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 古びたビルの三階、そこはある雑誌の出版社オフィスである。その雑誌と言うのは『月刊アトランテ』、UFOや宇宙人などから秘密組織、オーパーツ、怪奇現象、都市伝説、その他超常現象やオカルトじみたことなら何でもありの趣味雑誌である。もっとも、他の似た雑誌に比べると売り上げは低く、かなり厳しい状態に追いやられているのは間違いない。狭いオフィス内を十人ほどの社員たちが忙し気に歩き回っていた。

 そのうちの一人、女性社員の新巻由利は、編集長のデスクに詰め寄り、憤懣やるかたない様子でいた。

「編集長!少しお話があるのですが」

 タバコを吸いながら電話をしている編集長は、その痩せ型の体型にアンバランスな大きな目で一瞬新巻の方を見たが、すぐに目線を外し、電話を続ける。新巻は頭に来たのか、その怒りをデスクをバンと叩くことで表した。

「編集長!」

 それを受けると面倒くさそうな顔をして、一度受話器の送話部を肩に当てると、

「少し待ってろ」

と小声で言った。

 新巻は不満そうに口をぎゅっと堅く閉じ、待つことにした。他の社員たちは書類だのをもって走り回っている。忙しそうには見えるものの、あまりにも過剰すぎる気がして、果たしてこの人たちは真面目に働いているのだろうかと不安に思った。

 編集長はお礼の言葉のようなものを言いながら、やっと電話を終えた。ゆっくりと受話器を降ろすと同時に新巻が口を開いて大きな声を出す。

「編集長!どうして私が怪奇小説コーナーの編集者なんですか?私は自分の足で見つけたものを自分自身の手で記事にしたいんです、小説家の顔色伺いながら締め切りを守らせるよう工夫したりだとか、そんなことしたくてここに入ったんじゃないんですよ!そりゃあ、私はこの中で一番年下ですけどね、だからと言ってみんなが嫌がることを押し付けるってのは違うくないですか?」

 編集長は両手を前後に振りながら鬱陶しそうな顔をする。

「仕方ないだろ、灰田君が辞めてしまったんだから、他の誰かを回さなきゃいけないんだ。お前はまだ経験も浅いし…」

「だからこそ現場で経験を積むべきです!のうのうと小説家の相手なんてしてる暇ないですよ、そういうのは加山さんにでもやらせればいいじゃないですか!」

 コピー機を操っていたところに突然自分の名前を出された加山は、何事かと新巻の方を振り向いた。食生活の乱れと運動不足の権化かと思われるほどの明らかな肥満体型である。編集長はちらとそんな加山を見てから、また新巻の方を見た。

「…新巻、聞いてくれ。この金比羅田先生の怪奇小説『麻酔男爵シリーズ』はうちの雑誌の人気コーナーなんだ。これを読むためだけに買ってる読者もいる。だからこれは他のどのコーナーよりも大事なんだよ。それをお前に…」

「そんなに大事ならもっと実績のある先輩方にやらせればいいじゃないですか!」

「…いや、そのな」

 新巻は腰に手を当てると、はあと大きなため息をついた。

「私知ってますよ、みんながやりたがらないのは肝心の金比羅田先生のせいだって。詳しくはないですが変人らしいですね、一緒にいるとストレスで押しつぶされるとか。どこまで本当か分からないですけど」

 社長は肩をすくめてみせる。

「…まあ、悪い人ではないんだが、ね…今までは灰田君だからやれてたようなものだが、なんせあんなことになってしまったから…それでここだけの話なんだが」

 耳を寄せるように編集長に合図された新巻はそれに従い、身を傾けて耳を出す。

「…金比羅田先生の方も灰田君でなければやりたくないと言っててだね…」

「何ですかそれ!わがままな人!」

「いやいや、こっちだって先生のおかげでいくらか儲けさせてもらってるわけだから」

「…まあ、そうですけども」

「とにもかくにも、このままでは金比羅田先生が他の雑誌に引き抜かれてしまうかもしれない。そうなればうちは廃刊まっしぐらだ。それを救う、まさしく救世主、メシアとしての役割を君に頼んでいるんだよ」

「メシア…」

「それに君が心配してる現場調査の方だが、そこは安心したまえ。先生はネタ探しのためにいろんなところに赴くらしいからね、それに着いていきゃいいだろう。きっと君の今後のためにもなる。だから、ね、頼むよ」

 それでも新巻は渋っていたが、ここで断ると本当に会社自体が潰れかねないと判断し、結局は引き受けることにした。

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