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禍の魔女。

「姫さまはどんな御本がご希望でしょうか?」

「姫さまのお好きなローズティ、お持ちいたしますね」


 あたしたちは別室の閲覧室に通された。

 流石に王太子がその他大勢と一緒に普通に図書館を使うわけにもいかないらしい。

 自分で本を物色してみて回るのも楽しいんだけどな。

 そうは思ってみたもののどうせ今はあたしではなくクラウディアの時間だ。

 それならば本が読めるだけでも嬉しい。そう考えることにしたあたし。


 どうせなら、ね?

「歴史の御本、歴史の御本を読みましょう。歴史、面白いですわ」

 そう心の中で囁いてみせる。


 どうかな。通じるかな。通じるといいな。

 そんなふうに願いながら。


「ではわたくしは歴史の御本を読んでみたいですわ」


「歴史に興味があるの? ディア」


「いえ、もうじき学園に入学すればそうしたお勉強が待っているとお父様に教えてもらいましたから……。その予習をしておこうかと……」

 最後は声が消えそうなくらい小さくなって。

 顔も真っ赤になっているディア。


「はは。そうだね。一緒に歴史の勉強をしようか」


 そうにっこりと微笑む殿下にディアの顔は俯くばかりで。


 もう、顔を真っ赤にして恥ずかしがるのはいいけどいい加減にしておかないと殿下にも愛想尽かされちゃうよ?


 あたしはそんなふうに心の中で指摘をしてみるも、ディアはますます萎縮していく。


 ふう。どうしたらいいんだろ?



 フロスティがワゴンに本を乗せ部屋に戻ってきた。

 タビィはお茶の用意をしてきたみたい。


 っていうか御本を読みながらお茶を飲むだなんて。

 汚しちゃったらどうするつもりだろう。


 そんなふうに不安に思いつつも、ここが王宮で彼が王太子であることを思い出し苦笑するあたし。

 そうだよね。

 何がなんでも御本優先だったあの頃とは勝手が違うのだ。

 きっと本を汚してしまう心配よりも、高貴な方々が快適に読書を楽しめる方がここでは優先なのだな。そんなふうに思い返す。


「歴史の本を見繕ってまいりました。こちらは帝国時代、古き時代のもの。そして帝国崩壊から聖王国への歴史。戦争の絶えなかった中世。禍の魔女による混乱期。そして現在の近代史となります」


 はう。禍の魔女?


「禍の魔女期か。聞いたことはあるけれど詳しくは知らないな」


「わたくしは近代史からでお願いします」


「わかりました。では殿下が混乱期、姫さまには近代史をどうぞ」


 フロスティがそう分厚い御本をあたしたちの前に差し出した。


 金色の刺繍が入った分厚いその表紙は赤い煉瓦のような文様が入って。

 そこにやはり金の糸により近代史との文字が浮かぶ。


 禍の魔女って言葉に少し引っかかりを感じたあたしだったけど、タビィが持ってきてくれたローズティが甘くて香りがとてもよく。


 そのまま御本に夢中になってしまったあたしは殿下が読んでいる方の本のことは忘れてしまっていた。

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