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夢追いB4ケント  作者: 檜尾眞司
5/7

夢への4、5、6歩

仕事にも慣れた日野。

そんななか、新たな現実を目の当たりにする。

日野と水田は実感する、現実は本当に厳しいと……


 初冬になり日野が篠崎プロダクションに入ってから6回目の冬を迎えた。


 日野も仕事にも慣れ、家でも漫画を執筆する余裕ができていた。完成すれば篠崎先生にアドバイスをもらい漫画賞に投稿する予定だ。

 そんなある日……


「尾崎、今日ってスケジュールは詰まってないか!」「昼に水さんとヒノさんをお昼食べに連れて行きたいんやけど」篠崎が突然言いだした。

「良いですよ余裕があるので大丈夫です」

 尾崎は原稿を確認しながら答えた。

 日野は突然なんだろうと思った。

 まさか才能ないから……日野は変なことを考えてしまった。

「それじゃあ、水さんヒノさん行こか!」

「尾崎いつもの茶店におるからなんかあったら店に電話して」「わかりました」

 まあ良くあることなのかも知れない。


 商店街の真ん中辺りにある喫茶ピンキー。篠崎の行きつけで直ぐにマスターが反応し、水を運んできた。


「先生いらっしゃい」

「定食三つ、2人にはご飯大盛りにしてやって」

「はい定食三つですね」

 奥のテーブルの窓際が定位置のようだ。

 

 定食が運ばれてきた。焼き魚定食で喫茶店の定食にしてはかなり鯖が大きく、脂が乗って本格的である。

「ここのマスターもともとホテルの料理長やったらしく、独立するときなんでか喫茶店をはじめたんよ」「なあーマスター」

「コーヒーが大好きで…」なんか照れている。

「照れんでええがな、べつに褒めてへんでー!」

 また、マスターは照れ笑いをしていた。



 定食を食べ終わるとコーヒーが運ばれてきた。定食の鯖に比べるとコーヒーは普通だ。

「水さんとヒノさんに相談なんやけど!」

 篠崎が思わぬ事を言い出した。下っ端の我々に先生が相談って?

「尾崎がな、独立したいって言うてるんよ」

「……?」

「なんか仕事の依頼が2、3来てる見たいで、事務所も奥さんと相談して見つけてるみたいなんよ」

「まあ、独立はええんやけど尾崎も30歳回ってかなり焦ってるようで」

「先生、我々が偉そうに言えませんが仕事の依頼きてるんでしたらええんと違いますか、まあチーフがぬけたら不安だとは思いますが」水田が言った。

「凄いじゃあないですか仕事の依頼って」

 日野は羨ましいと思った。

「ちゃうねんなー、まあ大手のの出版社やったらええんよあいつ絶対に言わんねんけど……」篠崎は、何故か戸惑っていた。

「あいつの言うてる出版社を編集の皆んなに聞いてみたんよ、そしたらそこって自費出版をメインでやってる会社らしいんよ」

「……」

「尾崎は違うって言うんやけど!」

「まあ自費出版から売れた作家もいっぱいおるのはおるんやけど……!」

「もし自費出版やったら2百万円ぐらい掛かるそうや」

 そんな世界があるのだと日野は初めて知った。

「水さんとヒノさんは尾崎の漫画見たことあるか」

「ええ、何作かは」水田は日野の方を向きながら答え、日野も頷いた。

「売れると思うか?」

 水田と日野は返事に困った。

「わしがこんなん言うたらあかんのやろけど、無理やで!」「10年見てきたけど、あいつの絵柄時代におうてへんやろ!」

「どうやっても人物がメインのキャラクターにならへんのよその他大勢なんよな、物語もありきたりで飛び抜けてへんし!」

 日野は確かに尾崎チーフの絵は丁寧で綺麗だとは思うが失礼だとは思うが魅力があるかといえばそうでも無い、自分自身が欲しい漫画かと言われれば買わないと思った。

 物語も扱う題材が確かに野球や将棋といった地味な物だった。

「あいつはわかってないんよいつも綺麗に綺麗に」絵を描こうとしている。違うんだなー漫画は毒を描かなけばいかんのよ、とくに劇画はあいつの絵には全く毒がない、ないのよ」

 終いにはあいつ呼ばわりになっている。

 先生はよほど尾崎が好きなんだと日野は思った。愛情があるるが故、残酷になるかも知れないと思っているのだと!


 尾崎チーフの題材は野球やり尽くされているし、将棋は見せ方がかなり難しいと思う。後に月下の棋士という漫画がでてくるがかなり絵に魅力があった。毒もあった。

「結構わしも出版社に紹介してるんやけどあんまりええ返事こんのよ」

「皮肉なことに英ちゃんの絵は出版社受けええんよ、そやけど英ちゃんは話しをよう作らんのよ」

 日野にとっては雲の上の様な2人の存在が、苦境に立たされてて居るとは改めて才能の世界、漫画界の厳しさを知った。

 我々下っ端に打ち明けるとは篠崎先生は相当悩んでいるのがわかった。

 我々に話しをし愚痴るとはよっぽど彼の将来を心配している。

 親の気持ち子知らずと良く言ったものだ。

「まあ尾崎を尊重して独立さすけど後はあいつしだいやからな」

「その時は水さんとヒノさんにはへんな苦労を掛けるかもしれんが」

 しかし尾崎チーフも江山さんもデビューは出来て雑誌にも載っていた。だが、連載作家となるにはかなり厳しいという事である。

 篠崎先生は偉大であると同時に漫画家になるには水田と日野にとっては気の遠くなる道のりであるのを感じていた。



 年が明け

 尾崎は篠崎プロダクションを去った。

 尾崎プロダクションを立ち上げ現在は製本に向けて執筆中である。依頼された題材が何かのハウツー本であるのはわかっているが、まだ詳細は分からない。

 篠崎とおるとしては不本意な送り出しであった。

 江山には前もって篠崎からは伝えあったらしく、その後江山がチーフとなった。

 そして、水田の後輩で大阪総合デザイン専門学校から前岡哲也という新人が入ってきた。

 前岡哲也のお兄さんは漫画家である。

 イラスト風の風刺漫画を描いて単行本も数冊出していた。まあそれだけでは食べて行けずある地方テレビのリポーターをやっている。

 そちらの方が需要がありそこそこ活躍をしている。

 前岡哲也は絵も上手く実力もあった。

 日野のレベルまで直ぐに追いつきそうな感じだ。

 


 だが2年後、前岡哲也が実力を発揮する前に篠崎プロダクションの前途に暗雲が立ち込めはじめていた。

 日野も水田もその事には気がついてはいない!



                   つづく


ありがとうございます。

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