序章①
私、ナディアは第4王女で、エルディン王家の末の王女だったけど、正妃の子ではなく庶子のため離れで暮らしていた。
生まれは貧民街、4歳の頃に王宮に連れてこられた。
王族の特徴である小指の3重リング痣が現れ、実は父親が国王であったことが判明した。
でも、王宮に連れてこられたけど私は両親や兄妹とはほとんど会ったことがない。
なんでも、王妃様が王様の特徴をそっくりそのまま受け継いだ私のことを毛嫌いしているらしい。
王妃様の産んだ3人の兄妹は、全員王様と王妃様の特徴を満遍なく受け継いだからだって。
「ナディア様、お食事のお時間です。」
「わかった!」
食堂に行くと、みんな集まってたみたい。
離れで働いている使用人はメイドが5人、召使いが5人、料理人が2人。
そこまで多くないし、何より私が1人でご飯を食べたくないからと駄々を捏ねてみんなに一緒にたべてもらってるの。
「ナディア様、ナディア様がこの前おっしゃっていたモンブランが完成したのじゃが、この後味見していただけないかのう?」
「まあ、完成したのね!楽しみにしてるわ。」
「残ったクリームを少し食べたんですけど、すごく美味しかったですよ!さすがナディア様ですね。東洋の栗に目をつけられるなんて。」
今日は、この前料理人のおじいちゃんに言ったモンブランがついにできた。
モンブラン…この国ではフルーツクリームを使うのが普通で、栗は使わない。
それが普通なんだけど、私は何故か、モンブランって言ったら栗でしょ!と思っていた。
執事に無茶を言って東洋の国カランベルから大量の栗を輸入してもらったの。
そして、ご飯を食べ終わった後厨房に行くと、想像通りのモンブランがそこにあった。
「いただきま〜す。」
フォークでクリームを少しすくって口の中に入れる。
途端に栗の味が広がった。
ん〜、懐かしい味って感じ!食べたことないけど!
「なんというか、ナディア様ってすごい才能をお持ちですよね。我々が考えつかないようなスイーツを考案されるんですから。」
「えへへ、将来ケーキ屋さんとかできたらいいなぁ。」
こういったふうに、私たちの…ダリア宮の一日は和やかに過ぎていった。
◇
ナディアたちがモンブランに舌鼓を打っている頃。
「いやはや、ようこそ皆さま。数日間の滞在の間、ごゆっくりしていってください。」
「ありがとうございます。同盟の件も快く引き受けてくださり、感謝しております。」
本宮殿ではまさにカランベル王家が同盟締結のためやってきており、ちょうど食事会を始めたところだった。
「そういえば、ナディア王女はいらっしゃらないのですか?」
「な、ナディアですか?」
「ええ、我が国の最高級ブランド栗と、伝統工芸品である簪を大量に購入されたんですよ。」
カランベル国王…二ケルがそう言ってニコニコ笑っているが、反対にエルディン王家の人間は固まっていた。
庶子のため別宮殿に住まわせているなど、王女を1人差別しているようなものであるからだ。
王妃であるオリーヴは自分の娘が話題に上がらないからか、悔しそうな顔をしている。
カランベルはエルディンと同じくらいの大きさの国だが、国力としては圧倒的にカランベルの方が上だった。
オリーヴとしては自分が産んだ双子、リューナとルージーのどちらかを嫁がせたいらしい。
「体調がすぐれないのでしょうか?残念です。実はうちの息子がナディア王女に興味を持っていまして、今回の訪問で会いたいと言っているんですよ。」
「…ナディアは体調不良のためダリア宮で休養させております。カランベル王家の皆様に移してはいけませんから。」
「そうですか。では、また日をあらためてお伺いしようかなと。」
結局、少しピリピリした空気のまま食事会はお開きになった。