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第四章 ~『迎えに来たリーシェラ』~


「は、早く治療を!」


 ティアラに駆け寄ると、顔に刻まれた爪痕に回復魔法をかける。治癒の力は細胞を活性化させ、傷口を埋めていく。


 出血は止まり、この調子ならすぐに完治するはず。そう願いながら、回復の光を放つが、ピタッと止まったように傷痕が残った。


「あれ、おかしいですわね……」


 どんな大怪我でも治せなかったことはない。きっと傷は癒えるはずだと信じて、何度も治療を繰り返す。しかし努力は実を結ばなかった。


「う、嘘ですわ! 私の回復魔法なら……」

「む、無理だ、マリア」

「ティアラ! 喋っては体力を消耗しますわ!」

「それよりも聞いてくれ。キャット種の爪には相手を回復させないための呪いの力が込められている。回復魔法では治療できないんだ」

「そんな……」


 絶望で顔が真っ青になる。シロが心配そうに頬を舐めて慰めてくれるが、後悔で涙まで滲んできた。


(シロ様は私を守ろうとしたんですもの。悪くありませんわ……すべて、私の責任ですわ)


 いくら敵意を感じたとはいえ、霧で視界が悪い状況だ。シロを傍から離すべきではなかった。


 後悔で身体を震わせていると、馬車の車輪の音が前方から響いてくる。やってきたのは、先ほど通り過ぎて行ったリーシェラの馬車だった。


「心配で戻ってきたけど、マズイことが起きたみたいね」

「ティアラが怪我をしましたの!」

「これは酷いわね。傷の原因はあなたの霊獣ね?」


 首を縦に振る。彼女も呪いの力を聖女では治せないと知っていたのか、事情を把握する。


「教会の医務室にティアラを運ぶわ。乗りなさい」

「恩に着ますわ」

「当たり前よ。これは貸しだから。必ず返しなさいよ」

「わ、分かりましたわ」


 ティアラを運び込み、馬車を医務室へと向かわせる。揺れる車内で、マリアは回復魔法をかけ続ける。効果がなくても希望に縋りたかったからだ。


「でも、あなたって最低ね。友人を襲うなんて」

「わ、私は……」

「あら、言い訳でもあるの?」

「…………」


 反論できる余地はない。霊獣を管理できなかったマリアの責任だ。しかしティアラは傷付いた身体を起こしてまで、彼女を庇ってくれる。


「マリアを虐めるのは止めてくれ」

「でもその傷、一生残るわよ。もう友人を止めたほうが良いんじゃないの?」

「こんなものは不慮の事故だ。私たちの友情は不滅だ。なぁ、マリア?」

「……っ……そ、そうですわね。私たちは一生の友達ですわ」


 責めようとしないティアラに対し、罪悪感で胸がいっぱいになる。


「ふーん、残念。あなたたち二人が仲違いすれば、私が大聖女になる可能性がグンと上がったのに」


 マリアとティアラは二人とも上位の成績を収めている。その二人が協力関係にあることにリーシェラは危機感を覚えていた。


 それ故の本音だったが、その言葉がマリアの頭に疑念を浮かばせる。


(まさかリーシェラの陰謀ということは……馬車で姿を現したのも偶然にしては都合がよすぎますわ)


 二人の仲を切り裂くための罠――例えば、ティアラを襲ったのが、本当はリーシェラの霊獣で、その罪をシロに擦り付けたのだとすれば筋は通る。


(いえいえ、これは失礼な仮説ですわね。証拠もありませんし、助けてもくれました。シロ様を疑いたくないから、別に原因を探してしまったのですわね)


 反省し、ゴクリと息を飲むとゆっくりと頭を下げる。


「あの、ごめんなさいですわ」

「なんのことよ」

「気にしないでくださいまし。ただ謝りたかっただけですわ」

「ふん、変な娘ね」


 リーシェラは納得できないまま謝罪を受け入れる。馬車はスピードを上げたのか、揺れはさらに大きくなるのだった。



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