

 激しく振動する剣同士がかたかたと細かく音を立てる。

 力を抜けない。ここで押し負ければ間違いなく切られる。

 全体重を切り結んだ一点へと集中する。


 永遠に続くかに思われた力比べは、刹那の瞬間で終わった。


 突然相手の力が引いた。

 予期せぬ挙動にグラリと体が傾く。

 それでも無防備な相手を刺し貫かんとしてナイフを繰り出すが外れた。


 突き出された腕が隙をさらす。

 上から断頭台の刃めいて逆手の刃が落ちる。

 

 「グッ!」

 

 とっさに腕を引いて手首の上からの剪断を免れる。

 躱した刃の先が床に突き刺さった。

 簡単には抜けない深さ。好機。


 「今度こそォ!」


 だが、期待は外れた。

 突き刺さった剣を支えにして敵の体がクルリと回る。

 全体重が乗った飛び回し蹴りが顔に突き刺さった。


 「グバッ」

 

 威力をこらえることが出来ず、体が後ろに弾き飛ばされる。

 どうにか手と膝を床に押し付けて着地。慣性を殺す。


 口が切れたのか、むせるような鉄の匂いがした。

 視界にはヒビが走っている。内蔵グラスを蹴り割られたか。


 眩む頭を揺らして立ち上がる。

 もはや妨害でしかないヘッドセットをむしり取って投げ捨てる。

 これで脅威識別と認識加速は使えない。

 頼りになるのは自らの勘と経験のみ。


 銃声が啼く。

 本能で初弾を回避、そのまま狙いを絞らせないように狭い足場を右へ左へと苦心

して走り回りながらも思考を回す。


 発射レートが高い。おそらくは軽機関銃の類。

 SMG-97かSMG-875か。

 875だとすれば少々厄介。


 考えた瞬間、バーニアを吹かして滑るように斜線から外れ、研究室の一つに侵入。

 直後、バチバチッとはじける様な音が聞こえた。

 野郎、仕留めきれなかった時に備えてマガジンの底に電荷弾丸を数発仕込んでやがったな?


 「特徴まで理解して扱うとは大したもんじゃねえか!」


 ともあれこれで奴の875は弾切れ。

 リロードされる前に距離を詰め切る。


 中のモノを適当に拝借してからドアを蹴り破って再び廊下へ。


 アサルトのツマミを親指で弾いてセミオートに発射レートを変更。直進しながら牽制を打ち込む。


 何か飛んでくる。

 速度的に恐らく手投げ弾的な何か。


 中身を改める時間はない。

 早速先ほど入手したメスを手の指に挟むように掴んで投げつける。


 高速で射出された金属が突き刺さり片っ端から弾ける。


 グレ(グレネード)の中身はショック二つ、スモーク一つ。

 直接殺傷力が無い物ばかりなあたり、まず動きを止める算段か。


 ショックは構わない。

 アレが巻き散らすパルスの範囲からは外だ。

 問題はスモーク、ヘッドセットを失った俺にとって視界を失うのは致命的だ。

 

 そしてそんなものを投げてきたということは、本命が……!

 

 全てを吹き飛ばすような爆音が鳴った。

 歩兵が携行可能な火器で一番の火力を持つもの……


 「|H-HEAT《Hyper high-explosive anti-tank》弾か!!」

 

 姿が見えないが故に想像する他無いが恐らくRR-03携行無反動砲から放たれたのであろう砲弾がこちらに向かって飛んでくる。


 だが軌道が読めない。

 如何に銃弾砲弾から逃れる機動力を持てども、避ける対象が見えねば無意味。

 決死の覚悟で身を翻すものの、見えないことに対する動揺で反応が一瞬遅れた。

 左腕に激烈な痛みが走る。


 H-HEAT弾の内側に設置された極超圧縮金属製の円錐形状のライナー。

 それが炸薬の衝撃で崩壊し、動的超高圧の状態になる事で発生するメタルジェットの貫徹力は<Ex-MUEB>の装甲でさえも容易く貫き、衝撃は俺の体躯をバラバラに解体するに足るだろう。


 だから。


 「――くれてやる。」


 メタルジェットが吹き出る寸前、右手のナイフを肩口の装甲の継ぎ目に添えて、一息に切り裂く。


 じゃくり。


 高振動粒子の刃は、俺の骨と肉を果物か何かの様に軽い手応えで、深々と断ち切った。


 痛みと共に生暖かい鮮血が冗談の様な勢いで吹き出す。

 切り離された左腕は後ろに弾け飛び、メタルジェットの圧に肉片一つ残さず砕け散った。

 

 直前で上に放り投げていた小銃を獣の様に齧りついて受け止める。

 犬歯剥き出しの獰猛な笑みのまま、右手のナイフを銃口に着剣。

 

 グリップを握りしめ、正面に振りかざして突撃する。


 「ハハハハハハッ!!!」


 左肩は気が狂いそうな程痛み、脳みそは狂を発しそうな程憎悪の炎に焼かれているのに何故か笑いが漏れた。


 踏み込む。

 豪速。

 

 敵との距離を詰める。

 左肩から吹き出る血潮も今はバーニアから発せられる火花のよう。


 「ハッ!すットロいぜボンクラァ!!」


 ようやく敵が無反動砲を足元に落とし、背後からアサルトライフルを引き抜き構える。


 先刻の砲撃で仕留めたと思ったんだろ!動きが目に見えて遅い!


 相手が引き金を引くより先。

 放たれた弾丸が敵の銃口を直撃した。

 火花が散り、敵のバレルがひん曲がる。


 後退しながら実体剣が引き抜かれ、こちらに振りかざされる。

 

 「握りが甘ェ!」


 渾身。

 横薙ぎの銃剣一閃で弾き飛ばす。

 右腕一本の膂力でも焦って引き抜いた剣を手から引き剥がすのには十分だったようで、くるくると中を舞った刃先が壁に突き刺さった。


 そのまま返す刀で奴の胸に刃先を突き刺す。

 浅いか!ならもう一発!




 トドメを刺さんと右腕を引き絞った、その刹那。

 何か、細い糸の様なものが、奴の左足にくくり付けられているのに気が付いた。

 その糸は、先程使い捨てられた四連装ロケットランチャーのグリップに結ばれている。 


 ――先ほど放たれた砲撃は、二発。


 奴が左足を前に蹴り出す。

 グリップ部の糸が締まる。

 

 決殺の刃は、ほんの数寸の距離で奴に届かず。


 「ガッ……ガァァアアッ!」


 二発の衝撃が、俺の体に襲いかかった。


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