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第四章 ~『乗り込んできた将軍』~

サーシャ視点です

 イリアス家の屋敷では優雅な朝の時間が流れていた。サーシャは窓の外に広がる薔薇を愛でながら、紅茶を楽しんでいる。


「今日の紅茶は美味しいですね」

「ローズティでございます」

「道理で良い香りがしたわけですね」


 使用人に礼を伝えて、飲み終えたカップを返す。傍にいたグランドに視線を移すと、彼はまだ紅茶に口をつけていなかった。


「お父様、とても美味しいですよ」

「あ、ああ。そうだな」


 うわの空でグランドは紅茶を啜る。だが虚ろな目は変わらない。大きな悩みを抱えている証拠だ。


「お父様、なにか悩みでもありますの?」

「たいした問題ではない。お前が気にするようなことでは――」


 そう言い終える前に、扉をドンドンと叩く音が鳴る。いったい何事かと思ったが、その無礼な客人に心当たりがあったのか、グランドは出迎える。


 扉を開けると、そこには強面の軍服姿の男が立っていた。グランドよりも二回り以上大きな屈強な肉体を前にして、彼の腰は恐怖でひけている。


「これは将軍。よくぞ遥々いらっしゃいました。応接室へ案内します」


 手を揉みながら、グランドは気を遣う。それも当然だ。彼はティアラの父親であり、公爵家の領主である。男爵とは比べ物にならない力を有している相手を前にして、遜ることしかできなかった。


「ふん、豚と面と向かって会話しろと?」

「あ、あの、どういう意味で……」

「男爵風情と対等な関係になるつもりはない。そうだな、この場で跪いて椅子になれ」

「――――ッ」


 グランドは屈辱で歯を食いしばる。彼も男爵としてのプライドがある。しかし格上が相手では逆らうことができなかった。


 命令通り、膝をついて、四つん這いになると、その背中に将軍は腰を下ろす。屈辱と重さで、彼の口から苦悶の声が漏れた。


「さて、私も忙しい。本題に入ろう。貴様の娘がティアラの顔に傷を付けた件、どうやって責任を取るつもりだ?」

「あ、あの、それは娘が勝手にやったことで……」

「子供の責任は親の責任! そのような言い逃れが通じると思っているのか⁉」

「ひぃ――ッ」


 グランドは謝罪を繰り返しながらも、屈辱に怨嗟を抱く。原因となったマリアに対しても怒りを湧き上がらせていた。


「娘の不始末は謝罪します。それにお望みであれば、娘の指の一本や二本、喜んでお渡ししましょう」

「貴様、本当に人の親か……」

「ははは、マリアは私にとって赤の他人同然。愛情は欠片もありませんから」

「なら、ますますその望みは聞けないな。なにせ私は貴様に責任を取らせたいのだからな」


 そもそもマリアは教会に保護されているため、いくら将軍とはいえ手出しすることはできない。娘の怪我を口実にグランドに要求を呑ませることこそ、彼の狙いであった。


「さて、責任の取り方だが、貴様の命はどうだ?」

「そ、それはどうかご勘弁を!」

「なら領地同士で戦争でもするか?」

「それも困ります。私では将軍に勝てるはずがありませんから!」


 男爵と公爵ではそもそも領地の経済力や軍事力に差がある上、指揮する人物は百戦錬磨の将軍だ。


 戦争に発展すれば万に一つも勝ちの目はない。


「なら要求を変えてやる。レイン王子から届いたマリアへの求婚。未練のないようにキッパリと断れ」

「そ、それは……」


 マリアが王宮に嫁ぐことで、グランドは権力を手に入れようとしていた。その千載一遇のチャンスを諦める決断は容易ではない。


「か、考えさせて頂きたい」

「どれほど待てばいい?」

「一か月あれば、必ず答えを出します」

「ふ、いいだろう。待ってやる。ただし一か月後、まだ答えがでないようなら戦争だと覚悟しておくんだな」


 将軍は哄笑しながら去っていく。グランドは追い詰められた窮地に頭を抱えるのだった。



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