転生?
あたしが意識を取り戻した時。
っていうかあたしが気がついた時、そこは夢にも見たことのないようなふわふわのベッドの上で。
もぞもぞと起きあがろうとするけれどどうにも体の動かし方が今までと違って感じる。
っていうか何これ?
手足がちっちゃい?
ふわふわのぷにぷにんの手のひらを眺めていたらファさっと落ちる髪に気がつき。
エメラルドグリーンのその髪にもびっくりして。
あたし、じゃない。
この体あたしじゃないよ!
身体中を覆うふわふわなレース。
ふわふわな服。
お布団もふかふかでうまく起き上がれないでいたあたしはそのままゴロゴロと転がったと思ったらボスんとベッドから落ちた。
それでも落ちた先は真っ赤な毛足が長いふかふかの絨毯の上だった。
あまり痛くなくてよかったと思いながらもベッド伝いになんとか起き上がって立ち上がるあたし。
そこで改めて自分の身長が幼い子供サイズしかないことと、ここがとても人が住むところには見えないくらいな豪華な寝具や家具に囲まれたお屋敷の一角だということに気がついた。
っていうか、どういうこと?
あたしは、もしかして死んじゃって生まれ変わったの?
死んじゃった記憶はない。
忘れているのかもしれないけどあたしにはエグザ様のお屋敷を守り本を読んで過ごしていた記憶しかない。
っていうか今はいつ?
ここはどこ?
あたしはエグザ様との約束を守れなかったんだろうか……?
それだけが気がかりだった。
「お嬢様。そろそろお目覚めなさりました? それではお顔をすすぎましょうね」
正面にあった大きな扉がギイっと開き、黒いシックな装いに身を包んだ女性が部屋に入るなりそう言った。
ああ。お嬢様ってもしかしてあたしのこと?
前世ではそんな扱いされたことがなくてぴんとこなかったけれど、どうやらそのようだと思ったあたしは「おはようございます」ととにかく声をかけてみた。
「あらあらお嬢様、私たちみたいな下々のものにそんな丁寧な仰り方しなくてもいいんですよ? というかわたしが大奥様に怒られてしまいます。どうかいつものように、『おはようアン』とおっしゃってくださいませ」
そうにっこりと笑みをこぼしながらあたしのそばにきて身体を支え、慣れた様子でお顔を拭いてくれるアン。
くすぐったくて、でも、なんだかこの感覚には覚えがあって。
あたしはされるままに任せながらアンのお顔を覗き見た。
表情からしてあたしのことを好いてくれているのがわかる。
仕事というだけでは出せないその温かな感情が、あたしの心をほぐしていくのがわかった。
髪をとかされ気持ちが良くなるにるれ、あたしの中でもう一人のあたしが目覚める。
その瞬間。
あたしは理解したのだ。今のこの現状、全てを。
うん。冷静に考えてみよう。
この今のあたしはどうやらこのお屋敷のお嬢様で、名前はクラウディアっていうらしい。
「ディア、おはよう今日もかわいいね」
そういう目の前のこの男性はティベリウス兄様。
あたしと違って真っ青な海の色の髪色、オパールのような瞳。
まだ10歳にもなってないだろうにその振る舞いは大人顔負けの紳士だ。
「お兄様、おはようございます」
あたしはそう挨拶するといつもの席に腰掛ける。
真っ白なダイニングテーブルは綺麗に磨き上げられそこには健康に良さそうなお野菜と美味しそうなパン、そして銀色に光る磨き上げられたカトラリーが並んでいた。
あたしたちが腰掛けるとお父様お母様がゆったりとあらわれそれぞれの席に腰掛ける。
最後にあらわれたのはおばあさま。
お父様のお母様で、この家で一番威張っている人。
「おはよう。みな揃ったね。今日の1日の始まりを神に感謝してこの朝食を頂こう」
「いただきます」
お父様の声が合図となりまずスープのお皿が運ばれてきた。
美味しそうな匂いのスープを頂いていると給餌をしてくれているアンがあたしの分のお野菜とパンをお皿に取り分けてくれる。
ふわふわな白パンは、パクっとかぶりつくと口に中で溶けていく。
「はしたないよ。ディア」
そうお兄様が注意してくれた。
パクっとかぶりつくなんていつもだったらしないのに。
これ、あたしの影響だろうか?
あたし、カペラの記憶がついついそうさせてしまったのか。
パンはどんなに柔らかくとも少しずつ手でちぎって切り分け頂く。やっぱりそうでないとはしたないのか。そうか。それがこの世界のあたしの身分なのか。
そんなことを漠然と思い。
スープが終わったら次のお皿が目の前に置かれた。
お肉? それともお魚?
ちょっとよくわからない塊。
ナイフとフォークを上手に使い切り分け口に入れる。
うん、美味しい。
上にかかっているソースも美味しいけれど、このお肉そのものも美味しい。
っていうかお肉そのものそのままじゃない。
お魚でもない。
これは一度全てをすり潰し固めたような? つるんとした舌触りがなんとも言えない美味しさを醸し出しているけれど結局これが何なのかはあたしにはわからなかった。
最後のお皿は冷たいミルクの味のお菓子。
ぷるんとした舌触りでお口の中でとろけるようで、そして甘い。
この子クラウディアが日常的に食べている朝食がこれだって事はわかる。
これは本当にいつもの朝の風景で。
何もおかしくはないのだけれど。
あたしは。
何かわからないけれどやるせない、そんな気持ちを感じていた。