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夢追いB4ケント  作者: 檜尾眞司
3/7

夢へ三歩進んで一歩下がる気分!

少し本筋から逸れるエピソード。

なかなか楽しい!

3

 漫画家、篠崎とおるは大の阪神ファンである。

夕方になると、応接室のテレビをつけて見ていることが多かった。

 関西ではサンテレビが甲子園球場の阪神戦を、試合開始から終了まで放送をしている。

 阪神が調子が良い時には、原稿がストップする事が多くなり、1985年の阪神優勝時には全く原稿が上がって来なかった。

 35年ぶりの優勝争いなので編集者に電話をし、2日待って貰ったそうだ。

 時に白熱すると、篠崎はビールを冷蔵庫から持ってきて振る舞う。江山はお酒を飲まないのでいつもジュースであるが……

 尾崎はお酒に強く平然としているが、水田と日野は余り普段から飲まないので直ぐに酔ってしまう。 特に日野は顔が真っ赤になる始末である。

 ビールが出るのは阪神が勝っていてる時で、篠崎の機嫌が良いときであった。

「今日の先生、機嫌がよかったな〜」

「まあ、久々に阪神打ったからな、毎年ビリで弱いもんな〜」帰りの近鉄電車の中の2人は、かなりの酔っぱらいに見えるが、2人とも350ミリのショート缶1本しか飲んでいない。

「阪神優勝したら偉い事になるな〜まあ、せえへんやろな〜しらんけど!」水田が言うと、日野も頷いた。水田も日野も篠崎の影響を受けて阪神のファンになっていた。尾崎チーフは表だっては言わないが巨人ファンである。


 ちなみにえーちゃんこと江山は野球には興味はないそうだ。典型的オタクで毎週日曜日には映画か京橋の電気街に出掛けるそうだ。

 このあいだの日曜日も朝早く、江山英一は大阪の難波にいたそうだ。

 江山の目的は土曜日に封切りとなった映画を観るためで、その日観るのは「ターミネーター2」だ。江山はわりと話題の映画を好んで観に行く。

 必ず一人なのだ。

 江山の特徴はこの頃流行した、オタクのタク八郎にも雰囲気はあるかも!

 当時のオタクは少し不気味な印象を持たれていた時代であり、2次元のなかで独特に生きている感じであった。


 まあ、鶴橋駅辺りで2人の酔いは冷めるのだが。酔いが回って調子が良くなると鶴橋駅で降りる。「ヒノさん鶴一行こか」「よし行こか」

 ひち輪で焼く焼肉屋である。店は煙で充満しその中で食べる焼肉は最高であった。

 ただし、帰りは服に匂いがベッタリで帰りの電車で後悔する事になるのだが。


 篠崎は時々、日曜日に日野と水田を誘って阪急宝塚線の仁川駅へ連れだす事がある。

 関西の人ならピンとくるかも知れない。

 仁川駅といえば阪神競馬場である。

 篠崎は大の競馬好きでもあった。

 ちなみに、江山さんは誘っても絶対に来ないそうだ。ギャンブルは嫌いらしい。

 八尾からであれば、京橋駅から淀の京都競馬場の方が近いのだが、やはり阪神という事もあり阪神競馬場へ好んで行っていた。

 ただし、仁川駅は阪急沿線なのだが、そこは良しとする様だ。

 篠崎には、日野と水田がまだまだ経験が足りず、どうしても籠もりがちになる若者を連れ出し聞見を広めさせたいとの意味合いもあるようだというが、競馬場に着いた篠崎はだだの競馬好きのオヤジにしかみえなかったのだ。

 篠崎はいつも2階席に行く。

 ただし2階席は並ばなけば入れ無い為、いつも集合スタートは朝7時からになる。

 1階の一般入場は入場料は100円だが、2階は席に座れ窓口も多く、ガラス張りで寒さ暑さも関係無く見られる。入場料は2,000円と決して安くは無かった。まあ、篠崎が昼食込みで出してはくれるのだが、勝負金は自前であった。

 1レース100円から買えるのだが、いやいやそれで済むはずは無い。

「今日の5レース、あそこできてたらな〜」

 篠崎は勝っても負けても11レースのメインが終わると止める、最終12レースまでやると電車が混むから嫌でそこで止める。そこは潔良い。

 まあ、結果は……良くある展開にしかならないのが常である。

 そのまま、3人ミナミの[がんこ]に行き一杯引っかけてから帰宅する。それが、競馬パターンであった。

 後に、篠崎とおるは漫画誌に競馬にちなんだ漫画を連載するのだが、イメージしやすく絵を描きやすく経験値が役に立った気がした日野と水田であった。

 

4

 日野賢人が篠崎プロダクションに入って1年あまりが経った。

 秋が深まった頃に恒例の行事がある。

「慰安旅行!」日野は洗い物の手を止めた。

「そう、毎年恒例らしい」水田は夕方の清掃で掃除機をやりながら日野に伝えた。

 徐にに掃除機を止めて、日野の方へ向き直した。「今年は天橋立へ行くらしい」

「京都の日本海側だよね」「そう、毎年東京から編集者が何人がくるのだけど、今年は原作者もくるんやて」

「えっ、原作者って先生の漫画、原作ついてたっけ?」

「今は付いて無いけど、前回連載していた原作者だそうで、なかなか忙しい方なのでやっと時間がとれたらしい」

「ヘェ〜、いろいろ大変やな」日野は洗い物を片付け、辺りを拭きながら言った。

「毎年、先生が段取りしてるんやて」

「先生の立場でも、いろいろ苦労があるんやな!」


 慰安旅行当日は快晴であった。

 

 東京からの客人とは、新大阪で待ち合わせた。新大阪からは、福知山線の特急こうのとり5号に乗り福知山駅へ、そこから京都丹後鉄道宮福線特急はしたて3号で天橋立駅への旅となる。

 新大阪駅の新幹線改札で3人の客人が降りてきた。

 S社の編集担当者と原作者TNさん、T社の後藤さん。後藤さんは長年の間篠崎先生と仕事をしてきた間柄で毎年慰安旅行に参加する常連である。

 S社の担当は今年から担当となり、原作者の接待役の感じであった。

 気を遣っている感は否め無い。

 大変そうだ!

 大阪からはもう一人、篠崎先生の同郷の江川さんで水田の専門学校の校長をされている。水田はこの方の紹介によってプロダクションに入った。


 旅行は定番どおり天の橋立でかわら投げと股覗きなど一通り観光をしホテルでは宴会が始まる。

 この時代の慰安旅行って感じである。

 下っ端はお客さんにビールやお酒を注文したり、お酌をしたりで忙しくやっと食べたと思うとカラオケのセッティングなど大慌てだった。

 その後、アシスタントスタッフはホテルの大部屋で雑魚寝となる。ここで始まるのがトランプのカブをやり始め、ある程度やると疲れて眠ってしまう感じだった。

 慰安旅行も後には、縮小されアシスタントと篠崎先生とで行くことが多くなるが、そちらの方が断然楽しかった気がする。

 慰安旅行後は旅行先が舞台となる作品が上がってくる。取材は充分のため背景や体験がいかされ描きやすくなる、これは篠崎プロダクションのあるあるであった。

 

ありがとうございます

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