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第四十七話 壊滅

 「敵勢力と会敵!<シルフ型>数8!ユーリー、応援頼む!」


 「了解、すぐ行く!それまでこらえてろ!」


 裏口から研究所の内側に侵入した俺たちナカーザャ隊は散開して脅威を排除しながらデータの捜索を行っていた。

 中は事前予想の通りに怪物共の巣窟になっており、探し物は遅々として進まない。そもそも本当にあるのか?


 銃声に向かって走る。

 

 「クソ、次から次に湧いてやがる!8じゃ利かねえぞこれ!」

 

 「わかってる、もう少しだエフゲニー!」


 正面から<シルフ型>数1、こんな時まで邪魔くさい!

 

 噛みつきをステップで回避、アームロックで地面に引き落としてから口の中にアサルトの銃口を突っ込んで発砲。


 「最後の一服だな!」


 頭が大小様々な肉片になった死体を蹴り飛ばして前に進む。

 銃声が次第に大きくなる。


 ドアを蹴り飛ばして室内に侵入、引き金を引いて数体射殺。


 「悪い!遅くなったエフゲニー!」


 「まったくだ!」

 

 背中合わせの形で構えをとる。


 「数は……(アジン)2(ドゥヴァ)3(トゥリー)4(チィトゥィリ)5(ピャーチ)……数えるのも馬鹿らしいな」


 「そうだな、全員殺せば解決だ!」


 「そういう短絡的な思考だからこんなピンチになるんじゃないか、えぇ!?」


 「てめぇがそれを言うのは抜きだぜ、ユーリー!」


 軽口を交わしながら銃を打ち込む。


 搔き爪の一撃を避けて反撃、頭部を打ち抜く。

 上がる血飛沫を目くらましに俺の頭を噛み砕かんとする口にバレルを突っ込み、怯んだ隙に胴に蹴りを叩き込む。


 360°四方八方すべての敵へと回りながら引き金を引くエフゲニーの射線を跳び越すように跳躍。

 ひらりと包囲から抜け出しつつ下に向けて銃撃する。

 そのまま一体の敵の裏に着地して銃を使って首を締め上げる。

 力が抜け始めた頃合いで放り投げる。衝撃で床に罅割れが走り、敵が数体吹き飛んだ。


 敵が目に見えてたじろぐ。このまま奥に引く気か。好都合だ。

 

 「よし、これで」


 「終いだ!」


 エフゲニーと並び立って制圧射撃。

 轟音と閃光が全てを塗りつぶしていく。


 ワンマガジン打ち尽くす頃には敵は引き切り、静寂が室内に戻っていた。

 


 「ふぅ……助かったぜ」


 「いいさ、仲間だろ?」


 「それで、研究データだが……」


 「あぁ、骨が折れそうだ」


 室内には死骸が散乱し、潜血がびっしりとこびりついていた。

 流れ弾をくらい木っ端微塵に砕けたデスクもある。

 もしこの部屋に目当ての品があったとしても捜索には相当な手間がかかるだろう。


 溜息交じりに死骸をどかし、捜索を開始した時、背後からカツンと音がした。


 後ろを見やる。


 概して言うならそれは黒かった。

 サイズは手のひらほど、だろうか。

 形としては大まかにいえばラグビーボールの形状。

 側面には格子状のモールドが細かく入り、上部にはクの字をした何かがついている。

 そのクの字状のパーツがスローモーションの視界でゆっくりと展開し――


 「何やってんだこのバカ!」


 怒声と共に衝撃が走った。

 空中を舞う。部屋から叩き出される。


 刹那。

 BOOOOOOOOOM!!!!!!


 背後が爆ぜた。


 「アッ……ガ……」


 爆炎に背を焼かれる。

 情けなく床を転がる。


 視線を上げた時、視界に見えるのは炎とエフゲニーだったものだけだった。

 爆撃を至近距離で受けたエフゲニーは、生前の原型を一切留めぬ肉片となり周囲に飛び散っていた。

 戦闘の部隊となった部屋は爆破の威力の前にガラガラと崩れて落ちていく。


 ……あれは、手榴弾だった。それも、威力からして対<N-ELHH>用に過剰とすら言えるほど火力が増強されたHG-78 <UN-E>制式手榴弾。

 エフゲニー、奴は咄嗟の判断であれが手榴弾だと看破し、俺をかばったのだ。自らの命を投げ売って。


 「最期の瞬間まで、馬鹿野郎がよ……」


 自分だけ助かることも出来ただろうに。

 

 「あぁ、クソ!」


 血痰を吐いて立ち上がる。


 敵……<UN-E>制式火器を扱う正体不明の敵がいる。

 あの坊主共が裏切ったか?


 ……いや、それはない。

 HG-78を持ってるやつなんていなかったし、何より雪中行軍のコツを真剣な顔して聞いてたあの坊主がリーダーをする集団がそんなしょうもない事をするわけがない。


 正真正銘の正体不明。

 それが、過剰火力の<UN-E>制式火器を構えてこちらの喉元を狙っている。


 不味いにも程がある。


 「ゲオルギー!特務実証部隊!聞こえるか!……クソッ!」


 インカムに語りかけるも返答はない。

 衝撃でこちらのインカムがやられたか、それとも、もう受け取り手がいないか。


 インカムを切断したその瞬間、銃声が鳴り響いた。

 咄嗟。転がって躱して、射線の方角へ反撃を叩き込む。


 手応え無し。

 じっとしててもどうにもならない!

 走るしか無い!


 駆け出す。

 その背後を舐めるかのように弾丸のラインが横一文字に並ぶ。


 飛び上がって薙ぐように襲い来る弾丸を躱した瞬間、銃声が止んだ。リロードか。

 

 この隙に距離を離す。

 まず肝要なのは合流。合流してここから撤退する。


 「クソ、ゲオルギー!ガキ共!どこだ!?」


 叫びながら駆ける。敵の追撃はまだ無い。どうなってる?もうリロードは済んでいるだろうに。


 廊下のタイルを砕き、欠片を巻き上げながら突き進む。

 一歩強く踏み込んで階段を飛び越し、クイックターンして3Fフロアに着地して一度足を止める。


 敵の追撃は……来ない。

 どこかで撒いたのか?そうなるように動いていたとは言え、こうも上手くいくと流石に気味が悪い。


 周囲に警戒を張り巡らせ、銃口を左右に交互に向けながら歩く。

 数m歩いた所で人影を室内に認めた。


 「ゲオルギィーッ!」

 

 「ユーリー!さっきからエフゲニーと連絡が……」


 「違う!()()()ァッ!」


 奴の頸動脈の近くには、金属の光が浮かんでいた。


 「ぐひっ」


 その光が横に動いて、暗い室内に赤が散った。


 「ゲオ……ゲオルギー!」


 「ッ……ヒ……ヒュ……」


 口の端から零れ落ちる血にも構わず懸命に何か言葉を紡ごうとしているが、漏れるのは風切り音だけだった。


 ダメだ、気道をやられている。

 もう、しゃべることすら。


 「もういい、喋るな!」


 「……ヒ、俺より、ヒュー、自分のことを。」


 漏れる空気を左手で抑えつけ、絶え絶えの言葉を放つ。


 奴が震える右手で背後を指さした。

 示す先には、黒光りする銃口。


 「ンなろォ!」


 銃撃をとっさの反応で躱す。

 すかさず反撃の銃弾を叩き込もうとするも、見えたはずの姿が奥に掻き消えた。

 野郎、どうあっても正面からは戦わないつもりか……


 「悪いな、最後の最後まで」



 「――仇は討つさ。」


 見開いたままその奥の収縮を止めたゲオルギーの瞼を左手で閉じてやる。

 血に塗れた唇の端が少し上がっていたのは、都合のいい妄想だろうか。


 強く目を閉じた後でもう一度開く。

 自然と眉根が寄り、黒目が上に上がっているのが自分でもわかった。


 ともすれば萎えそうな体を憎悪を支えに奮い起たせ、立ち上がる。

 敵が去った方角へと歩を進める。


 3F、直線廊下。

 そこに、仇がいた。


 「ぎィ」


 「武器を使うたぁ、ちっとはオツムがマシになったようじゃねえか、えぇ?」


 仇の正体は、<N-ELHH>だった。

 人間の銃火器を使う、それに足る知能を持つ<N-ELHH>など聞いたこともないが、そんなことは今はどうでもいい。


 見た目としては、通常の<シルフ型>とさして変わりはない。

 獣面に、人のような胴体。足は猛獣めいた逆足。その全身をくまなく甲殻で覆っている。

 だが、膨れ上がった頭頂部と、まだ歪さが残るものの人間のものに類似した手の平が異様だった。

 背後には多種多様な武器を背負っている。

 兵士を殺してから、奪い取ったのだろうか。


 —―アイツらのように。


 「だが、まだまだだな。逃げ場の選択が甘い。このフロアは研究室が少しと、あとは廊下だけだ。もうどこにも行けやしない。」

 

 「—―ここで殺してやる。」


 引き金を、引いた。

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