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第二十三話 <タイタニア型>討滅並びにJ-51地区奪回作戦 ⑩

 振り回す。

 棒部分を左の掌の上でくるくると弄ぶ。

 そのままゆっくりと歩み寄り———


 「ラアッ!!」


 回転の勢いを乗せ振るう。

 会心。

 目の前の敵が数体まとめてちぎれ飛ぶ。


 初めて使う上に特殊な武器ではあったが、なかなかどうして使いやすい。

 特にこの勢いを載せて振るう長物武器特有の運用方法が、受け止めるのではなくそのまま切り飛ばす非実体剣の防御方法によくかみ合っていた。

 たださすがに片手じゃ扱いづらいな。

 腰部ハードポイントにライフルを懸架し、両手で握る。


 「さぁて、試し刈りはおしまいだな」


 グン!

 体がすさまじい威力で押される。これで<中距離射撃型>、すなわち全力機動じゃないというのが恐ろしい。


 ふわりと地を滑るようにマニューバーする。足で踏み込む必要も薄い。

 横薙ぎに一閃。柄頭で打突。上に構えて叩き落す。滑らかに蹴りを繰り出し、その勢いで回転、斬撃。

両手でぐるぐると回し、ランダムに揺れる刃で相手を解体。

 中華圏の棒術の要領で柄を自らの体に当て反動で加速させてさらに一撃。

 刃を免れた敵が攻撃を仕掛けてくるが問題なし。まずは突き出された右腕を体に触れる瞬間で切断。次いで左腕を落とし、そのまま下段に構えて両足を切り落とす。

ダルマ同然となった敵の体がバランスを崩す前に最後の一撃。頭を高く切り飛ばす。


 「セイッ!!」


 目の前の一体を光刃で引っ掛けて渾身の力で投げ飛ばす。

 敵は盛大に真上に吹き飛び、見えない位置に落ちた。


 雑に突く。先端部が体にめり込みべきべきと心地よい感触。すっ飛ぶ体を追いかけさらに追撃。空中で胴が裂けた。


 バックジャンプで距離をとるや否や鎌を投げ飛ばす。

 放り投げられた鎌は横回転で回り、赤色の死の暴風それそのものと化す。

 空いた両手でライフルをハードポイントから抜き連射。暴風域外の敵に風穴を開ける。

 ライフルを再び収納しつつダッシュし、回転力を失って先端部分を下に地面に突き刺さった鎌を回収。


 「フゥーッ……!」


 息をつく。

 攻撃範囲が広がり一振りで殺せる数が上がった事で前に進めるようになりはしたが、慣れない武器を使っているせいか嫌に疲れる。

 厚みを増した陣地を二人のみで抜けるのはやはり難しいか。

 一度後ろに下がり、雨衣ちゃんのドローンと命令を受けた<N-ELHH>に相手をさせつつミニマップを確認する。


 ……成る程、やはり再攻撃に当たって動き出してる部隊があるな。一度そっちに合流したほうが良いかもしれん。

 距離は……一番近い部隊でE方向にざっくり350か。そこまで遠くない。行けるか……?今の最短距離で<タイタニア型>に向かうルートからすると遠回りにはなるが……


 「雨衣ちゃん、転進する!このままやってても多分ジリ貧だ!一度近くの部隊と合流して、その上で<タイタニア型>の方面を目指す!」


 「分かりました!()()()()()()。」


 再度<N-ELHH>に命令をかけて兵力を補充しつつ雨衣ちゃんが返答を返す。

 それを聞きつつ体の向きを変えて再び鎌を薙ぐ。

 鎌を体の周囲を這うように振り回し切り捨てる。それによって少しの隙が敵の軍団に生まれた。その隙を見逃さず腰のライフルを高出力モードに変更しつつ引き抜き照準。


ビウッ!


 引き金を引いてから数瞬の溜めの後、通常時より重たい音を立てて光弾が放たれる。

 飛翔した弾丸は直線上に並ぶ五、六体の敵を一発で貫いた後消え失せた。それを追いかけるかのように敵陣に飛び込んで紅い刃を幾度となく振り回し、道を確保する。


 「雨衣ちゃん!」


 「はい!」


 呼びかける。



 肩口に頼もしい重たさ。

 俺の肩口を足場に跳び上がった雨衣ちゃんが下に向かってドローンの光軸を六条纏めて扇状になるように撃ち放つ。

 地に突き刺さるビームより一拍遅れて俺の目の前に着地した雨衣ちゃんは、回避を主軸としたインファイトにドローンを交えて果敢に挑みかかっていく。

 側面はしっかりと|命令を下された<N-ELHH>《従順なる奴隷達》が固め、盤石そのものである。

 苛烈な攻撃の中をドローンと<N-ELHH>で的確に捌き躱していく雨衣ちゃんは踊り子のようですらあった。


 「そろそろ合流出来る!3カウント後にスイッチ行くぞ?3、2、1、今!」


 バク宙でこちらの背後にまわった雨衣ちゃんを尻目に位置を入れ替えた俺は正面に構えた大鎌を片手で高速で回転させる。


 「ハアアアアアアア……!」


 現れたバリアの様な円形を前に押し出して吶喊。

 円に触れた敵を容赦なく細切れにしつつ、陣中を突っ切り、他部隊の側面から合流に成功した。


 「わぁっ!」


 「うおっとすまん!」


 危なかった。回転の勢いが付きすぎてそのまま友軍まで切り刻む所だった。


 「ちょっ、<N-ELHH>付いてきてますけど!?」


 「あー気にしないでくれ、とりあえず危害は加えてこないから。それよりこの部隊の部隊長は?」


 「はぁ……あちらに……」


 気弱そうな兵士の手のひらが指す先には指揮と戦闘を同時にこなす、立派な体躯の偉丈夫がいた。俺より頭一つデカいな……

 銃を連射する彼に駆け寄り、こちらも銃を引き抜き応戦の体勢を取りながら話しかける。


 「突然で済まない、こっちは総司令官直属特務実証部隊所属の沢渡だ。こっちは天音。」


 「む?私はJ-51地区陸上普通科部隊第3中隊隊長の伊野だ。どうされた。」


 伊野と名乗った偉丈夫は頬付けしたライフルから目を離さず対話に応じた。


 「貴隊もあと……30分後の<タイタニア型>への総攻撃に向けて進軍しているのだろう?」


 「あぁ、そうだが」


 「実はこっち二人も同じでな。だが流石に二人だけでこの陣を突っ切るとなると中々難しいものがある。そこで貴隊との同行を許していただきたいのだが」


 「分かった、では露払いを頼んでもいいだろうか。こちらは頭数があるものの火器が貧弱で徐々に進軍が詰まり始めていてな。願ってもないというのが正直なところだ。」


 「交渉成立だな。喜んでやらせてもらうさ」


 「『死神』の力、期待してるぞ?」


 アンタも知ってるクチかよと音には出さずに呟く。

こ れまで気にしたこともなかったが、俺の『死神』という異名は疫病神的な意味合いと敵を屠る超人兵士的な意味合いを併せ持つ二義的なワードらしい。

 できれば後者の意味でのみ使われて欲しいものだが……と考えて、普通に後者の意味合いでも面映ゆいばかりだから嫌だなと思い直す。

 俺はなんてことない兵士Aで有りたいのだ。


 そんなことを思いながら銃をしまいつつ部隊前面に移動して鎌を打ち振るい、眼の前の敵を打ち倒していく。

後ろにこれだけの人数が控えているとなると流石に頼もしい。後方と側面の安心感が段違いだ。フロント一人、バック一人という構成で突っ込んでどうにかなっていた今までがなんか変だったのだ。いや、普段の雨衣ちゃんもすごく頑張ってくれてはいるのだが。

 その雨衣ちゃんと言えば、俺の隣で怪物とドローンを指揮し、正面の敵を次々と撃破している。

 信頼が出来る相手が普段とは違い背後ではなく隣で戦ってくれているという事実がたまらなく頼もしく、嬉しかった。


 「さぁて、置いてかれないように俺も頑張りますか」


 鎌と自分自身の速度を更にもう一段階上げる。敵を切り捨て、殴り飛ばして、蹴りを入れ、際限なく湧き出る怪物共を狩っていく。

 思考の白熱化とはまた違う快感を感じながらも、血の色をした鎌を敵めがけて思いっきり振り下ろした。

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