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夢追いB4ケント  作者: 檜尾眞司
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夢への最終章

夢に終わりは無いが、物語は終わりを迎える。

夢に向かってひた走る日野賢人(ひのけんと)、果たしてその結末は……



 季節は梅雨時期になり、篠崎プロダクションの窓に雨が打ち付けるほどの大荒れの天候になっていた。

 これから起こる出来事の前触れのようだ。


 日野が篠崎プロダクションに入って8年が経っていた。


 突然、篠崎が漫画を休載すると言いだした。


 腱鞘炎の悪化であった。長年やってきたが年齢の衰えと共に腕が動かなくなってきたと言う。まだ、引退は考えてはいないが、当分休むことにするとの説明であった。

「いやー申し訳ないが、すまない」篠崎は頭を下げていた。

 篠崎の表情は本当に悔しそうであった。

 こればかりは、どうする事もできなかった。

 現在の連載は週刊誌が1本まで減っていたので、彼らの間では何か嫌な予感がしていたのは確かであった。しかし、直ぐに次があるだろうと言う多少の楽観的な願いもあったのは確かだ。

 彼らは受け入れるしか無かった。


 その日の帰り道、日野と水田は京橋の居酒屋へと向かった。

「水さん気がついてた?」日野がビールを飲みながら尋ねた。

「いや、でもなんかおかしいとは思ってたな〜連載が次々に終わったやろ、無理やり話しが終わった感じしたから……」

「たしかに!」

「ヒノさんどうすんの?」

 水田もビールをクビっと飲みなから尋ねた。

「どうしよう、心の準備が出来てないし」

 確かに仕事が無くなるのは辛いのだが、この世界は次に何とかなる職種でもなく、本来なら今までに何とか独立しなければいけなかった。

「ヒノさんだけやでな〜、正規で篠崎プロダクションに入ってきたの!」

「どういうこと?」

「尾崎さんや江山さんも俺も大阪総合の先生のツテやねん!」

 日野は納得顔をした。

「そうか、雑誌の応募で来たのって……」

「ヒノさんだけや!」

 水田は運ばれてきたビールを日野の前に、もう一つを自分の前に置いた。

「ヒノさんは凄いよ、ホンマに夢に向かってるもんなービットコミックの最終選考に残るし、ちゃんと作品描き上げてるもんな〜」

「賞は取れんかったけど!」

「いやいや、俺なんか仕事としてやってるからレベルがちゃうわ〜」

二人とも少し酔いがまって(いやいや、ちゃうちゃう)繰り返している。

「そやけど俺な、水さんに貰った音楽テープ電車で毎日聴きながらいってるんよ、めちゃくちゃ感動したんよ聴いたとき、音楽できたらいいのになー」

 水田は恥ずかしそうにしていた。


 最後は二人共ベロベロで電車に乗り込んで帰っていった。

 

 最後の連載が10月に仕上がり、ラストを迎えた。

 最後の給料は、退職金も支給され

「復帰後には必ず呼ぶので……」

 篠崎とおるは無念の表情を浮かべていた。


 あっさりとした最後を迎えた。

 全員で再会を誓って、送別会をしないと決めて解散となった。


 後日、水田は専門学校からのオファーで講師をやる事が決まった。漫画専門のコースが増設される為の一員として就職がきまった。

 水田にとっては漫画家にあまり固辞していなかったのが幸いしたようである。

 江山はまだ、進路はきまらず。

 日野も何も決まってはいないが漫画に専念してみる事にした。

 前岡は兄の手伝いをしながら漫画家を目指して行くようだ。


 それぞれが篠崎プロダクションの終焉を迎えた。



〜エピローグ〜


 日野は篠崎プロダクションを退社後結婚をし他の仕事に付いていた。

 退職から2年が経ったある日、買い物から帰ってリビングに入った瞬間ある光にマユさんが気づいた。


 マユさんは日野の奥さんの愛称である。


「あっ、留守電入ってる」そう留守電ランプが光っていたのだ。マユさんは買い物袋をテーブルに置くと再生ボタンをおした。

 俺は健太の靴を脱がしてリビングに入れた。

 健太は長男である、いわゆるデキ婚である。

 そしてもう一人3ヶ月の娘もいる。

「なんか留守電にはいってるんだけど」

 何やら嬉しそうなそうな笑顔でマユさんがもう一度再生ボタンを押した。

「日野さんのお宅でしょうか、わたくし○○社モー○ング編集部矢野ともうします。先ごろ送っていただきました漫画が賞に入りましたのでお知らせいたします。詳しくは後ほどご連絡いたします取り敢えずは第一報という事で、それでは失礼致します」


「……!」


「えっーーーーーーーーっ!!!」

 マユさんと賢人は同時に顔をお互いに向けた。

「凄い、凄い」マユさんは眉がいつもよりビクッとしている、やはり舞い上がっているのだ。

 健太は不思議そうにその光景を見ていた。

 果穂はベビーカーで眠ったまま玄関にそのまま置いたままだ。

「うおー、やったー」

 日野は叫んでいた。

 日野がビットコミックの最終選考に残ってから、10年が経っていた。

 その間に月例賞の奨励賞を一度とり最終選考に一度入ってはいたが今回の較べものにならない大きな賞で、大賞にはならなかったものの佳作に入っていた。東京で授賞式も行われるのである。

 日野賢人が漫画家の入り口に立った瞬間であった。

 この時彼は年齢は30歳になっていた。



 物語の終盤、日野賢人(ひのけんと)は漫画になり一流作家まで駆け上り作品は絶賛された……!

 ……と行きたいが、現実はそうでは無い。


 彼は漫画家には成れなかった。


 そんな彼は不幸かというとそんな事は無い。

 篠崎プロダクションでの経験を通して、一度はプロの世界に入れた事は彼の人生には大きな糧となっている。

 しかし、悔しさはめちゃくちゃある。

 泣きたいほど悔しいはずだ!


 現状は違う仕事をしながら、今も漫画を描きネットなどに投稿もしている。一度その世界に入ると辞められないのだろう。


 篠崎プロダクションのメンバーの後日談はいろいろと耳に入ってきていた。

 

 尾崎元チーフは細々と依頼を受けイラストや漫画を描いているようである。篠崎先生からも単発ではあるが仕事をしている。


 江山チーフは作品が賞を取り連載に向けて担当者と打ち合わせをしてると篠崎先生に連絡があった。

 しかしその後、連絡が途絶え音信不通になったと後日聞かされた。

 いったい何があったかは今だにわから無い。


 水田は専門学校の教師で楽しくやっていて、教え子を育てるのに情熱を注いでいる。


 前岡は兄の手伝いをして過ごしているそうだが、余り連絡が無いと篠崎先生は嘆いていた!


 その後、一時復帰した篠崎先生は引退宣言などはしてないが連載は無くなっていた。

 我々は呼ばれる事がなかったが……

 単発の読み切りはたまに見かける。

 その時は尾崎元チーフが作業協力しているのだ。

 単行本に関しては一時期リバイバルされる事が多くなったが、電子書籍が出るとそちらに移行されてスマホで見かける事の方が多くなった。


 日野と水田は毎年忘年会と称して年末に篠崎先生から連絡がはいる。

 何年前からだろうか、待ち合わせ場所が千日前のビックカメラの入り口と決められたのは。先生にとって行きやすい場所なのだろう!

 何年か前までは尾崎、江山も来てはいたが最後に残ったのが日野と水田である。




 そして年末……空はどんよりとした寒空となった。

 難波千日前のビックカメラは年末セールで賑わいをみせていた。

 そんな中、篠崎とおるを待つ二人の姿が人混みに紛れ込んでいく。

 消える泡ように……

                  おわり





最終話です。

ありがとうございました。

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