レキシーという少年。
あれはあたしがクロコを探しにもとのあばらやに行った時の事だった。
にゃぁ。
と顔を出したクロコのそばに見知らぬ男の子がいたのだ。
まだ小さいその子、明らかに孤児だとわかるその姿に、あたしは手を伸ばして。
恐る恐るあたしの手に触れる彼。
触れ合っただけでわかる彼のその感情にあたしはしばし固まった。
ああ、この子はあたしと一緒だ。
生きることに精一杯で、人間が怖くて。
あたたかい感情も、幸せも、何もかも知らずに生きてきた。
自分を惨めだとも知らず、それでいて人間らしい感情も知らず。
動物のようにこの世界に漂って。
残飯を漁り、ねぐらを探し。
少しでも雨風が凌げればそれで満足し。
ただただ毎日を生きる。苦しいこともいっぱいあったけれど。飢えを我慢する日々も多かったけれど。
それでも、生きた。
クロコと一緒にまるまって寝ている間が一番幸せだったあの頃。
この子からクロコを取り上げるのは、そうは思ったけれど。
でも、あたしを見つけ嬉しそうに擦り寄ってくるクロコを残して立ち去ることなんか、もうあたしにはできなくって。
仕方がなくそのままそのこの手を引いて一緒にエグザ様のお屋敷まで帰ったのだった。
エグザ様はその男の子にレキシーという名前をつけた。
って、歴史からとった? 多分そうだろうとは思うけど。
無愛想なままだったけれど、レキシーにあたたかいミルクとご自分のパンを分け与えてくれたエグザ様。
連れ帰ったあたしを怒るでもなく。
かといって困惑するでもなく。
ただただ淡々と接してくれたエグザ様。
彼は、人間が好きなのだ。
あたしはその時にそう理解した。
あたしがここにきてからも決して人付き合いが良いようには見えなかったエグザ様。
人を拒絶しているのかのように、ひたすらうちに籠って。
買い物でさえきたばっかりのあたしに任せる始末だ。
お金ももたせ買い物に出かけさせるだなんて、普通買ったばかりの奴隷にはさせないよって八百屋のおかみさんもそう言った。
あたしのことを奴隷って思ってたらそんなことはさせないって。
まああの爺さんは変わってるからねとも言ってたけどそれでも。
エグザ様は、人と付き合うのは好きではないらしいけれど、決して人嫌いではないのだと。
あたしはそう感じていた。
きっと。そう。
流石にそのままレキシーをここに置いておくことはできなかったのか。
子供を育てるつもりはなかったってことなのか。
レキシーは孤児院に預けられることになった。
孤児院の院長さんがお屋敷にきて数刻エグザ様と何か話をしたかと思ったら、その日のうち保護されることとなったレキシー。
あたしと離れることになった時には泣いてたけど、それでもきっと孤児院にいた方が暮らしも勉強もちゃんとできるはず。
きっと幸せになれるはず。
そう信じて笑顔で送り出したのだった。