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第二十五話 <タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 ⑫

 空を、紫色の光軸が翔けるのを見た。

 光は一瞬押し止められるかに見えたが、その一秒後には、容赦なく<タイタニア型>の体躯を貫いた。

 大きく敵の体が揺るぐ。悶絶の咆吼が耳をつんざく。


 「うおおっ!?」


 「アレが通達で来てた砲撃なのか!?」


 「すげぇ威力じゃねえか!」


 「初めてアイツがよろめいたぞ!!」


 にわかに後方の部隊が勢いづく。

 右腕を振るい胴を掻き裂いた後に大きくバックジャンプ。

 中隊長の隣に着地して話しかける。


 「っと、これって……」


 「あぁ、間違いない。本部より来ていた通達通りの砲撃だろう。」


 「ならこれからが最後のチャンスって訳だ、それに乱入するってことだな?」


 「その腹づもりだ。だが、懸念点を上げるとすれば陣中を突破できる見込みがあるのが現状私達の部隊だけということだ。かなり長い間、友軍無しで奴の攻撃に耐えねばならん……策は何かあるか?」


 「一応一発で勝負つけれるかも知れない秘密道具を背中に積んじゃあいるが……ついさっき現地回収で取り付けたばっかりだからな……半分以上ギャンブルだ」


 「……了解した。」


 「あと恐らく起動に時間がかかる。そこの援護を任せてもいいか?」


 「良いだろう。武運を」


 「ああ」


 前っ飛びで先頭に戻り、敵を切り捨て突き進む。

 そして、


 「よぉ、久しぶり。」


 「グるオぉ……」


 怪物ひしめく陣地を突破し、<タイタニア型>と今再びの対面を迎えた。

 舞台は先程と同じ壊滅したタンク部隊がかつて陣取っていたエリア。


 すぐさま地面に突き刺さる触手のラッシュを身を翻して躱し、膝立ちで着地する。


 「総員!沢渡京中尉を援護しろ!!」


 背後で胴間声が響く。素早く隊員達が俺を取り囲み、<タイタニア型>にその銃口を向ける。行動が早いな、よく訓練された良い部隊だ。


 「……さて。」


 膝立ちの状態でUIを操作する。

 戦闘種別を示すアイコンを二回スワイプし、真っ黒なノイズに触れる。……これで良いんだよな?


 <Ex-MUEB>メインシステム戦闘モード起動。戦闘種別<404.Error not to found―>


 ノイズ混じりのシステムコールを聞く。

 これで一応接続されたバインダー翼の操作が出来る様になったはずだ。システム側の補助が無いのが不安ではあるが……


 ガチャン、ガチャンと音を立てて収納されていた背部バインダー翼が展開される。

 意図せぬ挙動でカメラが落ちたのか、真っ暗な画面に旧時代のCUIタイプのOSめいた文字列の羅列が並ぶ。その一つ一つを、問題がないか検め、問題があればその場で都度書き換える。


 スラスター露出完了。

 EN配線ライン問題なし。

 EN濃度正常。

 コマンドパス接続書き換え。マニュピレーター付近のEN分配率を低下させ各所スラスター並びに武装ラインに再分配。


 外の様子は何も見えないが、銃声とレーザー音、そして何かがぶつかり合う様な音が聞こえる。恐らく襲いかかる触手を弾丸で弾き返しているのだろう。

 起動準備を続ける。


 フィジクス想定データ書き換え。揚力想定データを入力。

 正面対Gデータ強化。

 ニューロニクス接続データ向上。

 CPU処理速度向上、恐らくこれでシステム制御に負荷がかかるが問題ない、どうせ10秒こっきりなのだ。

 高高度機動戦の過去戦闘データを取り込み運動ルーチン更新……クソ、ネットワークアクセス失敗。<N-ELHH>の電波阻害か。ここは勘で補うしか無いな。

 伝達関数参照。概ね問題なし。

 一応グラフィックオプションを参照するがここは一朝一夕では直せそうにないな。起動完了と共にGUIを切って肉眼で戦闘するしか無さげだ。


 システム参照並びに問題箇所の修正完了。モジュール起動開始。


 一番配線と三番配線を経由し、各所スラスターにENゲインの伝達を開始。

 大型スラスター二機のEN残量が起動ラインに至った段階で二番配線解放。中小型スラスター各部に伝達開始。

 内部機関始動。正常稼働率60%を突破した段階でメインエンジン点火……

 エルロン試験動作。動作正常。

 機体正常稼働率100%。


 システム・オールグリーン。フライトユニット、起動。


 GUIオフ。

 真っ黒な背景と奇々怪々な文字列が消滅し、視界が開ける。

 即座に白い光が視界を埋めるが、インタラプトした翠色の光を放つドローンがそれを防いだ。


 「ナイス雨衣ちゃん!!皆離れてくれ!俺はこれから……」


 「()()!」


 周囲の人間が慌てて退避したのを確認し、足元を思いっきり蹴り飛ばす。体が凄まじい勢いですっとび、地上75m程の高さに到達する。


 右手に握った鎌の柄のスイッチを空中で握り込む。


 光の刃が消え、鎌が細長い金属棒に戻る。

 その金属棒である非実体剣の基部パーツが再び変形。初期状態の時の剣形状に戻る。

 しかし、その後周囲を覆った光刃は、大きく姿を変えていた。

 単純に、サイズが極端に大きくなっている。その長さも。その幅も。規格外と呼ぶに相応しい超巨大剣となっていた。全長13mなどというふざけた規模感から見れば、刃を出力している基部パーツはペーパーナイフ程度のおもちゃのようにしか見えない。

 刃の色は色素を凝縮したが如き赤黒。暗黒の色相そのままに眩く輝くという不可思議な色彩が体を染める。


 最大解放(バスター・ソード)


 アフターバーナー点火。滞空機動開始。


 飛行と最大解放。この二機能の併用を行った場合、ENは10秒で尽きる。これが整備士大崎の言だった。

 だが問題はどこにもない。10カウントなんて待たずにぶっ殺してやるよ。


 0秒。

 剣を正面に構えて加速する。

 触手が取り囲み俺を串刺しにしようとするが加速で振り切る。


 1秒。

 錫杖から熱線が降り注ぐがバレルロールで攻撃範囲から離脱。

 後ろから追尾してくる触手に斬撃を撃ち込み切り払う。


 2秒。

 敵の剣が襲いかかってくるが上方への急加速でこれを回避。

 急降下して大剣の剣閃を叩き込み両断する。折れた敵の切っ先を蹴り飛ばして叩きつける。


 3秒。

 そのまま突っ込んで行き右腕を剪断。

 傷口から大量の触手が現れ、回避しきれず数発被弾しバランスを崩す。


 4秒。

 地に叩きつけられる前に雨衣ちゃんのドローン編隊が俺の体をどうにか回収。高度を戻す。


 5秒。

 再び空を翔ける。

 先程と違い細かく光弾に別れた熱線を切り払って無効化し更に突進。


 6秒。

 破れかぶれ気味に振られた錫杖の先端を空中で身を捩り鼻先で回避。

 先端の球体に大剣を突き刺して割り砕く。


 7秒。

 醜い翼が蠢き、そこから触手が大量に殺到する。

 その全てを回避し切り捨てて突撃。


 8秒。


「ラアアアアアアッ!!」


 大剣を真上に振りかぶり一撃。これは左腕で防がれた。

 左腕が切り離され宙を舞う。


 9秒。

 間髪入れずに横切り。少し遅れて蹴り。

 二撃は見事頭に入りその御首を弾き飛ばす。

 だが奴はこれでは死ななかった。二枚の翼が撚り合わさりってそれぞれ一本の巨大な触手と化して挟み込むように俺を―――


 「()()()!!!!!」


 下界から声が響く。

 命令を受けた<タイタニア型>は不自然に体を硬直させる。


 たかが一瞬。されど其は致命の刹那。


 10秒。刻限。

 二本の巨大な触手の隙間をすり抜けた俺は胸部に肉薄し、横に引き絞った剣を、両の手で握りしめ、渾身の力で―――


 叫び声もなく。

 <タイタニア型>の胸部から上が黄昏の光に沿って崩れ落ちた。



 ENが尽きて真下に落ちそうになる体をどうにか制御し、<タイタニア型>の断面に転がる。

 肉の隙間からは、紅玉にも似た心臓部が覗いていた。


 紅玉の陰影と光沢が、一年前に喪った、アイツらの形を取った。

 無論、幻覚であり幻想だ。俺の内側の感傷が、その様に見せているだけの話。夜に星座を結ぶようなモノだ。

 だが、俺はそれに応えた。


 「……忘れない。置いていく訳じゃないさ。だけど……俺は前に進む。願わくば、それを、赦してくれ。」


 振りかぶる。

 とうに巨大な光刃は消え、<Ex-MUEB>の超人的膂力は失われている。

 だが問題はなかった。

 金属質の基部パーツが紅玉に撃ち込まれる。それは大きな疵を齎し、一時の間を置いて。


 俺を取り巻く因縁諸共、真っ二つに砕け散った。

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