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世界はこんなにも美しいのに  作者: 春風ほたる
帰り道を見つける旅
12/17

レッツもふもふ!

1000PV突破しました。ありがとうございます。

「……」


 先程は注視していなかったから何とも思ってなかったが、よく見るとおかしな格好の少女だな。ゲームやアニメでありそうな恰好って言うべきか。腰には革製のポーチ、右脚にはレッグホルスターのようなものが装備してある。そしてレッグホルスターには、しっかりとナイフらしきものが入っているのが見て取れた。うん、如何にも「冒険してます!」って感じの格好だ。あとはそうだな、隠れすべき所はしっかり隠れているものの、短パンだから太腿はそこそこ見えるし、肩や鎖骨といった部位は惜しげもなく晒されている。防御力は低そうだ。


 何っていうか……そう、コスプレっぽい。けれど、コスプレ特有の偽物感は微塵も無くて、おかしな話かもしれないが本物って感じだ。これはいよいよ、未だにふわっとしていた異世界説が真実味を帯びてきたな。いい加減、その仮説が正解かどうかは気になるところだ。


「えーっと」


 少女は困ったようにもじもじし始めた。

 何だろう? 違和感を感じる。今のも何か変じゃなかったか?


 少しだけど確実に引っ掛かりを覚えた僕は、脳内で思考を巡らせる。


 ――ああ、分かった。


 話しかけられた当初から感じていた違和感の正体。それは彼女の声をただの音として反芻することでやっと分かった。彼女が今喋っているのは、日本語でも、ましてや英語ですらない。僕が一度も耳にしたことがないはずの、未知の言語。なのに何故か、僕は彼女が何を言っているのか理解できる。それどころか先程までは、魚の小骨が喉に刺さった時程度にしか違和感を感じていなかった。いやぁ、おかしなこともあるもんだな。


「何か反応が欲しいなぁ、なんて」


 ……。ああ、僕の反応を待っていたのか。気が付かなかった。確かに僕は、彼女を見つめるだけ見つめてずっと無言を貫いていたな。これは意識的に無視していたわけではなく、視界に入った情報を整理していただけだ。だがそれは相手に伝わっているわけではない。こういうのが面倒だから、僕は人付き合いが嫌いなんだ。


 っと、そうも言ってられないな。早速「何者?」に対する返事を……僕って何者だろう?


 これは別に記憶喪失とかそういうわけじゃなくて、単なる疑問だ。むしろ自分が自分であるという記憶はしっかりと持っている。境希夢という名前で、十八歳で、男だった。……そう、過去形。それは全て過去の話だ。今の僕には、境希夢の影も形すら無い。じゃあ今の僕って、一体何?


 それにもう一つ、懸念点がある。それは言語だ。前述の通り、彼女の言葉は未知の言語で紡がれている。だから、僕が日本語で喋っても多分彼女には通じない。なら確実な方法として、その未知の言語を僕も使う必要がある。そんなことできるのだろうか? ……多分できると思う。おそらく今の僕は、その未知の言語で自然かつ流暢に話すことができる。理由なんてない、ただの直感だ。


 さて、いい加減何か返事をしなければ。――あっ。


「クロ、待って」


「……っ!」


 ふぅ、危なかったな。もう少し僕の反応が遅れていれば、少女が惨たらしい死体に成り代わってしまうところだった。


 今さっき、僕は何に気が付いたのか。それは先程の発言の通り、クロの存在だ。何てことは無い、ただクロが住まいに帰ってきただけ。だったら良かったのだが、実際クロは少女に対し奇襲をかけようとしたのだ。少女の死角から必殺の一撃。それをクロは実行する寸前だった。


 それに気が付いた僕は、慌ててクロに静止の声を掛けたというわけだ。


「ガルルルル」


 どうやらクロは激おこらしい。


 そりゃそうか。だって知らない奴が自分の住処に土足で踏み込んでるわけだし。……僕が言えたことではないけれど。


 だがしかし、ここで少女を殺されるわけにはいかない。理由はまあ、色々だ。まず大前提として死体なんて見たくない。それに、この少女は僕がここに来て初めて出会った言葉を交わせる存在だ。聞きたいことが山ほどある。だから、言葉を交わせない状態になってしまっては僕が困る。我ながら何とも自己本位だ。他にも理由は沢山ある気がするが、上手く言葉にできない。


 ……まあ、理由なんてどうでもいいか。


 というかそもそも、奇襲を失敗させた時点で僕たちに勝ち目はない気がする。理由なんてない。何となくだ。


 よって僕は今、どういった行動をするべきか。言わなくても分かるよね?


「クロ、おいで」


 まずは臨戦態勢のクロをこちらに呼び寄せる。


 クロは少女を警戒しながらも、こちらに来てくれた。良い子だ。


 そして――レッツもふもふ!


「よ~しよしよし」


 ああ、クロよ。なんて良い手触りなんだ。はぁ、気持ちいい。最高。――やばい、涎出てきた。


 ――わしゃしゃしゃしゃ。


「……ハァ」


 クロが溜息をつく。ふふっ、愛い奴め。


「えーっと」


「……んぅ?」


 第三者の声がしたので、僕はもふもふを一旦中断する。そして声がした方向に目をやった。するとそこには、見た目からして活発そうな橙髪の少女が……この流れさっきもしたよな。


 まあとにかくここへ不法侵入した少女が気まずそうに、僕とクロのイチャイチャタイムをガン見していた。……えっち。


 少女と僕の目がばっちり合う。


「「……」」


 目が合ったまま、暫しの沈黙。それを先に破ったのは、僕ではなく少女の方だった。


「あなたは、あなたたちは一体何者なの? どうしてこんな場所にいるの?」


 少女は先程と同じ……ではないな。同じように見せかけてプラスアルファした質問を僕にぶつけてきた。さっきと同じ質問かと思ったよ。ふぅ、危うく騙されるところだったな。


「……まずはそっちから教えて。君は誰? ここへ来た目的は?」


 意外でもないかもしれないが僕は質問に答えることはせず、同様の質問を少女にぶつけた。


 だって僕が出せる僕の情報なんてそんなに無いし。ここにいる理由なんてこの付近で目覚めたからだし。……え? 僕がここで目覚めた理由? そんなのは僕が一番知りたいね。


「ああ、そっか。そうだよね。んんっ、こほん。じゃあ改めて、初めまして! わたしはBランク冒険者のエルカシス。親しい人たちからはエルとかエリスって呼ばれてるよ。ここ、ノーンデリックの森には調査依頼があったから来たんだ~」


 少女は元気よく、自己紹介をしてくれた。うん、仮にここが小学校だったら確実に満点だ。


 とまあそれはどうでもいいとして、そこそこの情報を手に入れることができた。まずは少女の名前。少女の名前はエルカシス。長ったらしくてめんどくさ……じゃなくて親しみを込めて僕はエルと呼ぶことにしよう。で、エルはBランク冒険者というものらしい。おそらくそれが彼女の職業なのだろう。如何にも異世界テンプレって感じの職業だ。


 それともう一つ分かった事がある。それはここの名前。どうやらここは、ノーンデリックの森というらしい。ノーンデリックの森……ノーンデリックかぁ。……ちょっとだけ言いにくい。


 後は気になったことが一つ。それは調査依頼という単語だ。エルは一体何を調査しに来たというのだろうか?


「何を調査しに来たの?」


 僕は素直に疑問を口にした。したのだったが……。


「あれ? あなた冒険者じゃないの?」


「うん」


「そっかそっか、じゃあ説明してあげるね! 今回の調査は約一か月前にあった巨大な魔力反応の原因を調べること。知らないかもしれないけど、この森で異常な魔力値が約一か月前に観測されたんだよ! 一瞬だけどね。一か月前の、それも一瞬だけのものなんて原因分からないと思うんだけど、ギルマスが調べろ調べろってうるさくてさぁ。だから仕方なく……ねぇ聞いてる?」


「ぐぅ」


 情報過多で頭がパンクしてきた僕は、早々に寝てしまったのだった。

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