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第三十三話 反撃開始

 「ん~と?この三番配線がここに繋がるから、これとこれを固定してやって……あ~だめだなこれ二番配線が切れてる。クソ、無茶苦茶しやがって。だったらここを迂回してこの配線とこれをくっ付けて疑似的に回路を作ってやれば……よし、出来たかな?雨衣ちゃん、確認してみてくれ」


 「……はい、エネルギー伝達成功してます」


 「よし、とりあえずこれで電力は復旧したね。」


 B5フロア、エネルギー管理区画。

 ここで行われた戦闘と破壊行為により遮断された本部基地全体の電力復旧作業に当たっていた。


 「これで明かりやら何やらがつけられるようになったけど、今は触らないように。隠密で動く都合上、何かあったと気付かれるのは少々拙い」


 「了解です」


 「それじゃ次は手筈通り、司令室の奪還だな……」


 恐らくはこの作戦の最大の難所。

 何人もの武装した兵士を素手で制圧できるだろうか……


 「不安そうな顔だね」


 「人の表情読むのやめてくださいよ……」


 奏が俺の顔を覗き込んでくる。

 お見通しかよ、やりづらいな……


 「まぁまぁそう言うな。おそらく司令室の奪還は、驚くほどすんなり行く。」


 「……え、何でです?」


 「答えは簡単。単に握っておく必要がないからさ。

 敵の視点に立つなら、あそこを持っていても良いことは正直ない。

 いくら中で独立した電力が回っているとは言え、基地全体の電力自体が落ちてちゃカメラによる索敵も、隔壁による分断工作もできないからね。

 それだったらその兵力で私を探させたほうが早い。私が扉に掛けた電磁ロックも解けないようなものでもなし。

 まぁ1人2人は置いててもおかしくないだろうが」


 「確かに、そう、なるか……」


 「よし、不安が晴れたなら動いた動いた。バレる前にやらなきゃいけないんだからね」


 パシンと背中を叩かれ、それに押されるかのように区画の外へ出る。

 司令室はそう遠くはない。徒歩5分もかからない範囲にある。

 足音を立てぬように留意しながら、周囲を警戒しつつ暗がりの中歩を進める。


 曲がり角。ここを左に行けば司令室だ。


 「!?待った、下がれ」


 とっさに小声で後ろに呼びかけ、壁に張り付くようにして身を隠す。


 直前まで歩こうとしていた廊下を敵兵士が足音を鳴らしながら歩んでいく。

 最後の一人の後ろ姿が見えなくなった後、張り詰めていた息を吐いた。


 「はぁ……っぶな、あれ見つかってたら一巻の終わりだった」


 「さすがに肝が冷えたね……けど、あれだけ司令室方向から人が歩いてきたっていうことは、逆説的に司令室は手薄ということだ。」


 「チャンス、ですね」


 「その通り、行こうか」


 気密音と共に扉が開き、部屋の内部が露になる。


 「はぁ!?」


 「なんだこいつら!?」


 「邪魔するぜ?」


 数は奏の発言通りに二人、想定の範囲内!

 一気呵成。背部のホルスターからナイフを引き抜きつつ駆け、一人の腹部にすれ違いざまに突き刺す。

 体の向きを変える拍子にハイキックを当てて床に打ち倒し、背後から襲い掛かってきたもう一人の連撃を受け流す。


 「そこッ!」


 ラッシュの間隙を突いて顔面に一発。たまらずホルスターに伸びた右手に爪先を叩き込んで破砕する。カツンカツンと音を立て自動拳銃が床を転がっていく。

 脚を引き戻し、膝蹴りを繰り出すがこれは不発。カウンターのショートフックが鋭い音を打ち鳴らして顔に入る。


 「ぐッ……」


 よろめく体を立て直して、追撃を図る相手のがら空きの胴にボディーブローを入れる。相手はうめくものの意識を刈り取るには至らない。クソ、武器がないとこれが面倒だ!


 床を蹴り、背後に一歩引く。狙いは背後の死体に突き刺したままのナイフ。これでトドメを刺す……


 「ンなっ!?」


 体を踏みつけてナイフを引き抜こうとした瞬間、その足を掴まれた。コイツまだ息があったか!?


 隙が出来る。致命的な隙。正面より迫る敵より早くこいつを無力化し、ナイフを構えるのは不可能だろう。

 故に、こう叫ぶ。


()()()()()!!」


 扉から黒髪を靡かせ、しなやかに飛び込んできたその影は弾き飛ばしたピストルに一直線に向かい、それを拾い上げる。


 照準。


 「グァ!」


 「……?」


 乾いた音が二発。敵の背を銃弾が叩く。不自然に一拍間が開き、その後放たれた三発目が脳天を寸分たがわず抉り取った。


 それを見届け、意識を下に向ける。


 「お前は、」


 足を振りほどき


 「いい加減に、」


 なおも阻もうとする手を蹴り


 「死ねッ!!」


 腹部に突き刺さったナイフの柄を踏み、より一層深く突き刺す。


 口の端からは追加で血が流れ、それきり、彼は動かなくなった。


 「よし、終わったぜ、入ってきてくれ」


 「ん、どうも」


 ソールで鍔の部分を蹴り上げ、宙をクルクルと舞った刃物を収納しつつ奏を呼びこむ。いくら血は止まっているとは言え彼女は手負い、戦闘はさせぬほうが良いだろう。


 「さて、これで首尾よく司令室を占領し終えた訳だが……雨衣くん?」


 「あぁ、いえ、何でもないです!!」


 「ならいいのだがね」


 撃ち殺した敵の前に佇む雨衣ちゃんを不審に思ったのか奏が声を掛ける。

 なにかあったのだろうか。


 「まぁいいや、それでは第二フェーズだ。始めようか。」


    ◆


 「いたか?」


 「いえ……」


 「クソ、奴らどこに隠れやがった……」


 「もう袋のネズミだってのに……」


 B3フロア、中央。

 <UN-E>の最高司令官、奏栞との交戦後、我々は上階の連中と合流し、目標の捜索に当たっていた。

 かれこれ、二時間が経っていた。既に基地内部の占領は完全に成功しているにも関わらず、奴ら三人は一向に出てくる気配がない。兵士たちも損耗し、苛立ちの色が見え始めている。悪循環だ。

 何か、前提条件を間違えたか?例えばまだ、占領できていないフロアが――—


 思考がそこにたどり着こうとした瞬間、それは起こった。


 「ジネット隊長!」


 「どうした?」


 「隔壁が……ダメージコントロール用の隔壁が勝手に動作を始めています!!」


 「なんだと?」


 「これによりB4フロアで捜索中のブラボー・ツー小隊、B5フロアのブラボー・フォー小隊と分断されました!」


 「隔壁を管理できるのは司令室だな、司令室に隊員を配備した筈だ、彼らとの応答は!」


 「通信途絶です!」


 「電力は!?」


 「復旧しています!原因不明!!」


 「チッ、やられたな……」


 となるとエネルギー管理区画と指令室があるB5フロア、そこに少なくとも目的が一名いる。確定した。

 しかし……この状況で下手に動いて良いものだろうか。

 その時、声が響く。


『やぁやぁ、国共軍の皆さん、私は<UN-E>総司令官、奏栞だよ。君たちが殺し損ねた、ね。勘のいい人なら気付いていると思うけど、私は、司令官らしく指令室にいる。改めてこの首が欲しいならここまでおいで?歓迎するよ』


 見え見えの挑発だ。間違いない、奴はやはり何かしでかす気だ。


 だが。


 「ようやく……ようやく見つけたぞこのクソアマァッ!!!!」

 「ブッ殺す!!」

 「お望み通り首もいでやらァッ!!!!!!!」

 「行けェッ!!!!敵は司令室だ!!!!!引き釣り出して解体したれェッ!!!!!!!」


 「待て!!止まれ!!……クソッ!!」


 苛立ちが、爆発する。


 歯止めが利かない。制止する間もなく駆け出してしまった。


 「仕方がない!同行するぞ!」


 ここで統制する者がいないままでひた走るよりかは、幾分かましだろう。

踵を返し階段の方へ駆け寄る。


 しかし、階段に足を踏み出した瞬間に見たものは。


 「……ッハ!グ、ガ……!」


 「いた、いたい……いた……」


 「あの女……ッ!畜生!」



 下に向かう階段の踊り場、凄まじい速度で降りた白亜の壁が、兵士を巻き込み剪断する光景だった。ひどいものには上半身と下半身が泣き別れになり、臓物を撒き散らしている者もいる。


 血で濡れそぼった隔壁は、断頭台の刃にも似て。


 「……ッ!動ける者は引き返せ!ついてこい!」


 もう既にあの女の術中だ、ここまでくれば突き進むしかない。

隊を率い駆ける。


 「止まれ!」


 ガチン!と音が鳴り、再びギロチンが降る。

 寸前で静止したため死傷者はゼロだが、この道も塞がれた。

 鼻先20cmに舞い降りる死に冷や汗を流しつつ、別の道を探す。


 しかし。


 ガチン!

 ガチン!

 ガチン!

 ガチン!

 ガチン!

 ガチン!

 ガチン!


 別の道など、なかった。

 次なる道を探す度、上から隔壁が降り、俺達から選択肢を奪い去る。

 結局、四方を壁に包囲された。

 部下たちは或いは断頭台の露と消え、或いは壁を隔てて分断され、気づけば俺のそばには一人のみ。


 「チッ、閉じ込められたか……」


 どこまで行っても、あの女の手のひらの上だった訳だ。

 自嘲気味にそう思い、嘆息しようとした瞬間、天井からガタリと音が鳴った。


 「……ッ!?構えろ!上だ!」


 叫んだ時にはもう遅かった。

 天井のダクトの蓋を開け放った男が一直線に落ちて来る。


 「ガァッ!」


 男は落下エネルギーを生かして部下の首筋にナイフを叩き込んだ。

 真下から噴き出る血でその痩躯と白銀の髪を緋に汚す男の名前は―—

 

 「沢渡、京。」


 一切の慈悲なく命を奪い去る『死神』、その具現だ。

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