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10話 はいぱーいけめん

 主殿に到着したソフィアは王の間で待機させられた。

 緊張はするが、期待はしていない。ケツ顎オヤジとの馬車の旅が楽しかったので、次が落ちるのはわかっている。ソフィアは冷めた気持ちでケツ顎ジモンと共に、白髪ゴリラを待った。法事ファッションの自分の結婚相手だし、人並み以下であるのは間違いないだろう。


 だから、輝く銀髪をなびかせ、モデル体型の彼が入ってきた時は腰を抜かしそうになった。こんなの騙し討ちである。


(え、なに? ハリウッドスター!? 白髪ゴリラはっっ!?)


 そのレッドカーペットを歩いていそうな人が王子様スタイルのジュストコールに身を包み、目の前に立ったものだからソフィアは泡食った。白髪ゴリラとは大嘘ではないか! この人に比べたら、元婚約者のエドアルドなんか一般人のチャラ男だ。

 白髪→銀髪。ゴリラ→長身モデル体型。筋肉質。


「リヒャルト・ヴィルヘルム・フォン・ラングルトだ。お待ちしていたよ、ソフィア姫」


(なに? このずっと聴いていたいちょっと掠れた低音は……声までイケメンなの!)


 すっかり動揺してしまったソフィアは挨拶も忘れ、その場に立ち尽くしてしまった。しかも、規格外のイケメンはこちらを凝視してくる。これもまた、綺麗な切れ長、高い鼻の完璧な黄金比率。蛇ににらまれた蛙……いや、ハイパーイケメンににらまれたソフィアは固まった。陰キャ女子はイケメンににらまれると石化する。


「ソフィア姫? どうされた?」

「……ハッ……し、失礼いたしましたっっ!! わ、わたくし、グーリンガム王国のソフィアと申しますっっ!! 以後、お見知りおきをっっ!!」


 極度の緊張と混乱状態にあるソフィアはこんな意味不明な自己紹介をしてしまった──以後、お見知りおきを……ってなに? 戦国武将に初めて謁見した有能軍師ですか?──ソフィアが一人でノリツッコミしつつ、王弟リヒャルトを見ると、案の定ポカンとしていた。


「すっすみませんっっ!! わたくし、このような場が初めてなものですからっ! ご不快でしたら、どうぞ邪魔な壁掛けとでも思っていただいて結構です。なるべく隅っこで、お目汚ししないようにいたしますので!!」

「なんてことを言うんだ、君は?」


 ポカンとしていたリヒャルトが怒を発したので、ソフィアは「やってしまった」と思った。


「失礼いたしました……ご無礼を……」

「無礼なものか。ソフィア……手を出して」


 表情が和らいだと思ったら、リヒャルトは長い睫毛を伏せ、ひざまずいた。睫毛まで銀色だ。まさか、手にキスをされるとは……銀色の瞳に吸い込まれる。まんま、映画のワンシーンである。


「よく、我がリエーヴ王国に来てくれた。歓迎するよ、美しき花嫁」


(美しき……今、美しきって言った!?)


「あいにく国王陛下……私の兄だが、病床に伏していてね、これから共に挨拶へ行こう」


 立ち上がったリヒャルトが当たり前のように肘を突き出し、横に並んだのでソフィアはまたも混乱した。これはたぶん、エスコートしますよ、という合図なのだろうが、父王ですらソフィアと腕を組んで歩いてくれたことはあまりない。いつも同伴させていたのは、母か妹のルシアだ。ましてや、元婚約者のエドアルド……別名レイパーと腕を組んだことは一度だってない。ソフィアはリヒャルトのたくましい腕に、自分の腕を絡ませることができなかった。


「そうか……私は敵国の王弟。腕も組んではくれないというわけだな……嫌われたものだ」

「い、いえっ……そういうわけでは……」


 冷たい横顔のリヒャルトはあからさまに落胆していた。なにか失礼な態度を取ってしまったかと、ソフィアはビクビクする。その後、リヒャルトの態度はよそよそしくなり、ソフィアは無言で長い回廊を歩いた。



 王の寝室に着くまで、リヒャルトはジモンと話した。ジモンは騎士団長を務めており、じつは国防において重要な役割を担っているらしい。脳内とはいえケツ顎呼ばわりし、気軽に話していい相手でもなかった。こんなわたくしの護衛役をさせてしまってごめんなさいと、ソフィアは心のなかでひたすら謝った。


 寝室の前でジモンとは別れ、ソフィアはリヒャルトと入室する。

 

 白髪ゴリラことリヒャルトが銀髪ハイパーイケメンだったせいで、偉い人と謁見する心積もりができていなかった。ソフィアの頭の中では白髪ゴリラ、ハイパーイケメン、ケツ顎、騎士団長のワードがグルグル回っており、混乱していたのだ。下手したら、王の前でNGワードを言ってしまう可能性もあった。


 まさか、病状がそこまで悪いとは思いもしなかったのである。想像もしてなかった王の姿にソフィアは息を呑んだ。

 弱弱しい金髪は半分くらい抜け落ち、白く乾燥した皮膚は老人に見える。くぼんだ目に白濁した瞳。長く伸びたヒゲがなんとも頼りなかった。起き上がることすらできない国王は、ソフィアの祖父母世代といっても過言ではないぐらい弱っていたのだ。リヒャルトと兄弟にはとても見えない。


 謁見はすぐに終わってしまった。簡単な挨拶と「嫁に来てくれてありがとう」「そなたのおかげで戦争を中断することができた」と伝えられただけである。やはり、停戦の条件にソフィアの輿入れが含まれていたようだ。父の勝手な行動には今さら腹も立たなかった。

 ソフィアは国王の冷たい手を握り、闘病中に謁見を許してくれたこと、グーリンガムまで迎えを寄越してくれたこと、こんな自分を嫁に迎え入れてくれたことに感謝の言葉を述べた。

 国王は優しく微笑み、弱い力で手を握り返してくる。別れ際に「弟を……リヒャルトを頼む」と言われても、ソフィアはなんて返したらいいかわからなかった。


 部屋を出て回廊を歩きながら、リヒャルトは状況を説明してくれた。

 まずリヒャルトは先王が崩御の直前に生まれた子である。現国王とは二十も年齢差があった。今の王とは兄弟というより、親子のような関係性だったらしい。リヒャルトの年齢は二十五歳。夫になる人の年齢ぐらいは聞いておくべきだと思い、ソフィアは思いきって聞き出した。


 現在、王の代わりに公務をこなし、政治的な役割を果たしているのはリヒャルトと宰相のセルペンスという男だという。

 この様子だと王は長く持つまい。王には子供も、リヒャルトの他に兄弟もいない……ということは王が亡くなったあと、リヒャルトが王になり、ソフィアは王妃になる。この事実にソフィアは愕然とした。

 ハイパーイケメンの嫁というだけでハードル高いのに、王妃とかムリである。

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