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第三十話 50:1

 「やめろ!何が目てッ……」


 断続的に閃いたマズルフラッシュが視界を焼き、最後の一人が崩れ落ちた。

 中央階段到達。B1フロア、αゲート方面の制圧完了。


 それから程なくして、ブラボー・トゥー以下他小隊との合流にも成功。投降した者を捕縛し、B1フロアの完全制圧が完了した。


 「こちらブラボー・ワン。B1フロアの制圧が完了した。各小隊人員欠乏なし。」


 『よし。手筈通りB2フロアの制圧に向かえ。ブラボー・ファイブは捕虜の見張りだ』


 「了解」


 インコムを切断する。


 ブラボー・ファイブ以外の四小隊を統合。

 中央階段を通りB2フロアに降りる。


 ……と言っても、もうすでに仕事は殆ど終わっているのだが。

 先遣部隊がほぼ全てを喰らい尽くし、残るは酸鼻な死体と血溜まりのみ。


 一応生き残りの不意打ちを喰らっても面倒なので警戒しながら歩くが、結局生存者はおらず、B2フロアは素通りする結果となった。



 B3フロア。

 流石にこのフロアに入ると気が引き締まる。

 <Ex-MUEB>他、兵器庫があるフロアだ。

 目の前に見えるのは死体ばかりだが、奥からは発砲音が微かに聞こえる。まだ戦闘中らしい。


 「行くぞ。正念場だ」


 俊敏に、且つ丁寧に。

 周辺のクリアリングを怠らず、可能な限り最速の行動で銃声の元までたどり着く。


 銃声はやはりと言うべきか、保管庫で行われた攻防戦より発されたものだった。

 既に保管庫の内側にこちらの手勢が陣取り制圧寸前ではあるが、外側から銃で射掛けられ最後の一手が詰めきれないって感じだな。人数比8:10。


 状況把握を終了。敵人数は8人こっきり。雑に攻めても問題ないだろう。


 「すまない、遅くなった!加勢する!」


 敵の注意を引き付けるためにあえて大声で合流を告げる。

 敵勢力が驚愕と絶望の容貌でこちらを見る。その視線に射線で返し、引き金を引きこんだ。

 銃声。吐き出された鉛玉が体の各所に穴を穿つ。末期の絶叫と共に血肉が飛び散る。

 不意打ちで隊列の横腹に食いつかれた敵勢力は、瞬きの間に抵抗すら出来ず全滅した。


 そこから先は、まさしく壊滅戦とでも言うべき有り様だった。

 逆転の目を断った此方側は俄に活気づき奥へ奥へ、地下へ地下へと進撃していく。

 対する<UN-E>側は対抗する術もなく、潰走していく。

 捕虜の捕縛のために各フロアに人員を配置しつつも、手勢は削られないまま、B4フロアまでの制圧が完了した。

 そして。


 B5フロア、司令室前。

 この部屋の奥にいるであろう総司令官「奏栞」を排除すれば第一任務達成だ。

 ……まだ第二任務の目標である「沢渡京」と「天音雨衣」を一度も見かけていないというのが不穏ではあるが、それはこの後ゆっくり探せばいい。どのみち逃げ道はないのだ。


 装備の確認、リロードをハンドサインで指示。万全を期す。

 こちらの人数は50人。確実にやれる。


 ―――大詰めだ。


 隊員が装備を整え終わるのを確認し、突撃の指令を下す。

 意外にも扉にはロックも何も掛けられておらず、俺たちの存在を感知してなめらかに開いた。軽い気密音。


 「……<UN-E>総司令官、奏栞。我々にご同行願おうか。」


 「『国共軍』、だね?待っていたよ。」


 無数の銃口を突きつけられたその女は小揺るぎもせず、泰然と微笑んだまま、そう告げた。


 悪寒がする。

 この女の余裕は何だ?何か策を隠し持っているとでも言うのか?

 いや、あり得ない。兵器庫は占領した。内部の情報的に何かこの部屋にトラップや防衛機構が隠されている様子もない。数多の礫に対抗する術は、我々を返り討ちにする術は何も残されていない。なのに、何故。

 普段の俺なら単なるハッタリだと一笑に付すところだろう。だが、この女には。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 順調に運んできた事物が、全て大きな掌の上だったのでは無いかという疑念。

 ここまでの展開全てを見通していて、その上で奸計を張り巡らせているのでは無いかという恐怖。


 俺は、あの女の顔を、直視できない。


 逸る心臓。背筋を伝う汗。血の気を失う顔。

 何かに憑かれた思考は、理性の軛を外したまま。


 「この女を撃ち殺せ!」


 そう、命じていた。


 瞬間。紫電が弾ける。


    ◆


 「<Ex-MUEB>、腕部展開。」


 数多の照準が四方八方360°全てを取り囲む中、私が唱えるのは魔法の言葉(ゴドー・ワード)


 紫電が煌めき、私の腕だけにアーマーが装着される。不格好かな?だが今はこれで十分!

 手を広げたまま前に突き出して腕部積載の高出力ENシールドを展開。紫色の光の膜が体躯をすっぽりと覆い尽くし、襲いかかる鉛玉を圧倒的な熱量で溶融させていく。

 結局の所、一つたりとて銃弾が私の体を食い破る事はなく、歓喜に包まれる筈の彼らの顔には揃いも揃って驚愕のみが張り付いていた。


 「驚いたかな?<Ex-MUEB>指揮官機には量子もつれを利用した空間内光子移動機能……要は各部位分割してのテレポート機能が付いている。……まぁ、まだプロトタイプなんだけどね。君たちのお仲間が必死こいて兵器庫占拠したのも、全部無駄ってワケ。お生憎様」


 「ふざけるな!!」


 胸の内は激昂か絶望か。敵兵士の一人が腕の中のARをリロードもせず、銃剣を構えて突っ込んでくる。


 「……<Ex-MUEB>、胴部展開。」


 その切っ先を危なげなく受け止め。


 「<Ex-MUEB>、脚部展開。」


 返す刀で無造作な蹴りを叩き込む。

 激烈な圧力を受けた兵士の五体は各所が爆砕し、血煙のみを遺して消え失せた。


 「……馬鹿な」


 「ひぃふぅみぃ……まぁざっくり50人ってとこかな?50:1……」


 「()()()。」


 呟くや否や右足を踏みしめ敵群に接近する。


 「クソ!ドアは!?」「開かない!!」


 「締め切っているに、決まっているだろう!!」


 叫びながら左足を撃ち抜く。

 そのまま音声操作で腕に装備箇所を切り替え、もう一人を殴り飛ばす。

 顔をつかんで振り回して閉じた扉に叩きつける。

 

 「うわあああああ!!」


 恐慌を起こした者達が放つ銃弾が無数に襲いかかるもののさっきの繰り返しだ。私の体を傷つける事は能わない。

 防御するかのように前に掲げられた銃身をへし折り、顔面に一発。顔を消し飛ばす。

 

 脚部に装備箇所を変更し体を振り回してジャンプ、更に天井を蹴り飛ばして加速。繰り返し壁を蹴り回して際限なく勢いをつけ、その勢いを生かしてピンボールのように室内を駆け巡り、敵の頭蓋に乱打を加える。


 「フーッ……」


 断末魔と脳漿の中をくぐり抜け、滑らせた足をブレーキにしながら敵より離れた位置に着地する。

 

 ……実の所、口で言っている程余裕という訳でも無いのだ。


 EN消費。

 転送やバリア展開はどうしても内蔵ENを使う。

 <Ex-MUEB>の全体展開という手に踏み切れないのもこれが原因。節約の為に装備箇所を細かに切り替えながら戦うしか無い。

 EN切れを起こせば動作補助と装甲硬化は解け、超人的な力を齎す鎧は身を縛る金属の重石となる。とは言え銃弾を弾くチョッキぐらいにはなるだろうが……それで残りを制圧出来るとは思えない。


 だから今一番まずいのは、この戦況でも私を損耗させられているという仮定を前提として、玉砕覚悟で粘られる事。

 そうなればこちらのEN切れか敵勢力の全滅かのチキンレース、端的に言えば賭け(ギャンブル)になる。それは避けたい。

 だからこそこうして口を回してブラフを貼っている訳だが……


 「怯むな。」


 声がした。静かだが気迫を宿す声。


 「ヤツだって全くの無損耗と言う訳ではないはずだ。その勝機を狙え。覚悟を決めろ。どのみち出口はないのだ。我々は個である前に軍であり群である。個の命に固執することなく、群という一つの勝利に執着しろ。全ては教本の心得通りに」


 内心で舌打ちする。

 敵軍の殺気が変わった。こういう眼をした奴らには()()()()()。自らの命も仲間の命も顧みる事なき死人(デッドマン)。この手の手合は尋常どころではなく厄介だ。


 現場の指揮官に「目」と「声」がいいのがいるな。こちらの小細工なんてお見通しか。

 こうなってしまうと……


 「マズったかなこれ」


 弱音が微かに喉を震わせた。

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