恋
こんばんは、シラスよいちです。
レポート終わりません。教育関係の単位全部落としましたGG
って感じで息抜きに作った一作です。今回は近代作品風味
彼女の名は林檎と云った。鼻の高い美貌としなやかなスラツとした体つきは外つ国の者と見間違う程だった。
彼女を目の前で奪われ、斬殺される。あと1センチメヱトル、手が伸ばせなかった。
私と彼女は親の決めた許嫁同士で、この冬を越えて帝大を卒業してしまえば式を挙げる手筈となつていた。
最初は親同士が身勝手に決めた見合いの話、互いに良い気はせず固く薄い笑みと会釈を突き合わせてばかりだった。
それが変わったのは、親に言われ渋々彼女と逢い引きさせられたときである。
自らの恥を忍んで諸君らには申し上げておこう。
私は、到底彼女に見合う男とは思えない地味で陰気な性であった。見てくれは、此れと云った特徴もない長髪の青年である。学業だけはひと一倍やったと自負しているが、それによって現在も将来も豊かになっているとは到底言えない。勿論女性とお付き合いしたこともなく、其れの嫁となれと言われる眉目秀麗、柳眉倒豎の彼女が何を考えているかなど検討もつかず私を困らせた。
「家柄だけの私なんかと見合いをさせられる彼女は幸福なのだろうか」
私は普段から武士道や西洋思想をやるので変に理屈を考える癖がついていた。
そこで当日、彼女を迎えに行き暫く歩いた頃にふと声をかける。
「林檎お嬢さん、若し私と逢い引きするのに不満があるならどうか素直にそう仰つて下さい。さすれば私は今日一人で遊び歩けるだけの銭だけ渡して此の場を去りますから」
其れを言うと、私は袂に財布があるのを一寸確かめ彼女の答えるのを待つた。
すると彼女はこう答えた。
「いえ、何も貴方様に不満があるのでは一切ありません。然し私は怖いのです。私は貴方様を好く知りませぬし貴方様も私のことは好く知らないでしょう。今日この先一緒に街でも歩いてみて、私達がどうやら上手くいかなそうだと思つてしまったときのことを想像してしまうと居ても立つても居られなくなるのです」
成る程、彼女は私より幾分か前向きに物事を捉えて居たのである。私はこの件を常に後ろ向きに捉えていたが、彼女は前と後ろどちらを向こうかキヨロキヨロとしていたのであつた。
男は度胸、女は愛嬌なんて言葉が在るがどうも此処一番となると女の方が度胸というものを発揮する。
この考えを聞いた私は、彼女の余りの賢さと人柄とに眼を見張つた。
「気分を害すると思うが、私は今まで見目麗しい女はみな容姿を武器に男に媚びるものだと思つていたが、林檎さんは其れに比べて随分と賢いね」
今まで神だ仏だを研究していた私は、二十二の年月で初めて信心に値するものと会いまみえたのだ。生まれて初めての宗教が君だつたのである。それほどまでに彼女は私の美観を震わせた。
「君をもつと知りたい。今日一日、私と出かけてくれませんか?」
かの夏目先生は、「こゝろ」で恋は罪悪であるとか、恋は宗教であるとか書いてらしたが、それを実感するときが来るとは思わなかつた。一人自分にこんな感情があったことに驚いている暇もなく、相手の返事を待つ。
「私も、あなたがこんなにも気遣いが出来る紳士とは知りませんでした。ぜひヱスコート、よろしくお願いしますね」
そう言うと彼女は楽しげに笑い私の数歩先でスキツプなぞして歩いている。それを見て、私もなにとなく幸福をかみしめる。このときばかりは学業も家柄もない。甘く甘い幸福に酔い、将来の生活への期待に酔いしれた。
表通りを歩く。
どこからともなく辻斬りが表れて、廃刀令の世にあるはずもない刀をさも当たり前のように抜き、すごい速度で彼女に近づく。
「林檎ッ」
叫んで手を伸ばすが、すでに遅かつた。彼女を包んでいた華やかな赤の着物が、胸元からさらに赤黒い染みが広がっていく。その中心には鈍く光る刃___
視覚情報を受けて、何を思うより先に下手人を殴り倒し、彼女から引き剥がした。
すぐに刀を彼女の身体から抜き、私の上着を巻き付ける。
「林檎さん、林檎さん、林檎さんッ」
ただただ身体を支え、名前を呼ぶことしか出来ない。下手人は遠くで軍警に差し押さえられている。
彼女は私に弱弱しく笑いかけると、全力を持って私に言葉を紡いでくれる。
私の感情も狂乱の最中であったが、それでも彼女の最後の言葉を聞き取らんとじつと彼女の顔を見入る。
「ふふ、私つたら堅苦しいお家の呪縛から解き放たれるなんて浮かれていました。」
彼女の口から血が吐かれる。
「私のことなぞ早く忘れて、貴方だけでも幸せになってくださいませ」
彼女の温度が消えていく。瞳が閉じられる。腕がだらんと垂れ下がる。
私はただ、先刻まで息していた腕の中の彼女を呆けたように見つめていた。
あれから半年が経ち、式をあげるはずだった春も過ぎ梅雨となった。朝、霧の立ち込める庭を縁側に座り流れていた。
あのときもつと速く動けていれば、普段からもつと武芸に精進していれば___
「いいですか、君。恋は、罪悪ですよ」
何故か口に出していた。意味もない学問ばかりしていた代償がこれだ。
あの頃、聖書との睨み合いに夢中であつた。
アダムとイブは林檎の樹になる禁忌、知恵の実を食し神々の怒りを買つた。
愚かな人間の始まりである。
私もその一人、知恵ばかり接種した凡人でありながら身に余る幸福を望んだ罰だ。
愚かな人間は、その身に余る甘美耽美を狂ったように求め続ける。
けれど確かに、禁断の果実は甘かつた。
どうでしたか?レポート期限明後日なんで足早に終わらせますね笑
感想等お待ちしておりますッ!また次回お会いしましょう、晒す与一でしたー
(ここまで早口)