第一話 金比羅田登場! 1
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ある昼下がり、日差しは強いというほどでもないが、適度に降り注いでいる。都内のとある団地、青、ベージュ、黄、茶、水色…それぞれ様々な色をした家々が立ち並ぶ中で、その白い家があった。幅の狭い川沿いに建ち、その向こうでは土の盛り上がった空き地がある。そしてその上には高架橋が通っていて、世話しなく新幹線が走り続けていた。
学校帰りと思われるランドセルを背負った五人の小学生たちが家の前を歩いている。そのうちの一人の少女が他の子供達に別れの挨拶をして、白い家に入ろうとした。それを一人の女が止める。
「あら、おかえりなさい」
どうやら母親のようだ。庭で洗濯物を取り込んでいる最中である。真っ白なシーツはまだ竿に広々とかかっている。
「ただいま、お母さん」
少女はそのまま家の中に入らず、母親のもとに駆け寄って抱き着いた。
「こらこら、洗濯物汚れちゃうから気を付けて」
「酷い!私そんなに汚くないわ」
「そうじゃなくて、あなたが私に飛びついた拍子に洗濯物落としちゃいそうになるの。冷蔵庫にケーキ入ってるから、食べていいわよ」
「ケーキ!やったあ!」
少女は母のもとを離れて玄関へと走り出した。
「ちゃんと手を洗うのよ!」
「分かってる!」
玄関の扉に手をかけ、勢いよく開けた。そのまま家の中に入るかと思われたが、突如彼女は動きを止め、顔を母の方に向けた。
「…?どうかしたの?」
母は不思議そうに問いかける。すると少女は静かに声を出した。
「いや…えっと…今、うちの中ってお客様いる?」
その言葉の意味するところがよく分からなかったのか、母親は神妙な顔つきになった。
「どういうこと?お客様なんていないけど…」
「いや…さっき二階の窓に知らない女の人がいるのが外から見えたんだけど…てっきりお客様かと思ってたから玄関にその人の靴がないの変だなあって思って…」
高架橋の上を走る新幹線の音が鳴り響いた。