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第二十七話 来訪者

 「うぉ……あれ見ろよ……あれ『白の死神』だろ……」


 「白髪赤目……確かに特徴は一致してるけど、アレがか……?噂に聞くような一騎当千の大英雄には見えないが……」


 カツカツと音を立てながら本部基地の廊下を歩く。

 物陰からは聞こえていないつもりなのかヒソヒソ声の噂話。

 <タイタニア型>討滅作戦から数日。基地内はこんな感じの噂で持ち切りだった。


 『生存者サバイバー』に『遂行者クエスター』やら『原初ファースト』、 『殺神鬼ゴッズ・マーダー』『妖精妃殺し』『J-51地区のエインヘルヤル』『無垢なる比翼』『光刃の主』

 挙句の果てには『世界最強の兵士(マキシマム・ワン)』。


 これら全て俺の二つ名だ。はっきり言ってうんざりする。自分のことを弱いとは思わないが、そこまで大した存在ではない。ただの一前線兵士だ。


 中でも先程も出た『白の死神』というワードが一番使われていた。恐らく俺の『死神』という元々の渾名に尾ひれが付いたネーミング。気恥ずかしい事この上ない。

 まぁ忌み名としての側面もあった『死神』に比べれば単にJ-51地区での戦いを指してそうなだけ幾らかマシではあるが……


 嘆息混じりに歩く。


 「さ〜わた〜り〜さんッ!」


 「ウッ」


 腰に軽い衝撃。

 見れば雨衣ちゃんが背後から体当たりを仕掛けてきていた。地味に痛い。


 「おはようさん」


 「おはようございます!」


 ガヤが『黒の女王』だのなんだの喧しいが気にしない。俺はこの小動物とのふれあいタイムで忙しいのだ。


 「今日の予定ってどうでしたっけ」


 「本部基地の見回りだな」


 <タイタニア型>討滅作戦の折、フライトユニットを無理やり接続したことと、それを扱うために即興でOSを書き換えるという荒行をこなしたことにより、俺の<Ex-MUEB>は整備行きになり出撃不可。……あとで磐さんからのゲンコツが怖い。


 雨衣ちゃんもあの時の不可解な現象がある程度はっきりするまでは基地内待機命令が下され、共に出撃ができなくなったことにより、二人とも基地内の巡回の任が充てられたワケだが……


 「正直半分休暇みたいなモンだろ。さっさと終わらせようぜ」


 「そうですね」


 言葉を交わしつつフロアを巡っていく。


 整備フロア異常なし。兵装庫異常なし。出撃カタパルト不審物なし……


 まぁわかっていた事だが基地内に特に異常はない。今日は<N-ELHH>もおとなしいらしくスクランブルの慌ただしさとも無縁だ。


 階段を降り、次の巡回箇所であるB5フロアの発電並びにエネルギー管理区域に入る。ここは物影が多く少々点検が手間ではあるが……

 刹那。


 「…………シッ!!」


 後ろ蹴りを繰り出す。宙を切る爪先。


 「……何だ?」


 仄暗い室内に人影は見えない。だがこの粘つきまとわりつくような不快な感覚は……


 「気づかれていましたか……『白の死神』と『黒の女王』。お迎えに上がりました。」


 物陰から男が二人現れる。軍服姿。だが……見慣れないな。少なくともウチの兵士ではない。


 「そんな殺気ビンビンでまぁ。不意打ち狙いたいならちったぁ隠せっての、三下」


 「クク……死神に言われては形無しというもの」


 「慇懃野郎が」


 袖を捲る。


 「ブチのめしてその減らず口二度と開けねぇようにしてやるよ。」


 会話に応じているほうが上と見た。目の前へと踊りかかる。

 それに合わせて繰り出された蹴りを受けつつ叫ぶ。


 「雨衣ちゃん!!もう一人を頼む!!」


 「分かりました!」


 取り合えず一対一だ。

 走りだす雨衣ちゃんを見てから受け止めていた脚を放し、グラついた胴に腰の入った拳をくれてやる。

 だが響いたのはバキリという異音。


 「ってぇ……」


 チョッキかなんかか。フル装備じゃねえかこいつ……


 「流石に応えますね。」


 そう言いつつ男は腰に手をやって、黒光りする拳銃を引き抜いた。


 「おいおい、こっちは素手だぜ?そんなおもちゃ使わなきゃ勝てないってのか?」


 煽りつつも冷や汗を流す。

 そうなのだ。こっちは<Ex-MUEB>未装着の素手。いや正確に言うなら腰の下に隠れる形でナイフを下げているのだがこれは隠し札。どっちにしても拳銃のレンジ外からの攻撃は厳しいし。

 つまり、|リーチと速度を持つ上に当たれば一撃死とんでもないクソゲーの状況下でこの男を制圧しなければならない。


 「ッ……!」


 今はただ、前へ。

 距離を詰めてリーチの有利を無くすのが最善打。


 山勘。

 走りだすと同時に身を捩り先刻まで俺がいた空間を穿つ閃光を躱して懐に飛び込む。運が良かったとしか言いようがない。高性能なサイレンサーがつけられているのか銃声はほぼしなかった。

 潜り込むように敵の視界から姿を消してアッパーを仕掛ける。仰け反られて掠るにとどまった。


 こちらに突き付けられる銃口を腕で払いつつも、体の動きから切り離した思考を巡らせる。


 何となくは察していたが、超極圧縮金属を使った<Ex-MUEB>対応銃ではないな。もしそうだったらたとえ避けれたとしても発生するソニックブームで体が引きちぎられている。ついでに言うなら躱せた以上射撃と着弾が同時の光子型でもない。


 となると旧時代と同じ単なる実弾銃だがそうだとすると軍服を着ていることと辻褄が合わない……今なお旧式の実弾銃を使っている統制の取れた武装勢力……思いつかないな。


 いっそ装備一式は地下の闇街に流れた物で、それを使って変装した犯罪者やマニアックの線……これはないか。マニアックに<UN-E>のセキュリティシステムを破られたなどあってたまるか。


 「フン!」


 銃口を突きつける動きではなく直線的に銃身で殴りつける動き。思考を切り上げ咄嗟にスウェーする。視界の上を銃が通り過ぎていく。

 体のバネを生かして低空サマーソルトキックを腕に繰り出す。弾かれて跳ね上がる敵の右腕。体を立て直しながら相手に組付き極めに行く。


 しかしいざ腕を掴み体重を預けようとした瞬間、力任せに腕を振るわれた。

 振りほどかれ背中から地面に叩きつけられる。


 「ゲッ」


 息が詰まる。落ち方が悪かった。肺が激しく収縮しているのを感じる。

 対人戦にそれなりに手慣れてやがんな、極や投も成功させるのは厳しそうか。

 どうにか前を見据えるとキラリと金属質の煌めきが覗く。


 「クッソが!!」


 銃弾が放たれる前に走り出し発電設備の陰に隠れる。外れた弾丸は壁際から床にかけて置いてあるのバッテリー設備に当たり、吹き出た火花と放電アークが俺の背を焼かんと舐める。

 物陰に潜む数瞬で作戦を組み立てる。……これならやれるか。


 近場にあった荷物運搬用の台車を引き寄せ滑らせる。

 相手の銃口がそれに気を取られ少し逸れる。

 その隙に脇を駆け抜けて位置を入れ替えつつも振り向きざまに面に一発。顔面は守りが甘い。

 予想外の一撃にたたらを踏む相手。

 その揺らめく体を追うかのように右足を大きく打ち鳴らして一歩踏み込み……


 鉄山靠。

 大昔に習った八極の秘門。

 踏み込みによるエネルギーを生かした体当たり技。リーチは短いものの破壊力は絶大。

 果たして肩口から突き上げるような一撃をもらった敵はバランスを崩していた事もありその体を浮かし。すっ転ぶかのように数mほど宙を舞った後、落下防止のフェンスを超えて先程撃ち抜いたバッテリー設備群の只中に落ちた。


 「ガアアアアアアアアァァァァァァァッ!!!!!」


 先程より勢いをました火花と放電がその身を焼き尽くす。数瞬の後、叫び声は止んでいた。


 「手間取らせやがって……」


 口元を手の甲で拭う。

 次だ。

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