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プロローグ ~『婚約はお断り』~

本作を読んでいただき、ありがとうございます!

10万文字用意してきましたので、キリのいいところで完結する予定です


「マリアよ。お前も今年で二十歳だ。過去のことは水に流し、そろそろ結婚してはくれんか?」

「ん? 嫌ですけど……」


 取り付く島もない反応に、父親のグランドはゲッソリとする。ソファに腰掛け、対峙する二人の間に親子の愛はない。それどころか縋る父親に対し、マリアの方は不機嫌を隠そうともしていなかった。


「虫が良すぎますわ。私にした仕打ちを忘れたのかしら?」

「わ、私は親として、食事と寝床を与えたではないか⁉」

「残飯と物置で恩を着せますか? ずうずうしいですね」

「ぐぅ……」


 言い含められたグランドが黙り込む。


 二人がここまで険悪な関係に発展したのは、幼少期の冷遇にあった。満足に食事を与えられず、使用人のように働かされ、罵声を浴びせられた。


 忘れたくても忘れられない。あの頃の悪夢が胃をキリキリと痛めつけた。


「私も本意ではなかったのだ。男爵家としての外聞を守るため、平民の血を引くマリアを娘として扱うことができなかったのだ」

「責任転嫁は止めてくださいまし。そもそもの原因は、あなたが侍女の母に手を出したことが始まりではありませんか! しかも母には婚約者がいたのに、無理矢理別れさせた。これで自分に非がないと主張するのは、面の皮が厚いのではなくて⁉」

「し、失敬な!」


 怒りを露わにするグランド。しかし恐ろしくはない。


 彼は背が高く、彫りの深い顔立ちをしており、墨で塗ったような黒髪と黒目は美しいとさえ感じさせたが、洋梨のように丸々と太った体型がすべてを台無しにしていたからだ。内面の醜さが外見にまで反映されているかのようである。


 一方、マリアは父親に似ても似つかない。黄金を溶かしたような金髪に、澄んだ青い瞳、白磁のような白い肌が合わさり、まるで人形のような容姿をしていた。


(母に似て、本当に良かったですわ)


 父親の面影を自分の顔から感じるようなことがあれば、鏡を見る度に不快になるところだ。


「さぁ、用件は済みましたわね。帰ってくださいまし」

「私は帰らん! 頼む、この通りだ。私のために結婚してくれ!」


 勢いよく、地面に這うと、頭を下げて土下座する。まるでこれが誠意だと言わんばかりだ。もちろん、応えてやるつもりはない。


「理解されていないようなので、はっきりと伝えますわね。縁談はお断りします!」

「そこを何とか。相手は王族なのだ。この縁談が破局すれば、我がイリアス男爵家は窮地に立たされる」

「それは朗報ですわね。あなたの破滅を肴に、葡萄酒でも楽しむとしましょう」

「――――ッ」


 煽り文句に耐えられなくなったのか、グランドは立ち上がり、眉尻を釣り上げる。


「下手に出ていれば調子に乗りおって! 娘は父親の命令を聞いておけばいいのだっ! もし聞かぬというのなら――」

「男爵風情が大聖女の私を脅すと? 良い度胸ですわね」

「うぐっ……お、脅してはおらん。頼んでおるだけだ」


 グランドがすぐに折れたのには理由がある。


 マリアの役職である大聖女は、教会の最高権力者の一人であり、その権威は王族さえも上回るからだ。


 だからこそマリアが本気で願えば、イリアス男爵家を取り潰しにすることも容易い。親子の力関係は逆転し、この場の主導権は彼女こそが握っていた。


「イリアス男爵家のため、そして妹のサーシャのため縁談を受けてはくれぬか?」

「これで三度目です。言葉で伝わらないなら、次は武力に頼りますわよ」


 マリアの掌に魔力の光球が輝く。放たれれば、人間を消し飛ばす上位の光魔法だ。グランドは退くしかないと、逃げるようにその場を立ち去る。


「サーシャのためね……」


 去っていく父親の後ろ姿を呆然と見つめるマリア。彼女は妹と過ごした過去の思い出を想起するのだった。


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