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真っ赤に染め上がって。

 ガタン。


「待ってください!」


 あまりのその横暴にアマリリスは立ち上がり大声を張り上げた。

 普段だったら絶対に出さないほどの。

 そんな声であったけれど、ドアをぶち破る重装歩兵の突撃にかき消される。


「お前ら、騙したのか! 油断させておいてこれか!」

 泣き腫らしていた目を擦りカペラは両手を掲げ風の魔法を起こした。


 玄関を入ろうとしたその兵士を突き飛ばす。それだけの威力を持って放たれたそれは、ファランクスたちの盾に描かれた魔法陣によってかき消された。


「っく!」


 魔法がかき消されたことに気がついたカペラは次は氷の塊を飛ばす。


 拳大の雹が数個カペラの手のひらに集まったかと思ったら、それが一斉に放たれ突撃する。

 も、

 それもまた、その盾に当たると同時にかききえる。


「ハハハ。無駄だ無駄無駄むだぁ! お前如きの魔法なぞこのファランクスの前では子供の微風にもならんわ! 観念して屈服するがいい!」


 セキレイのそんな非情な声が響きわたる。

 声を拡散する拡声魔法。

 屋敷中に響き渡るその声はどこから聞こえているのかわからず、セキレイに一矢報いたいと思うカペラは地団駄を踏んだ。


 じわじわと屋敷の入り口を壊しながら突進してくるその重装歩兵の前に飛び出したのは聖女アマリリスだった。

 両手を広げ、カペラを庇うように立つ彼女。


「おやめなさい! 彼女は話し合いに応じてくれていました。このような不埒な狼藉は許されませんよ!」


 そう叫ぶ聖女。


 ファランクス軍団に一瞬動揺が走ったかに見えたけれど、それはセキレイの一喝によってすぐに治る。

「不埒ですと!? 我々は国の法に則ってこちらを接収しに来たまで。それに対して反抗しているのはそこの野良魔道士ではないですか! 聖女さまも見たでしょう? 我らに向かって魔法を放つその姿を!」


「でもそれは……」


 聖女アマリリスがそう言い淀む隙に、「やれ」と背後に指示をするセキレイ。後ろに隠れていた魔道士がカペラに向けアイアンアロー《鋼鉄の矢》を撃った。


「ダメだ! 姉ちゃん!」


 カペラの背後にいたレキシーが、咄嗟に彼女を突き飛ばし。

 そしてその矢はレキシーの胸を貫いて。


「レキシー!!」


 振り向きレキシーを抱き止めるカペラ。

「ねえカペラ。俺、姉ちゃんに受けた恩、返せたかなぁ」

「ばか! そんなもん! 死ぬんじゃないよ、今治してやるから!」

「あは。ばか、かあ。ああ、カペラ姉ちゃんが無事でよかった……」


「ああ、あああああああ、ああああああああああああ!!!」



 ###########################################







 あたしは渾身の力で回復魔法を放ったけれど、それは間に合わなかった。

 目の前にいた聖女さんもこちらに向けて回復魔法を放っていたけどそれでも。


 そうさ。死んじまった命を蘇らせる回復魔法なんてこの世には存在しない。

 回復魔法はあくまで生きている人間を助ける魔法だから。

 魔法は魔法だ。万能じゃない。


 ああ。


 あたしはなんてちっぽけなんだろう。


 あたしはなんで間に合わなかったんだろう。


 あたしは、あたしは。



 あたしの心の中で何かが弾け。

 魂の奥底が真っ赤に染まるのを感じていた。


 あたしは。いやだ。


 こんな、嫌な世界。


 どうなっても構うものか!


 真っ赤になったあたしは、きっと身体中が血で染まり。


 その後のことはよくわからない。

 激しい感情に飲まれたあたしにはそれ以上、何も考えることができなかった。

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