来襲。
いつしか。
人の世が段々ときな臭くなっていきあちらこちらで戦火が巻き起こっていったとある夜のことだった。
「老師、おいでか!?」
バタバタと数人の足音がしたと思うとあたしが扉を開ける前に男たちが中に踏み込んできた。
長い剣を腰に下げ軽鎧を身に纏った男たちは、ずいぶん不躾に言った。
「おい、そこの女中。エグザ老師はご在宅か」
と。
「ええ、エグザさまはお二階の自室に籠って研究に明け暮れています。ここ数日はお食事も喉を通らないほど集中しておりますので……」
どうか静かにしてほしい、そういう意味合いで喋ったあたしにその男はそんなことは関係ないとでもいう顔をして。
「主人が老師の力をご所望だ。我々とともに同行してほしい」
そういうなりそのまま土足で二階に踏み込もうとしたそいつら、シャーっと威嚇するクロコを蹴飛ばしてお待ちくださいと止めようとしたあたしも突き飛ばされて。
「ああクロコ」
あたしは自分も腰を打って体が痛かったけれどそれでもクロコの方が心配でなんとか彼女のところまで這って行って抱きしめた。
「なんじゃお主ら!」
バタバタと階段を上がったそいつらはそのままエグザさまを羽交い締めして連れ去ろうとしたのだろう。
「みくびるでない!」
そう言って魔法を発動したエグザさまに弾かれて階段の下まで飛ばされてきた。
「っく、このじじい、おとなしくしていれば調子に乗りやがって」
どこが!?
そう突っ込みたいところだったけれど。
その男たちは剣を抜き、階段の下から威嚇して。
「ばかもん! お前らの主人に言え! わしは戦争には加担しない。お前たちが自分たちの私利私欲のために始めた戦争なぞ負けて仕舞えばいいのだ!」
剣を抜いた男たちを一喝するようにそう怒鳴るエグザさま。
ああこれで。
おとなしくこいつらが帰ってくれたら。
そう思ったあたしは甘かった。
「おい、そこの女!」
男たちの一人があたしに剣を向けて。
「エグザ老師、この女を殺されたくなければおとなしく我々に同行して貰おうか!」
リーダーらしき男がそう、あたしに剣を向けている男に目くばせしながらそう階下からエグザさまに迫った。
ああだめ。エグザさまだめ。
こんな奴らの言いなりになっちゃ、だめ。
あたしのそんな気持ちも通じてはいたのだろう。エグザさまは悲痛な顔をしていた。
彼は一度目を瞑り。
そして、その目をカッと見ひらいて。
「よかろう。要求を飲もう。その代わりその子には手を出すな。手を出せばお前たちもお前たちの主人もタダでは済ませない。良いな!」
と、そう言った。
エグザさまはバタバタと支度をし、そして最後に。
あたしを見て優しい声で、あたしの頭を撫でながら。
「カペラ。ここには当面お前が一人で暮らしていけるだけの金くらいは残してある。わしが戻るまでこの屋敷の管理を、わしの蔵書を全て任せたぞ」
そう優しい笑みを残し男たちとともに屋敷を出て行ったのだった。
そして彼は。そのままついぞ戻ることはなかった。